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『雑記』 1996年 「勝間田哲朗『錯綜する迷宮銀河の考古学』」
『雑記』 1998年 「上條陽子の転回」 「切断と積層が 生む新世界─上條陽子の新作群について─」 「呉一騏 水墨画の新次元」
『雑記』 1999年 「安藤信哉・自在への架橋」  「呉一騏 水墨画の21世紀へ」 「深沢幸雄・人間存在への深い眼差し」
『雑記』 2000年 「内田公雄の絵画世界」  「水墨の原理・易経の哲理」
『雑記』 2001年 坂東壮一手彩色銅板画集「仮面の肖像」
『雑記』 2002年 「坂部隆芳『山王曼荼羅図』」  「ヴァンジの彫刻について」  「記憶の塔ー上條陽子の箱」
           「蒼天の漆黒 内田公雄『2002 W−8』」    「久原大河 『才難は、この若者に降りかかった』」
『雑記』 2005年 「世紀を越えて−大矢雅章と佐竹邦子」   「生動力と構造力 佐竹邦子作品への視点」
『雑記』 2006年 「佐竹邦子の21世紀的展開」
『雑記』 2007年 張得蒂「尊敬すべき人生追及──日本三島市K美術館及び館長越沼正先生に ついて」



『悠閑亭日録』Diary2012年

気になる展覧会

  今和次郎 採集講義展   石子順造的世界

1 月15日(日) 闘う女
 お昼まで立教大学で学んでいる社会人15名を、源兵衛川などへ案内。途中二度、川に伸びた枝に留まっている翡翠(カ ワセミ)を堪能。午後一時開館。

 斎藤美奈子『月夜にランタン』筑摩書房2010年初版を読んだ。いつもながらの鋭いツッコミの空気投げには、眼が洗われ る思い。自らの子羊様、不甲斐なさを痛感。サイトウミナコはスゴイ。最後の項目「ベテラン作家の純文学をジャックする 『闘う女』の怪」では、村上春樹『1Q84』と大江健三郎『水死』を俎上に上げて以下のように結ぶ。

《 それにしても、この国のノーベル賞に一番近い作家とノーベル賞作家がともに「女性を描きたい」と意欲を燃やした結 果が、強姦小説+妊娠小説であることをどう考えるべきか。あ、そーか。「女は性器で考える」っていうことか。「セック スは両足の間(性器)に、セクシュアリティは両耳の間(脳)にある」という言葉もあるんですけどね。世紀の「闘う女」 にそんな小理屈は不要なのであろう。》

 ネットの拾いもの。

《 テレビをダラ見してたら、CMに「樹木希林」が出ていて、

  バラエティ番組では、小倉優子で出ていて、相変わらず、「ユーコリン」と呼ばれていた。

  その後、芸能番組で、AKB48の柏木由紀という人が「ゆきりん」と呼ばれていた。

  それから、ニュースで広島刑務所から脱走した「李国林(りこくりん)」が報じられていた。》


1 月14日(土) 痛い異体字
 昨夕帰りがけにブックオフ長泉店で二冊。斎藤美奈子『月夜にランタン』筑摩書房2010年初版帯付、小池和夫『異体字の 世界 旧字・俗字・略字の漢字百科』 河出文庫2007年初版、計210円。夕食後、『異体字の世界』をさっそく読んでみた。 漢字漢字漢字のオンパレード。見たことのない漢字が犇いている。うわ、恐るべし。文字通り文字禍の本か……。これぞ漢 字天獄。160頁「常用漢字表に示されていない旧字体」から。

《 画数が変わらないだけでなく、活字では違いがあっても、手書きでは違わないものがほとんどです。例えば「しんにょ う」の違いだけでも、込巡迎近返迫迭迷追退送逃逆逐途通逝速造連逮週進遂遇遊運遍過道達違遠遣適遭遮遵遷選遺避還縫導 が、(引用者:略)と四七字もあります。熟語をいちいち挙げるのはやめておきます。》

