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『雑記』 1996年 「勝間田哲朗『錯綜する迷宮銀河の考古学』」
『雑記』 1998年 「上條陽子の転回」 「切断と積層が 生む新世界─上條陽子の新作群について─」 「呉一騏 水墨画の新次元」
『雑記』 1999年 「安藤信哉・自在への架橋」  「呉一騏 水墨画の21世紀へ」 「深沢幸雄・人間存在への深い眼差し」
『雑記』 2000年 「内田公雄の絵画世界」  「水墨の原理・易経の哲理」
『雑記』 2001年 坂東壮一手彩色銅板画集「仮面の肖像」
『雑記』 2002年 「坂部隆芳『山王曼荼羅図』」  「ヴァンジの彫刻について」  「記憶の塔ー上條陽子の箱」
           「蒼天の漆黒 内田公雄『2002 W−8』」    「久原大河 『才難は、この若者に降りかかった』」
『雑記』 2005年 「世紀を越えて−大矢雅章と佐竹邦子」   「生動力と構造力 佐竹邦子作品への視点」
『雑記』 2006年 「佐竹邦子の21世紀的展開」
『雑記』 2007年 張得蒂「尊敬すべき人生追及──日本三島市K美術館及び館長越沼正先生に ついて」



『悠閑亭日録』Diary2012年

気になる展覧会

  今和次郎 採集講義展   藤牧義夫展   戸谷成雄展  ユベール・ロベール展

2月29日(水) 空白の起点
 味戸ケイコさん、3月1日(木)お昼に来館、午後2時まで滞在予定。

 雨なのでバス。冷たい雨。春は遠い。静かに過ぎてゆく。

 笹沢左保『空白の起点』(1961年初刊)講談社文庫1982年7刷を読んだ。第五長篇。東海道線の東京行きの急行列 車が熱海を過ぎ、真鶴を通り過ぎた海岸線に沿った地点で、崖の上から男性が突き落とされるのを車内の人が目撃。 落ちた男性は、目撃した十九歳の女性の父親だった。その女性、鮎子の描写。

《 なんという鮎子の神秘的な容貌だろう。男の欲望をそそるような媚態や性的な魅力は微塵もない。それでいて、 触れてみたい欲求を抑制することができないのだ。通俗的な表現をすれば、魔性の吸引力とでも言うのだろうか。》

 笹沢左保が本格推理小説とロマンの融合を狙った小説だという。それはある程度成功している。一読者としては、 酷薄な犯行理由と仰天トリックだけで十分な気がする。それはさておき、「空白の起点」はいい題だと思う。

 ネトの見つけもの。

《 仏の顔も 4度の受難  上野大仏 》


2月28日(火) 戸谷成雄展
 味戸ケイコさん、3月1日(木)お昼に来館、午後2時まで滞在予定。

 吉本隆明・梅原猛・中沢新一の三人による討論記録『日本人は思想したか』新潮社の続き。

《 中沢 まったく一向宗の思想は、日本人の宗教思想の中でも珍しく、一神教的な側面を持っ ています。(引用者:略)たくさん神様はいるんだけれども、拝む時は阿弥陀如来一仏を選べというかたちで、多神教 の中から自然なかたちで一神教に成長してくるような特徴を持っています。(引用者:略)いずれにしても、キリスト 教と浄土真宗の中には、アニミズム的で多神教的な土台から、自然に一神教のほうへと成長していく流れがあるんじ ゃないか。(引用者:略)近代的なものは、一向宗やキリスト教的なものの成長の挫折と転向のうちから形成されてき た、とも言えるわけですからね。》168-169頁

《 梅原 つまり多神教と言うけれど、『古事記』の中に既に一神教的な萌芽がある。特に日本 の明治以来のナショナリズムでは、日本の多神に含まれた一神教の要素を拡大した。それが日本の明治以来の国家主 義になっている、というふうに考えられますね。》185頁

《 梅原 今年(一九九四年)、京都は遷都千二百年ですけど、都をつくったのは桓武天皇です ね。桓武天皇を祀った神社は平安神宮。平安神宮は百年前にできた。それ以前に桓武天皇を祀った神社はないんです ね。》199頁

