血友病電話相談で現実を知る
主人は軽症の先天性血友病Aでした。術前検査で血液凝固にかかわる時間(APTT値)が39.3秒(当該病院基準値25.1~39.8秒)で上限に近い値でした。なので、補充療法は必要なしと判断され、術後の出血で気道が圧迫され窒息しました。
それはセンター調査報告書の中にも明記されています。
その報告書に「再発防止策について」という項目があり、その中に「学会等に向けての提言」というものが盛り込まれています。その中の一つが下記です。
【 ● 軽症先天性血友病Aを有する患者への対応について
日常生活において治療が必要でないとされている軽症先天性血友病Aの患者が手術および手術に準じる治療を受ける場合などに、事前に実施されるべき検査(血小板、プロトロンビン時間、活性化部分トロンボプラスチン、第Ⅷ因子活性、フォン・ヴィレブランド因子)・治療(凝固因子補充療法)、連絡先などを記載したカードを携帯できるようにすることが望まれる。 】
私は、この赤字部分のカードが実際にあるのかどうかがずっと気になっており、2016年6月に電話相談をした「MERS血友病電話相談」に連絡をしてみました。
男性でIさんという方が丁寧に答えてくださいました。
Iさん 『病院ごとの制度によって違いますが、血友病の専門医がいる病院の半数くらいはカードを配っていると思います。』
私『半数ですか…それは統一されたカードなのですか。』
Iさん『病院ごとに独自に出していると思います。実は血栓止血学会の血友病部会ではそういう話も出ています。ただ、日本の血友病患者は1万人~2万人に一人なので、ご主人の例が多いわけではないのです。』
私『軽症の血友病Aの人には、凝固因子補充療法を準備するなどのガイドラインはないということですか。』
Iさん『残念ですがまだありません。実は、血友病患者で、APTT値が基準値以上でも術後の出血が少ない人もいて、血友病の専門医のいるところは用意しますが、一般の外科では凝固因子補充療法をするところは少ないのが現実なんです。』
私は日本の医学界の矛盾点をまた一つ見たような気がしました。
《数が多くないと動かない》
私はIさんに『医療事故調査制度を利用した報告書ではそういう提言が出ているので、ぜひ学会や部会などで話題にして頂きたいと思っています。』とお願いしました。
Iさんは穏やかな声で『わかりました。』と言って下さいました。
最後に私に息子が一人いる話をしました。Iさんは『お嬢さんだったら遺伝することになりますから注意が必要でしたが、息子さんなら遺伝することはありませんね。』と言って下さいました。
私は『はい。息子を大切に育てたいと思います。』と言って電話を終えました。
なにか釈然としない心持でしたが、現状がわかってまた課題が出来たような気がしました。
今後どうするか、また気持ちを整理して考えたいと思います。