 途中で寝てしまった。

 午前中は源兵衛川最下流部のヘドロ除去などの作業に参加。汗を流す。午後一時開館。

 『全集 美術のなかの裸婦 11 現代の裸婦』集英社1981年初版、山口昌男の解説「記号としての裸婦」を読む。

《 いずれにせよ、日本近代の『洋画』の裸婦があれほど夥しく制作されたにもかかわらず西欧の芸術世界にインパクトを 与えていないように見えるのは、決して技術の問題のみで説明できるものではない。こうしたイメージの精神史の匿れた水 脈に触れる前提が、『こちら』の『近代』の側に欠けていたと言っては言い過ぎであろうか。西欧の眼にとっては、日本の 『近代』の裸婦は見えなくても浮世絵の枕絵のなかの女性に『植物的』に繁茂する原母の姿を見なかったと断言することは 難しい。》

 ネットの拾いもの。

《 正月に実家に帰ったら、両親が「これ」と「あれ」と「それ」だけで

  会話していた。ボケたんだか別の能力に目覚めたんだか、よくわかわんw  》


1 月13日(金) 機智・奇知・バンバン
 昨夕帰りがけにブクオフ長泉店で二冊。綾辻行人『深泥丘奇談』メディアファクトリー2008年初版帯付、エラリー・クイ ーン『靴に棲む老婆』創元推理文庫1998年52版、計210円。

 毎日新聞昨夕刊、コラム「肉声再生 プレーバック」玉木研二は、1970年1月に亡くなった喜劇王エノケンへの演劇評論 家尾崎宏次(ひろつぐ)の言葉を紹介している。

《 喜劇はまじめにやるから喜劇になるのだということを持説にしていた。これは卓見だと思う。》

 しかし、喜劇は悲劇より格下に思われていた。黒澤明が映画でエノケンを起用したら、横槍を入れられた。黒澤明は『蝦 蟇の油』でエノケンについて書いている。

《 「立派な喜劇俳優のエノケンを愚弄するものである。喜劇は悲劇に劣るのですか。喜劇俳優は悲劇俳優に劣るのですか 」 》

 別の紙面。「POPS こぼれっ話」川崎浩から。お題は「若者に変化が? 60年代歌手のCD続々」。

《 21世紀の「若者」は、単純に「旧世代の旧文化は駆逐すべし」には向かわないようなのだ。どうも、「若者の怒りや思 いのたけをストレートに吐き出すことのみぞ、正しき文化なり」という、半世紀前にでき上がったステレオタイプな構図こ そ、再考の必要な時であり、今の「若者」はそれに気づいているのではないか。》

 久原大河君のポスターが人気上昇中だと、昨日再訪したソウルノートのマスターから聞いた。ソウルノートの壁面を埋めて いる満艦飾の手描きのポスター群は、面白いものを創ろうと、真面目に必死に考えて創られた、微笑を誘うものばかり。同 行した女友だちは、えらく関心を示し、その麻のズタ袋の隅を触って、とてもく感心していた。どれも既知の名作に敬意を 払い、換骨奪胎し、機智に富み、奇知に飛んだ作品に仕上がっている。ソウルノートにはオリジナル一点ものがバンバンあ る。必見。

 封筒やクリアファイルは近所のダイソーで買っている。ネットの拾いもの。

《 ダイソーにかわいい店員がいるけど あれも100円なの?

  ごえんがないよ。 》

《 まるで作り話みたいだけど本当に作り話なんだ。 》


1 月12日(木) メイン・ディッシュ
 グラウンドワーク三島事務局から急遽頼まれ、午後二時間ほど閉館、県会議員十四名を事務局長と一緒に源兵衛川に案 内。

 北森鴻『メイン・ディッシュ』集英社1999年初版を読んだ。十篇の短篇を収録。続いて集英社文庫版も。文庫には一編 が追加収録。文庫裏表紙の紹介から。

《 ユーモラスで、ちょとビターなミステリ連作集。》

 美味しそうな料理がふんだんに出てくる点では昨日取り上げたビアバー香菜里屋シリーズと同じだけれど、これは一冊 で完結している。文庫の千街晶之の解説に深く同感。

《 一作一作に工夫が凝らされ、払った値段に見合ってお釣りが来るほどの満足感を与えてくれるのだから。そのプロフ ェッショナルな仕事ぶりは、複数の短篇を繋げてひとつの長編をかたちづくる、連作ミステリというスタイルを選んだ時 に、特に冴え渡るのである。》