《 梅原 だから、超克についてどう考えるかというと、近代世界というものはもう明らかにだ めだと。やっぱりデカルトやベーコンが考えるような近代の論理ではもはや世界はやっていけなくなっている、とい うことは痛切に感じるんですよ。》228頁

 楽しい雰囲気で会話が進んでいるけれど、やたらに深い知見から発せられているので、見過ごせない発言ばかり。

 昨日の午後は隣町のヴァンジ彫刻庭園美術館の企画展、戸谷成雄展へ行った。これはいい! 以前銀座の佐 谷画廊で見た作品が展示されていたけれど、狭い画廊での印象とはがらっと違って、作品の魅力が十分に引き出され ていた。これでなくては。広い展示スペースに整然と立つ木彫の木。庭園への出口に置かれた細長い木彫。などなど。 どの作品も場所を得て、深々とした存在感を燦然と放っている。ヴァンジの立体造形にみごとに拮抗している。壮観。 チラシがひどくて、気乗りがしなかったけど、展示はじつにいい。あのチラシは何なのか。

 たまたま読んだ某ブログに戸谷成雄展が重なる。

《 いい展覧会では、説明のパネルが少ないことが多い。つまり作品、展示物にキチンと語らせようとしているから である。展示物のキャプションは、あくまでもレジュメであって、論文であってはならない。テーマは展示と対応し ていく内に自ずと観覧者に感じさせていくものだろう。》

 大阪市立中央図書館から安藤信哉画集寄贈の依頼書。

《 当館では、国立国会図書館に納本されたリストの中から、利用者の調査研究、教育の向上等に役立てるため、貴 重な資料の寄贈をお願いしております。》

 きょうのうなずき。

《 「いかに生きるべきか」ではなく、「いかに生きているか」に注目する。 》


2月27日(月) 休館日
 味戸ケイコさん、3月1日(木)お昼に来館、午後2時まで滞在予定。

 用事を済ませたついでにブックオフ三島徳倉店へ自転車を走らせる。加藤実秋『インディゴの夜 ホワイトクロ ウ』東京創元社2008年初版、小森健太朗『大相撲殺人事件』文春文庫2008年初版、柳広司『吾輩はシャーロック・ ホームズである』角川文庫2009年初版、文藝春秋・編『私たちが生きた20世紀』文春文庫2000年初版、計420円。

 吉本隆明・梅原猛・中沢新一の三人による討論記録『日本人は思想したか』新潮社1995年5刷を読んだ。何日もか けて少しずつ読んだ。じつに濃い内容なので、どこまで読み込めたか、はなはだ心もとない。活字になった会話は、 彼らの知識のほんの氷山の一角にすぎない。隠れた部分の知識まで降りていかないと、発言の奥行きまで理解が届か ない。それは、私には無理というもの。討論の上っ面を滑空してるようなもどかしさをずっと感じていた。読了して 付箋を付けたところを読むと、ふうん。

《 中沢 日本の神道は二重性を持っています。ひとつは、伊勢神宮的な神道です。(引用者: 略)これはのちの国家神道にも深いつながりを持つことになります。ところが日本の神道には、もうひとつ鎮守様の 神道がある。吉本さんの言い方をお借りすれば時間とか習俗、そういうものの中につながりを持つ神道があり、その 二重性を通して、日本人は神様というものを思索してきた。》26頁

《 梅原 ギリシャの哲学が自然から人間へという方向があるのに対して、日本の思想はどうも その逆の方向じゃないか。》70頁

《 梅原 だから中世という時代は、律令体制によって押さえられていたさまざまな妖怪が生き 生きと活躍する、そういう時代だと思いますね。》156頁

《 梅原 法然と親鸞の違いは、法然は明晰な理性を最後まで失わないんですよ。親鸞は、片一 方では非常に論理的なところがあるんだけど、さわりに行くとまったく情念的になる。法然のほうは、最後までいつ も明晰なのです。情念が抑制されている。そこが僕は大きな違いだと思うけどね。》181頁

