勝間田哲朗個展『錯綜する迷宮銀河の考古学』に寄せて


 氏の作品は人間という有機生命体と、天文学でいう大宇宙との間に横たわる壮大なる隔たりを越えて 共振し、波動する極微的な接点の生動から生まれる。
 人間も大宇宙も、究極は素粒子という極小単位の物質から構成されている、という根源的な通底意識。 また、大宇宙は極小点からビッグバンを経て今も膨張を続けている、その過去の一過程において発生した 生命から進化した人間、という大宇宙との同源思想。そのニ側面への強烈な時間、物質、空間意識が、 氏の作品の基底を成している。
 氏は、その強烈な自覚から生まれる表現衝動を、言葉(文字)という物質━━ある一定範囲の人間にしか 理解され得ぬ手段では充たされず、この大宇宙の構成物質であるもの、つまり鉛筆や絵の具というそれだけ で、宇宙の一構成物質となる絵画によって、充足させようとしてきた。
 文字という物質は、大宇宙の一過程におけるある一時期の、一定範囲の人間にしか理解されないという限界 がある。けれども、絵画という物質は、宇宙のこれからの、もしかすれば全過程において、また文字の限界を 遥かに越えた人間に到達し、理解され得る可能性を有している。
 自らの生体活動は、この大宇宙とは全く無縁ではあり得ない。なぜなら、自らは宇宙の一構成要素だから。 その一構成子である自らが、この大宇宙の一過程に存在したという証しとして、宇宙からのはるかなる波動を 心身の奥底で受け止めている我が身の、その受信の自己認識を、指先の筆に移す行為こそが絵画と成る。 よって、絵画は常に増殖をつづける。それは宇宙の生成の過程の投影━━考古学のようなものとなる。

 勝間田哲朗 個展『錯綜する迷宮銀河の考古学』に寄せて    越沼正    1996 11 6

注:
私の考えた「錯綜する迷宮銀河の考古学」という題で、1997年に個展が催された。
いきさつ等は2004年8月5日の「日録」を参照のこと