被爆者の叫び

『今も不可解な発熱』　毛利幸一さん

１９４５年８月９日、爆心地より１・３キロメートルの三菱長崎兵器製作所大橋工場の技術員 養成所にて魚雷学等の講義を受けるところで、年前１１時２分、真夏の太陽の下で稲光のような 光が数秒続きました。瞬間に長机の下へ入りました。

　その後ガラスの破片が粉末のようにしばらく降ってきました。出ようとしましたが、長机が爆 風によって吹き寄せられ、その上に木造の屋根が乗り、隙間より太陽の光がまぶしく照っていま した。机と椅子の間より片足は出て身体が出ないというように、すぐ出られませんでした。 　早く出た人が周りは火の海だと言ったので、慌てていたためなかなか出られませんでしたが、 やっと出ますと周りは燃えていましたが、 一カ所燃えていないところを走って工場の外へ出まし た。

　航空機魚雷生産の工場は、鉄骨むきだしでペチャンコにつぶれていました。道路はほとんど家 屋の倒壊（後消失）や火災でなくなり、見渡す限り人、馬等の死体ばかりです。浦上川の支流の 中に火傷した人等が入っていました。長崎本線（JR九州）のレールの枕木も焦げていました。 小高い丘へ上ると、見渡す限りどこまで燃えているのか分からない状況です。畑に火傷した人、 けがした人が避難していました。 １キロほど離れた地下工場へ山道を通り３時間ほどかかり着き ました。

　地下工場にはほとんど避難して残っていましたのは、１５歳から１７歳ぐらいの旋盤等の機械 を使っていた女子学生が３０名ほどいるだけでした。夜帰れるかと思い歩きかけました。火災と たくさんの死体であきらめました。夜遅く川の水で炊きましたおにぎりがありましたが、死体の 臭いで一個食べるのがやっとでした。

　翌日、女子学生と山から山を伝って帰りました。途中米軍の「この爆弾はB29重爆撃機２０００機 と同じ力がある」と書かれた宣伝ビラが落ちていました。家は瓦や建具が被害を受けました。６ 日後に戦争は終わり、学校の運動場や空き地で穴を掘り、 一度に２０人ほどの死体の焼却が始ま りました。被爆後２０日ほどして焼け跡に細い道が出来ましたので、爆心地を７日ほど往復して 地下工場へ図面焼きに行きました。その時、両足より放射能が入ったとのことです。

　１週間に１回ほど急な頭痛がして両足歩行不能になり、商店街等どこでも座り込みました。そ の後数週間に１回、数ヶ月となり、３０歳ぐらいの時は５年に１回となりました。被爆後、不可 解な発熱が時々あり、戦後５２年の今間隔が縮まってきました。

　終戦になり灯火管制もなくなり、夜も電気をつけられ、自由にどこへも出かけられ、平和でな いといけないと思いました。 (了）

　　　　　愛知県犬山市　平成９年８月１５日発行　
　　　　「平和を願って　戦後50年　犬山市民の記録」より転載


　　　　　※「ノーモア戦争平和シンポジウムに寄せて」
　　　　　　　（自費出版の館内の地方公共団体発行　ＮＯ.1）の
　　　　　　　”今も不可解な発熱”と同じ内容です。

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