 明日へ続く。


2月26日(日) 結婚って何さ
 味戸ケイコさん、3月1日(木)お昼に来館、午後2時まで滞在予定。

 雨がパラパラ。えいやっと自転車で来る。着いてからは本降りに。ネットの天気図ではここだけ雨雲。昼には止 む。

 笹沢左保の長篇第三作『結婚って何さ』(1960年初刊)光文社文庫2001年初版を読んだ。

《 「頓馬! 自分の力で働くんだ、お金がいるから職業を持つんじゃないか。とやかく言う権利は誰にもないわ」 》

 威勢のいい二十歳の女性に振りかかる殺人容疑。警察の目を必死にかいくぐり、逃亡を続けながら、彼女を殺人犯 に仕立てた真相と真犯人を探すスリリングな推理小説だ。一気読み。かっちりした構成の『招かれざる客』『霧に溶 ける』に較べて軽快な読み物になっている。都合のいい出会いに、二時間ドラマを連想。

 1960年の一年で『招かれざる客』『霧に溶ける』『結婚って何さ』そして『人喰い』の傑作秀作四作を刊行すると はすごい筆力だ。四作とも五十年後に読んでも鮮やか。新人よ、しっかりせい。

 ネットのうなずき。

《 影響力の強い方には、感情的で2項対立を煽るような発言よりも、意見の違う人間を結びつけ、発展的な議論に 結びつくような画期的な提案をして頂きたい。》


2月25日(土) 霧に溶ける
 味戸ケイコさん、3月1日(木)お昼に来館、午後2時まで滞在予定。

 雨なのでバス。富士山は雲霧に隠れる。

 笹沢佐保の長編第二作『霧に溶ける』(1960年初刊)光文社文庫2000年初版を読んだ。山前譲の解説から。

《 物語の背景となっているのは、多額の賞金や賞品とスターへの道が約束された、化粧品会社主催のミスコンテス トである。(引用者:略)いよいよ最終審査という頃、ひとりは自動車事故で入院し、ひとりはガス中毒で死に、ひ とりは棚から落ちた磁器の下敷きとなり、ひとりは冷蔵庫の中から死体となって発見されたのだ。》

《 全編を貫く犯罪計画そのものも不可能興味が溢れている。五人の有力なミス候補のうち、被害にあっていないの は、たったのひとりである。》

《 だが、ようやく解き明かした密室トリックを、彼女が用いることは不可能であった。密室の謎のさきに、今度は 犯人の謎が立ちはだかる。》

 ドミノ犯罪と言うか、よく考えたものだ。アクロバティックなトリックに脱帽。

《 『霧に溶ける』の犯罪計画は、ある意味では机上の犯罪であり、書き方によってはトリックだけの作品になって しまうだろう。だが、笹沢氏は、ひたむきな恋心やミス・コンテストの確執を小説として描くことで、リアリティあ る本格推理に仕上げている。》

 そのとおり。本格推理小説の醍醐味を堪能。小説中にはうなずく言葉がいくつもある。そのひとつ。

《 批判はしても実際には何の援助もしてくれない世間が、どう思おうと構ってはいられない。やはり私自身が最善 の道と判断した通りに進むより仕方がないのだ。》「危険な立場〈追ワレル者ノ章〉」

 ネットのうなずき。

《 じっとして動かない。動かないことで見えて来るものがある。動かないからこそ、動いたものの変化がわかるの だ。何でもかんでも動けばいいわけじゃない。》


2月24日(金) 招かれざる客
 お昼前は広島県から味戸さんの絵を観に来館者。午後は堺市の職員の方を源兵衛川などへご案内。どちらのお客さ んも満足されただろうか。できることはしたから、ま、いいか。

 笹沢左保の第一長編『招かれざる客』(1960年初刊)光文社文庫1999年初版を再読。山前譲の解説から。

《 長篇推理『招かれざる客』は「事件」と「特別上申書」の二部構成になっている。いわば「事件」が問題編であ り、つづく「特別上申書」が推理編である。》

《 暗号、鉄壁のアリバイ、密室状況で消失した凶器、隠された動機と、さまざまな謎が重層的に読者を推理の迷宮 に誘う。それが探偵によって徐々に、かつ論理的に解かれ、真相が明らかにされる。これこそまさに本格推理の醍醐 味である。》

《 探偵はあくまでも与えられたデータから推理する。倉田警部補が推理を重ねていく姿に思わず引き込まれ、最後 まで一気に読んでしまうのが後半の「特別上申書」である。》