《 一皿一皿に技の限りを投入し、決して手を抜かず──それが北森鴻というシェフの揺るぎなき信条である。》

 ネットの拾いもの。

《 「働いた後の飯はうまい」と言うが べつに働いてなくても飯はうまいぞ。》


1 月11日(水) 香菜里屋を知っていますか
 昨夕帰りがけにブックオフ長泉店へ寄る。先月25日に紹介した事例を目撃。

《 今年に入って増えているビームセドリは、小型バーコードリーダーを使って、2段バーコードを読み取ることで、作 業効率を高めているようだ。棚のすべての本をサーチすることを全頭検査というと聞いて笑ってしまった。それにしても、 2段バーコードがまさかこんなカタチで使われる時代が来ようとは思わなかった。》

 中年の男女、女が全頭検査、男はカゴ持ち。目の当たりにして、なんか拍子抜け、手ぶらで出た。

 東京新聞朝刊に味戸展の記事が載る。さっそく女性から電話「味戸さんはいつ来館されますか?」。三月になるでしょう と答える。

 北森鴻『香菜里屋を知っていますか』講談社2007年初版を読んだ。『花の下にて春死なん』『桜宵』『螢坂』に続くビ ア・バー香菜里屋シリーズの最終巻。香菜里屋の意味が解き明かされる。ロマンだなあ。カナ、カナ。三島市の男性と別 れて北国へ帰っていった若い女性を思い起こさせる。住所録に残された彼女の手書きの住所に、彼女はまだ一人で暮らし ているのだろうか。

 この本でも美味しそうで料理したくなる食べ物がつぎつぎに出てくれるが、今回も省いて気に入った寸言を。

《 ほんの小さな日常の欠片(かけら)があるか否か、それだけで人の幸福は左右される。》「プレジール」

《 バーとは時間を置き去りにすることができるらしい。》「プレジール」

《 変化はいつだって些細なことから始まる。予兆は人に気づかれることなく提示され、思わぬ形で開花する。》 「終幕の風景」

《 始まりはいつか終わりへと繋がる約束のようなものだ。》「香菜里屋を知っていますか」

《 終焉はまた開始への約束でもある。》「香菜里屋を知っていますか」

 みごとな結末だ。この四冊、再読疑いなし。

《 「キミは、どうしてそんなにも口が減らないかな」

  「口が減ったら、おいしいものが食べられなくなるもん」》「香菜里屋を知っていますか」

 先だってテレビで知った川柳。

《 ヨレヨレが素早く動くバイキング 》


1 月10日(火) 巨吉
 昨日はその後、友だちの車に同乗して沼津市獅子浜にあるタ ムタムギャラリーへ、主の立体造形作家田村映二氏を訪ねる。氏から住友商事の今年のカレンダーを見せてもらう。 六枚の絵は一点一点、気の遠くなるなような作り込み。過去の作品、キャラクター総登場、タムタムワールドの集大成と いえる朗らかなものになっている。懐かしき未来という言葉が浮かんだ。ここで表された無理のない緩やかな生活こそ、 これから向かうべき世界ではないか。百カ国以上の国へ配られるという。

 昨日話題の久原大河君の個展の推薦文『才難は、この若者に降りかかった』へのお礼の葉書 があった。《 感激しました。》そんなこともあったなあ。最初の出会いのポスターは2000年4月8日に三嶋大社境内で催 された早坂紗知、鬼怒無月らのバンドのジャズコンサート。伊豆新世紀創造祭の無料イヴェント。歌麿のビードロを吹く女のパロディで、サックス を吹いている女の先には三嶋大社のおみくじ。そこには手書き文字でこう書かれている。

《 第十八番 巨吉 

  運勢  万事成りゆきのままに身をゆだねる事。運気はいまのところ停滞しているが、四月八日の夜七時に三嶋大社 を訪れれば、日本のサックスクイーンなる者が、四人の化け物をひき連れて現れ、物事はひとりでに発展してゆく。短気 を起こさずわくわくとして待て。 

  金運  たとへ文無しでも幸せなり。

  待人  早坂紗知がスタアアラップ・スペシャル・メンバアでやってくる。

  病気  少しばかりイカれているのも健康のうち。

  縁談  四月八日、夜桜の下のウルサイ場所にて行えば良し。

  学業  放ったらかせ。

  願望  これ以上ナニを望む。》


1 月 9日(月) 休館日
 昨夕帰りがけにブックオフ長泉店で二冊。井上靖『わが母の記』講談社文芸文庫1997年初版、沼田まほかる『猫鳴り』 双葉文庫2011年11刷帯付、計210円。

