携帯によろしく 第十一章(1)

ふたりは病院に着くと、
いつものようにエレーベーターに乗り、
7階まで行き、ナースステーションで会釈をすると、
前を通り、病室に入ったのでした。

ふたりが入ってくると、母の菊枝がイスから立ち上がり、
「だいぶ時間がかかったんですねえー!??」
「ふたりの声を優に聞かせてやってくださいね!?」
と言ったのでした。

「マイクを買ったりしていたもので!?」
「時間がかかってしまいました!?」
「すいません!?」
と言って一平は菊枝に向かってお辞儀したのです。
そして一平は、
「では小百合さん!?セットしてください!??」
と言ったのでした。

「はい!?」
と小百合は答えると、ベットのところに行き、
今入っているCDと入れ替えたのです。
そしてスイッチを入れ、優からヘッドホンをはずし、それを自分の耳にあて、
録音した声がちゃんと聞こえるか確認したのでした。
すぐに巻き戻すと、
「きれいに聞こえてます!?」
と言って、再び優にヘッドホンをあてがったのです。

それから小百合は、折りたたみイスを2脚持ってきて広げ、
「一平さん!?お座りになってください!?」
と言ったのでした。
「ありがとうございます!。」
と一平は言いイスに座ったのです。
すぐ隣に小百合も座ったのでした。

ちょうどベッドを挟んで菊枝と一平が向かい合ったのです。
「あした小百合さんがお見合いだそうですね!?」
「俺はきょう・あした休みなので!?」
「あしたの支度(したく)もあるでしょうから!?」
「お帰りになって支度をしてください!?」
「面会時間が終わるまでここにいますから!?」
と一平が言ったのでした。

「一平さん!?お気づかいなさらなくても、よろしゅうございますわ!?」
「お見合いは11時までにホテルに行けばよいので!?」
と菊枝が笑みを浮かべ、そう言ったのです。
「そうですかー!??」
「では7時までごいっしょさせてもらいます!?」
と言って、会釈をした一平でした。

「きょうも面会時間終えましたら!?」
「お食事ごいっしょしていただけますわよねえー!??」
と菊枝が言うと、
「あしたお見合いなのによろしいんですか?!」
と一平が驚いて言ったのでした。

「もちろんですわ!?」
「ねえー!?小百合さん!??」
と菊枝が言うと、
「ええー!?」
「ごいっしょしてくださいますわ!?」
「ねっ!一平さん!??」
と小百合は少しはずかしそうに言ったのでした。

「おふたりがよろしいなら!?」
「かまいませんけど!!?」
と答えた一平でした。

「ナツさんも楽しみにしていましたわっ!?」
「一平さんはきれいに残さず食べてくれるからって!!?」
と菊枝がうれしそうに言うと、
「そうですかー!?」
「ナツさんの料理はどれもすばらしくおいしいので!?」
「残すなんてもったいなくてできませんよー!?」
とうれしそうに一平は言ったのです。

「あしたの日曜日も面会時間はいっしょなんですね?!」
「1時からここに来ていますから!?」
「でも親戚(しんせき)の方や知り合いの方が見えたら!?」
「困りますね!??」
と一平が言うと、
「届け出ている名前の方しか病室に入れませんから!?」
「それに、日曜日はナツさんに来てもらうことになっていますので!?」
と菊枝が言ったのでした。

「そうなんですかあー!??」
「じゃあー!?誰か来ても問題ないんですねっ!?」
「よかった!!?」
と安心したように言った一平でした。

「午後からせっかくのお休みがつぶれてしまいますが?!」
「よろしいんですか?!」
と小百合が言うと、
「はい!?いてもなんのお役にも立てませんけど!?」
「ここに来て意識が戻るように祈ることしかできませんから!?」
と一平が言ったのでした。

それからしばらくして菊枝が何気なく優を見ると、
閉じているまぶたから、涙が一滴(ひとしずく)出ていたのです。
「優が涙を!!?」
と言うと菊枝は、
急いで緊急コールボタンを押したのでした。


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