 そのとおりなんだなあ。ミステリの醍醐味を堪能。再読したのは、毎日新聞「この人この3冊」が笹沢左保だったから。「木枯し 紋次郎」シリーズ、『招かれざる客』そして『人喰い』。『人喰い』は内容を覚えていたけど、『招かれざる客』は 内容をすっかり忘れていた。再読途中で少し思い出したけど。時間のトリックは後年、綾辻行人『時計館の殺人』で も使われた。

 ネットの拾いもの。

《 芸能ニュースで、家賃滞納しているオセロ中島の部屋から

  複数の荷物が、宅急便のトラックで運び出された、と報じていた。

  荷物の中には、八角形の鏡などとか、霊能者の所持品もあって

  これを運んだ宅急便は、「魔女の宅急便」と呼ばれるのだろうか。》


2月23日(木) 富士山の日
 昨夜九時のNHKニュースでアメリカ政府の3.11原発事故への対応の議事録を放送していた。最悪の事態をも 想定した詳細な検討。日本政府は議事録もない。 原子力エネルギーポスター展。見事なまでの負の遺産。

《 「これからもずうっと、原子力」
  「We need 原子力」
  「流した汗は信頼の証 未来にともす原子の灯」
  「未来の君へ 希望をつなぐ 原子力」
  「原子力も一役、地球温暖化ストップ!」
  「英知の結晶、原子力」
  「将来への備え、原子力発電。」
  「作る人、使う人の信頼で輝く原子力の未来」
  「ひまわりとプルサーマル」
  「徹底します、これからも」
  「Energy Recycle プルサーマル」
  「5月は『原子力エネルギー安全月間』です」
  「求める安全、伝える安全、社会と築く原子力」
  「謙虚な学びと責任感、誇りを胸に安全確保」 》

 富士山は分厚い雨雲に隠れる。視界不良。

 ネットのうなずき。

《 小心と保身をなんとかしないと、どんどんつまらない人間になる。》


2月22日(水) もののはずみでOK Go
 アメリカのロックバンドOK Go の新作ビデオ「 Needing/Getting 」は愉快。こういうすっ飛んだ大きバカ演奏、大好き。もののはずみでやっちゃったんだろうなあ。

 午後、隣町の長光寺の住職が山芋を持ってきてく れる。お礼に昨日持ってきた親指ピアノを進呈。その後来館した友だちに堀江敏幸『もののはずみ』角川文庫を貸す。

 ネットの拾いもの。

《 田舎者が東京の街を歩くと、道行く人の半数が芸能人に見えます。

  田舎者が大阪の街を歩くと、道行く人の半数がヤクザに見えます。》


2月21日(火) もののはずみ
 堀江敏幸『もののはずみ』角川文庫2009年初版を読んだ。二ページたらずの短いエッセイが五十篇。それぞれに写 真が付いている。これはいい。他愛ない古物への愛着ある何気ない言葉遣いに、和やかな共感がゆるやかに広がる。 名エッセイ集だと思う。今まで読んだ彼の文章で最も惹かれる。友だちに貸したくなる。もう一冊あれば贈呈したく なる。それにしても簡素きわまりない装幀(高柳雅人)だ。

《 男女のあいだがらだけでなく、「もの」たちの世界でも、組み合わせというのはとても神秘的で、一筋縄ではい かない。》「空気が一変した」

《 ところがそのおじさんのスタンドには「物心」が満ちあふれていた。けっしてきれいではないけれど、隣り合っ て置かれている「もの」たちのバランスが絶妙なのだ。(引用者:略)するとおじさんは、ちらりと私に目をやって、 犬か、地球儀か、と訊いてきた。犬です、と応えると、彼はなにも言わず立ちあがり、奥の箱からべつの犬を出して きて、そっと横にならべた。
 空気が一変した。彼らはまるで、幼稚園の頃からの友だちみたいにたたずんでいた。》

 自宅の部屋の隅に放置されていた段ボール箱から古物ニつを美術館へもってきた。昭和の時代、東京のレコード店 で買ったアフリカのちゃちな親指ピアノと、タイ製の木彫りで、楕円形の鳥かごに小鳥が入っている掌に乗るもの。 来館したベテラン木彫作家が、鳥かごを手に乗せてしばし眺めていた。ちゃちだけれども、とぼけた味わいがある。