 昨夜は昨日取り上げた久原大河君のポスターとチラシをファイルに整理。微笑を誘う絵柄とコピー。それから先月移 転したレストランバー、ソウルノートへ行き、久闊を叙す。久原大河君のポスターが壁面を埋めている。常連たちが飾っ てくれたと、マスター。その常連たちと久しぶりの乾杯。

 昨日取り上げた北森鴻『螢坂』の「猫に恩返し」にこのくだり。

《 「それが……デイモン・ラニヤンの」

  「ええ、『ブロードウェイの天使』です。作品では黒猫ではなく少女ですが、ノミ屋の男に担保として預けられる くだりも、例の話と同じです」》

 昼前、『ブロードウェイの天使』新潮文庫を読んでみた。……泣ける。これは効く〜。加島祥造の訳もいいのだろう。


1 月 8日(日) 螢坂
 大河アーチスト久原大河君から数年ぶりに年賀状。東京にいると思っていたら、福岡へ引っ越していた。

《 元気でやってますか〜?!人生とは不思議なモノですな! 》

 の下に伴侶となった知人女性の書き込み。へえ〜、彼女と結婚したのかあ。いい組み合わせだ。彼のポスターを評価 して早や十年。ネットで検索するといろいろなところで個展をしている。彼の真骨頂はそのとぼけた味わいが最も発揮 されたポスター、フライヤーにある。ウチでいつか展覧会をしようとポスターなどを保存している。

 北森鴻『螢坂』講談社2004年初版を読んだ。五篇を収録したこの巻も、どれも複雑な筋、予想外の結末が待ち受けて いる。『花の下にて春死なむ』『桜宵』に増して美味しそうな料理が出てくる。それらの描写はさておいて。

《 いいかい、この世にはニ種類の不幸がある。百グラム八千円の最上級の牛肉ばかりを食べ過ぎて、一本百二十円の モツ焼きの美味さを忘れてしまう不幸。百二十円のモツ焼きしか食べることができずに、百グラム八千円の牛肉の味を 知らない不幸。どちらも同じくらい不幸なんだ。もっとも幸福な人間は、双方の美味さを知りつつ臨機応変に、そして 貪欲に美味を追求する。》「孤拳」

 沼津市の牛山精肉店へ三田牛を買いに行きたくなった。……なっただけ。

 ネットの拾いもの。ほんとにあった去年の出来事。

《「清掃作業員が芸術作品に描かれた模様をシミだと勘違いしブラシでこすり取る」(ドイツ) 》

《「銀行強盗、窓口係に『もう閉店です』と言われ、何も奪わず逃走」(ロードアイランド州) 》

《「長年かけて部品を集め、本物の飛行機を完成させたが、地下室から出せず、壁を破壊」(ペンシルバニア州) 》


1 月 7日(土) 直木賞候補
 恩田陸『夢違』が直木賞候補に。期待してしまう。この小説、泉鏡花賞が相応しいと思うが。午後、中日(東京)新 聞の取材。

 北森鴻『桜宵』講談社文庫を読んだ。収録された五編どれも違った趣向で余韻深く読ませる。北森鴻、一流の小説家 だった。だった、と書かねばならないのがつらい。それにしても、毎回美味そうな料理が出てくる。現物を賞味したく なって困る。

《 口にしてすぐにわかったのは、春巻きの外側の皮は生湯葉。中身は松茸にとどまらず、鱧の千切り、三つ葉のみじ ん切りが混ぜ込まれている。春雨の代わりに使われているのはくずきりだ。横に添えられた気泡には鰹節、昆布の濃厚 な味がつけられている。それが口に入るやたちまち溶け出し、旨味のみを残して消えてゆく。》「旅人の真実」

 ネットの拾いもの。

《 冷凍のモチがあるというので解凍してみたらイカだった。》

《 ご飯モノで一番安いオニオンスライス頼んだらご飯じゃなかった・・・》


1 月 6日(金) 臨時休館
 ご近所のお葬式の世話人を仰せつかったため、休館。

 昨夜は北森鴻『花の下にて春死なむ』講談社文庫を再読。六編を収録。「家族写真」の一節。

《 読み終わった本を返し、次は誰の本にしようかと、彼は迷った。山本周五郎は好きな作家だが、何冊も続けて読む には少々しんどい。隆慶一郎は借りたが最後、今夜眠れなくなりそうで恐いし、吉川英治は長すぎる。》

