携帯によろしく 第十一章(11)

「私はしばらく病室には来ていませんでしたが!?」
「少し髪の毛が生えてきたみたいですね!?」
「手術とはいえ、女の命も同然の、髪の毛を切らなければならないなんて!?」
とナツさんは、涙ながらに言ったのでした。

「最初の頃がどうだったかわかりませんが!?」
「確かに、少し毛が見えています!?」
と一平もそう言うと、
頭を水泳キャップのようなもので覆っている優の顔を見ると、
かわいそうで、思わず涙を流したのでした。

ふたりともハンカチを取り出し、涙を拭いたのでした。
それからしばらく沈黙の時間が過ぎたのです。
「ところで!?きょうナツさんは何時頃までここにいるのですか!?」
と一平が言うと、
「奥様が小百合さんのお見合いが済んだら、すぐこちらに来るそうです!?」
「わたしは、お宅の留守番をしなければならないので戻りますが?!」
と、ナツさんは答えたのでした。

「では日曜日も休めませんねえー!??」
と一平は言うと立ち上がり、
「優がこんな状態ですので!?」
「たいへんでしょうが、よろしくお願いいたします!!?」
と言ってお辞儀をしたのでした。

すぐにナツさんも立ち上がり、
「旦那様にも奥様にもお世話になっているので!?」
「わたしたちは、たいした事はできませんが!?」
「小百合さんのお力(ちから)になって上げてくださいねっ!?」
「よろしくお願いいたします!!?」
とナツさんは言うと、お辞儀をしたのでした。

「えっ!!?」
と言ってから一平は、
「実は私には、結婚を前提にお付き合いしている方がいるんです!!?」
「ですので!?小百合さんのお力には、正直なる事ができません!!?」
「本当に申しわけありません!!?」
とナツさんに言うと、お辞儀をしたのでした。

「そうでしたか!?」
「うすうすは感じてはいましたが?!」
「結婚を前提にお付き合いしている方がおられたのですかー!??」
「申し訳ございません!?」
「つい、でしゃばりまして!!?」
と言うとナツさんは、お辞儀をし謝ったのでした。

「いや!?いいんですよー!?」
「だいいち、わたしの住んでる世界とは違うような気がします!!?」
「感覚が違うというか?!」
「なんと説明していいのかわかりませんが!??」
と言うと一平は、イスに腰掛けたのでした。

一平は何気なく優の顔を見ると、
涙が1滴、このあいだと同じように溜(た)まっていたのです。
「ナツさん!?優の目のところに涙が!!?」
と一平は言うとすぐに、緊急コールボタンを押したのでした。
「どうなさいました?!」
と看護師の声が聞こえたのです。

「今見たら、優の目に涙が溜まっていたのです!!?」
と一平が答えると、
「今すぐそちらに伺いますので!!?」
と、看護師が言ったのでした。

そして看護師がふたり、すぐ病室に入って来たのです。
「今すぐ先生が来ますので!?」
「ちょっとそのままお待ちください!!?」
と言うとひとりの看護師は、
機械のところまで行き、ノートパソコンをたたいたのでした。

「最初に見つけた方はどちらですか?!」
と看護師が訊くと、
「はい!わたしです!?」
「話を5分か10分かわかりませんが!??」
「話したあと見たら、涙が出ていたのです!!?」
「このあいだとほぼいっしょだと思います!!?」
と一平は答えたのでした。

「おふたりとも申しわけありませんが!?」
「先生が来られるので!?」
「そちらのほうで座って待っていただけますか?!」
と看護師が言ったのでした。

一平とナツさんは折りたたみのイスを持って、ベットから遠ざかったのです。
しばらく待っていると、
「どうも!?」と言って、医師が病室に入って来たのでした。

医師は看護師と話をしたあと、
「きのうとお同じ状態のようですね!?」
「申しわけありませんが!?」
「あしたは、医学会の会合に出席しなければなりませんので!!?」
「留守にしますので、診(み)ることができません!?」
「代わりの先生に事情を説明しときますので!?」
「何かありましたらすぐに看護師をお呼びください!!?」
と言うと医師は、看護師に涙をきのうと同じように、
採取するよう指示したのでした。

涙の採取が終わると、医師と看護師ふたりは会釈をし、
病室から出て行ったのです。
「ご苦労様でした!!?」
と一平とナツさんは言うと、お辞儀をしたのでした。

それから一平とナツさんは、
ベッドの両側にイスを持って来て座り、
お互いの身の上話をしたのでした。
時間が経ち、三時を過ぎた頃、
病室を小さくコンコンとたたくと、ドアが開いたのでした。

これで、お。し。ま。い。
第十二章へ続く(予定?!)

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