《 もしかすると、「物」じたいより、背後にあるさまざまな「物」を語ることのほうを、物語のほうを大切にして いるのかもしれないのである。》「あとがきにかえて」

 名画の観賞にはこれ「背後にある物語」がしゃしゃり出て、観賞のさまたげになることがままある。困ったことだ。

 私にはいまのところ縁のない花粉症。

《 このハナミズを止めるにはどうすればいいんだろう……。

  (1)善行をほどこす (2)巡礼の旅に出る (3)嘘をついたり見栄をはったりせず正直に生きる (4) 薬を飲む 》


2月20日(月) 休館日
 黄昏は心を他界へといざなう。ホイッスラー『青と金のノクターン-オールド・バターシー・ブリッ ジ』に惹かれる。

《 印象派の画家たちと同世代であるが、その色調や画面構成などには浮世絵をはじめとする日本美術の影響が濃く、 印象派とも伝統的アカデミズムとも一線を画した独自の絵画世界を展開した。》

 黄昏、夕暮れ、どちらでもいいが、その青から紺青濃紺そして誰彼へと変幻してゆくひとときの青の諧調。ホイッ スラー、レオン・スピリアールト、小原古邨、高橋松亭そして川瀬巴水。そして味戸ケイコ。青き流れのノクターン。

 寺山修司『幻想図書館』河出文庫1993年初版、「書物に関する百科」から。

《 本は、その内容においては世界の暗喩たり得るのだが、形においては「ただの紙の束」である。

  だが、こうした「紙の束」が、人々を狂わせ、しばしば人の一生を狂わせてしまったりするのだ。》

《 本は、あらかじめ在るのではなく、読者の読む行為によって〈成らしめられる〉無名の形態に他ならない、ので ある。》

 しかし、読む前に問題が立ちふさがっている。

《 『クリスマスのフロスト』を読み終え、マイクル・コナリー『真鍮の評決』を読み始めたのだけど、改めて文字 の大きさの違いに驚く。1ページの文字数を数えてみたら20年前の創元文庫は42文字×18行=756文字!創元推理文 庫の文字数は今も同じ。拡大せずには読めない…。》

 『クリスマスのフロスト』は創元推理文庫、『真鍮の評決』は講談社文庫。


2月19日(日) 妖女のねむり
 昨日は夜の集まりまで余裕があったので寒風の中、神田神保町の古本屋街を歩いた。今浦島の気分。店頭の均一 台で二冊。田中啓文『辛い飴』東京創元社2008年初版帯付、山口昌男『道化的世界』ちくま文庫1986年初版、計200 円。小宮山書店のガレージセールで三冊。中西進『日本文学と漢詩』岩波書店2004年初版帯付、吉行淳之介『星と月 は天の穴』講談社1970年初版帯付、アーウィン・ショー『緑色の裸婦』草思社1983年初版、三冊で500円。他に欲し い図録などがあったけど、重くなるので見送り。

 ブックオフ長泉店で四冊。麻生荘太郎『闇の中の猫』東京創元社2009年初版帯付、森敦『わが風土記』福武書店 1982年初版、大佛次郎『終戦日記』文春文庫2007年初版、高井有一『時の潮』講談社文芸文庫2007年初版、計420円。

 米澤穂信が「泡坂妻夫の3冊」で選んでいたので、泡坂妻夫『妖女のねむり』ハルキ文庫1999年初版を読んだ。新 潮社から出た元本は、当然新刊で購入済み。これは掛け値なしの傑作本格ミステリだ。偶然出会った若い二人が前世 ではなんと恋人同士だった! そして輪廻転生に彩られた恋人が殺人事件に……。誰が何のために。驚天動地の真相 が明らかになる。なんと鮮やかな解明。

《 本書はミステリーを愛する者ならば、何度生まれ変わろうとも出会わなければならない、まさに逸品中の逸品で ある。》(細谷正充の解説)