 巧いことを言う。前世紀、三島駅南口からすぐの小路に、隆慶一郎の「不肖の息子」がスナックを開いていた。六編 どれも巧い。安心して読める。

 葬儀の後の納骨まで参列して帰宅。肩の荷が降りた。夜、北森鴻『桜宵』講談社文庫の前半二編を読む。『花の下に て春死なむ』に始まるビアバー香菜里屋シリーズの第二作。

《 東急田園都市線三軒茶屋の駅から商店街を抜け、いくつかの路地の闇を踏みしめたところにぼってりと等身大の白 い提灯が浮かぶ。それが、この《香菜里屋(かなりや)》の目印である。》「十五周年」

 「十五周年」は、岩手県花巻市から東京へ出てタクシー運転手をしている若い男が、女友だちの母親が営んでいる小 料理屋の十五周年記念パーティに招待され、故郷へ帰って起きた不思議な出来事の真相を探るという筋立て。

《 《千石》という、小暮夕海の母親が経営する小料理屋が特別なのではない。花巻市のそこそこにある繁華街、そこ に点在するすべての明かりの下で、同じ会話が交わされ、それが毎夜繰り返されるのである。》

 花巻。震災と巨大津波で壊滅的な被害を被った街。この若い二人の安否が気がかり。

 表題作「桜宵」もまた、余韻を長く残す。葬儀の後では一際印象深い。


1 月 5日(木) 味戸ケイコ新聞さし絵展初日
 明日6日(金)は臨時休館します。

 世の中、立派な絵があふれている。一般的に言って、立派な絵とは第一にデカイ絵。油彩画だったら、絵具がこれでも か、と盛り上がっているような。日本画だったら、金銀が多用されているような。そしてどちらも豪華な装飾が施された 額を誂えている。一人ではとうてい持ち運べない。二人でもやっと。立派な絵は美術館の団体展でよく見られる。

 立派な絵が幅を利かせる時代は終った、と感じる。いや、終りつつある。既に時代の潮目は変わった。味戸さんの11 0点の小さな絵(110mm×155mm)を見て確信する。この掌に乗る小さな絵は、あたかも時代を映す手鏡のよう。その風景 画には斬新な情調が潜んでいる。情緒ではなく情調。それは既成の諧調を踏み外している。と、一見思えるが、じつはそ こに今までにない情調が垣間見える。立派な絵が描き込んできた情調を、この小さな絵があっさりと越えて、それまでに ない多分二十一世紀の最先端の情調を描いている。尖端だから、絵も小さい(違うか)。

 その風景の情調は、二十世紀前半の川瀬巴水を通り抜けて十九世紀前半の安藤広重にまで遡るものかも。温故知新。 二十一世紀の絵画は、十九世紀半ば、印象派以前の絵画にまで先祖還りをして、そこからあらたな地平を見出す、と予感 しているが、その実例を味戸さんの絵に見た。

 先月の白砂勝敏氏の、誰も見たことのない木の椅子に続いて、今回は味戸ケイコさんの、誰も見たことのない絵画。そ こまで深く読み込んで見てくれる人が何人かいれば(……しかし、私の思い過ごし、勘違いということもある)。なには ともあれ、絵画は両手に負えない「立派」から片手に持てる「愛着」へと大転換してゆくのではないかな。

 ポプラ社から花束。去年十月に舟崎克彦・文/味戸ケイコ・絵『ここにいる』がポプラ社から出たからだろう。最初の 来館者は、時折来られる絵画コレクター。数の多さに仰天される。まあ、110点+常設だから。


1 月 4日(水) 開館初日
 明日は午後3時に閉めます。6日(金)は臨時休館します。

 天気晴朗なれども風強し。さあ、お仕事お仕事。味戸ケイコさんから電話。一時間ほど話す。敷居が低くて奥が深いの が、味戸さんの絵の特徴と伝える。今回展示してそのことをあらためて実感。世の中、敷居が高くて奥のない絵がまかり 通っている。

 昨日買った『谷内六郎展覧会 <冬・新年>』の大江健三郎の解説から。

《 子供を画面に描きこむことにより、その媒介者としての役割によってイメージをジャンプさせる。つまりは子供の想 像力の働きと並行したものを表現する。》

 明日初日を迎える味戸さんの新聞のさし絵を思う。

《 われわれが小説を読み絵や写真を見て、これは確かにこの世界にあるものを表現しているのだけれども、リアリティ ーがないな、と感じることがあります。そのリアリティーを、谷内さんの現実感というものにかさねたいと思います。》