 事件の構造は、辻真先『ピーターパンの殺人』に通じる。げに恐ろしきものは……。

 ネットの拾いもの。

《 阪神大震災でこたつで寝てたら天井が落ちてきたけどこたつの天板で支えられて生き残った俺。だから、こた つだいすき。

  こたつに足を向けられないな。》


2月18日(土) 臨時休館/2014年問題
 2014年問題とは。1964年の東京オリンピックに合わせて、国中が建設ラッシュに湧いていた。当時建設され た公共施設が50年を経て耐用年数を迎えるのが、2014年。道路、橋そして市民ホールなど、再建築の資金は潤沢に あるわけではない。どうすればいいか、という政治の問題で取り上げられている。私には、それは美術作品の問題 になってくる。そこを飾っている壁画や彫刻だ。いい作品がある。解体する時にもらってきたくなる物件がいくつ もある。しかし、そんな重いものをどこに置くか、が問題。指をくわえて見ているしかないか。

 美術館は臨時休館。午後東京へ。体調を考慮して、展覧会へは行かず、晩の集まりだけに出席。

 ネットの拾いもの。

《 ある男が結婚しようと、新聞広告を出した。

  「妻を求む」

  何百通と届いた手紙。内容はすべて同じだった。

  「私のをあげますよ」 》


2月17日(金) ことばのこだま
 18日(土)は休館します。

 昨日までの数日、曇天、雨、雪とさんざんな天気で、沈みがちな気分だった。未明の雨が上がり、気持ち良い晴 天。年末までの計画を決め、深呼吸。やはり今年は潮目だ。

 昨日の原石鼎の句。

《  行く春の近江をわたる烏かな  》

 近江つながりで尾沼しづえの短歌。

《  近江なる湖(うみ)のほとりの彼岸花額田王の睫毛がそよぐ  》

 河野裕子の短歌。

《  たつぷりと真水を抱きてしづもれる昏き器を近江といへり  》

 大景のなかの一点景、烏の黒。その反転。金子兜太(とうた)の俳句。

《  暗黒や関東平野に火事一つ  》

 上田三四(みよじ)の富士。

《  金泥の西方の空にうかみいで黒富士は肩の焼けつつ立てり  》

 昨日友だちとの会話で観覧車が話題に。乗ったことがない。栗木京子の短歌。

《  観覧車回れよ回れ思ひ出は君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ)  》

 一生(ひとよ)。下村光男の短歌。

《  海ホテルとおく他界のごとく昏れけぶりたつ けぶりてをゆかな一生は  》

 他界。葛原妙子の歌。

《  他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆふぐれの水  》

 静岡県島田市が募集した「愛する故の悪態」コンテストの入賞作から。

《  なぜ海へ行くかって? そこに女房がいないからさ  》

《  主人です 言いたくないので 置いていく  》

《  旅プラン 妻に話すと 行って来な。  》

《  こだまでしょうか?勉強しろと父が言い母が言い祖母が言う  》

 一昔前の御教訓。

《  老いては子に下がええ (二階建て住宅) 》

 今の御教訓。

《  老いては子を養え〜 (二世帯住宅) 》


2月16日(木) 吉野の花
 18日(土)は休館します。

 お昼に小雨が小雪に。四月に催す牧村慶子展の案内葉書が出来たという電話。明日の配達を待ちきれず、小雪舞う 中、自転車を走らせて受け取りに行く。美術館で開封。いやあ、いい出来〜。牧村さんへさっそく郵送。反響が楽し み。

 原裕・編『原石鼎句集 吉野の花』ふらんす堂1996年初版を読んだ。

《 全作品の中より虚子選の作品のみ427句を収録 》

 古本の塔から眼について抜き出した文庫サイズのこの句集を何気なく開いたページに下の俳句。

《  春鹿の眉ある如く人を見し  》

 先月ギャラリー志門から恵まれた冊子『ドローイングとは何か   第2回公募入選者展』で気になっていた優秀賞の平野果林という若手画家の「 in the amulet 」2011年を連想。そ れに惹かれて読んでしまった。いい俳句がいくつもある。気に入ったのはこんな句。

《  山畑に月すさまじくなりにけり

   山門の日に老鶯のこだまかな

   花烏賊の腹ぬくためや女の手

   味噌汁に根深もすこし浮く秋ぞ

   谷深く烏の如き蝶見たり

   剪りとつて燈下に赤し菊二本

   盤石に垂れて小さき簾かな  》

 以上は昭和十二年に出た自選句集『花影』に載っている作品だが、私のとても気に入った下の俳句は洩れている。

《  行く春の近江をわたる烏かな  》


旧日録 2012年 1月  2月

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