《 そしてそれをつきつめて考えれば、眼に見え、頭の中で納得できる種類の、ここに「もの」がある、存在するという 域を超えて、動かしがたい現実感を見出すことがあるのに気がつくと思います。ここに集められた谷内さんの絵をよく見 るうち、本を閉じてから、身のまわりの事物、風景について《存在を越えたところにある現実感》を見つけていると感じ る、そのような体験をされる方は多いはずです。》

 「谷内さんの現実感」を「味戸さんの現実感」に、「谷内さんの絵」を「味戸さんの絵」に替えれば、今回展示してい る110点の見事な解説になる。

 ネットの拾いもの。

《 彼女ができたら、何して欲しいですか?

  養ってほしい。 》


1 月 3日(火) 休館・カッサンドラの嘲笑
 6日(金)は臨時休館します。

 太田忠司『カッサンドラの嘲笑』ジョイ・ノベルス2007年初版を読んだ。三篇収録。『遊戯(ゲーム)の終わり』『追 憶の猫』に続く「探偵藤森涼子の事件簿」シリーズ。この三作は、私にはツボだった。傑作というほどではないが、心地 良い読後感が後を引く。収録作の「バンシーの沈黙」には『甘栗と金貨とエルム』角川書店2006年の主人公甘栗晃が登場。 こういう交叉が愉しい。『甘栗と金貨とエルム』を読みたくなってしまうではないか。これは角川文庫で持っているのだ。 でも私の好みは彼女、藤森涼子なのだ。アラフォーの彼女、俳優なら誰だろう。篠原涼子? うーん。

 ブックオフ長泉店で七冊。泡坂妻夫『夢裡庵先生捕物帳 飛奴(とびやっこ)』徳間書店2002年初版帯付、福井爽人( さわと)『紫の雨』三月書房2004年初版帯付、『谷内六郎展覧会 <春><夏><秋><冬・新年><夢>』新潮文庫1982 年初版、計735円。本を買うにはそれなりの理由がある。谷内六郎の五冊は持っているけど、好きなので贈呈用。名前だけ 知っている日本画家の福井爽人の本は「美の十選」にジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「大工の聖ヨセフ」などが入って いるので。泡坂妻夫は大好きな作家。

 午後、駐車場の落ち葉を掃く。新しい箒だとこんなに掃きやすいとは。新年早々いい気分。


1 月 2日(月) 休館・遊戯(ゲーム)の終わり
 6日(金)は臨時休館します。

 新年初のお笑いは昨日深夜のNHKテレビ『ケータイ大喜利』。お題 「お見合いの席で余計なことを言うなあ、と思った発言」

《 根はいい子なんです 》

《 お互いこの辺で手を打ちませんか 》

《 あれ、今つき合っている子どうするの? 》

 ブックオフ長泉店で三冊。島田雅彦『悪貨』講談社2010年3刷帯付、太田忠司『カッサンドラの嘲笑』ジョイ・ノベル ス2007年初版、和田英松『新訂 官職要解』講談社学術文庫2009年39刷、計315円。

 今年最初の読了本。太田忠司『遊戯(ゲーム)の終わり』実業之日本社ジョイ・ノベルス2000年初版。私好みの佳作。


1 月 1日(日) 休館・元日
 昨夕帰りがけにブックオフ長泉店で一冊。大野晋・丸谷才一『光る源氏の物語・上』中央公論社1989年3版帯付。それ から自転車でブックオフ三島徳倉店へ。興膳宏『漢語日暦』岩波新書2010年2刷、中沢新一『はじまりのレーニン』岩波 現代文庫2008年3刷帯付、アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』ハヤカワepi文庫2008年初版、計315円。

 午前中町内会の新年挨拶会合を済ませ、昼過ぎ、美術館へ。年賀状を確認。出し忘れはなし。ブックオフ沼津リコー 通り店まで足を伸ばして初買い。伊坂幸太郎『魔王』講談社2005年初版帯付、太田忠司『遊戯(ゲーム)の終わり』実業 之日本社ジョイ・ノベルス2000年初版、バチャラー八重子『若きウタリに』岩波現代文庫2003年初版、アンドリュー・ヴァ クス『赤毛のストレーガ』ハヤカワ文庫2000年3刷、計420円。


旧日録 2011年 12月  

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