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「銃後の妻の 戦中日記」 全文掲載 |
これは著者の平岡弥よいさんがご自身の青春時代であった21〜25才の頃の
銃後の生活の様子及び終戦後のご主人復員の頃までを日記にて書き残したものを元に
平成16年まとめ、自費出版にて発行されたものです。
昭和二十年(二十三才) 一月
昭和二十年 | 一月 元旦 | 決戦の年二十年度は明けた。 風はあるがとても良い天気だ。 新年にふさわしく 良く晴れた元旦で本当に気分も晴れやかになる。 お雑煮を祝ひ 出征中の主人と入営中の龍麿さん二人の陰膳とお母様そして 煕と私の五人でお祝ひする。 どうか主人も龍麿さんも今年も無事元気で御奉公が出来ます様 神かけて幾 重にも幾重にもお祈りする。 煕もどうか丈夫で健やかに大きく育ちます様 家内一同健全に暮らせます様 年頭に当たりお祈りする。 配給のお餅でも本当においしい。 広石の里からも少し貰う。 主人や龍麿さんも 其れぞれの地で お雑煮を頂けて居られる事だらうかと ひそかに身の上が思ひ起こされる。 |
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一月 二日 | 新年二日目のとても良い天気だが 今朝方より朝は大変寒さがきびしい。 新宅の恒吉さんのお宅より蓄音機を持って来て聞かせて下さる。 善七さん宅の清治さんが召集が解除になり帰って来られ 私宅へも御挨拶に 来て下さり、色々と軍隊の事をお話して下さる。 主人も此の方の様に無事に帰られる日が待遠しい。 |
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一月 三日 | お昼前、鳥飼の真柴さんが来られ、煕の誕生のお祝いを持って来て下さる。 巽さんからのもおことづかり頂く。 昼食をお出しし、ぢきに帰られる。 真柴さんも召集令が来たとの事だが、 眼が悪くて検査はずれになられたとの 事をお聞きし、案外で驚いた。 光子さんがレコードを持って来て聞かせて下さる。 三時頃、又敵機襲来があり、海の上の方を通ったやうだ。 |
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一月 四日 | 中島の峰次さん(平岡春次さんの弟)が亡くなり、お手傳ひに行かねばなら ぬのを、勝手して夕方お悔やみだけに行って来る。 香典を持って行く。 |
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一月 五日 | 午前中とても暖かで良い天気だったが、午後より大変寒く冷たい風だった。 昨日、朝鮮の安民兄さんの所より手紙が来て、今月の末に朝鮮を引き上げて 家族全部帰淡するとの事、八人の大家族が全員私の家へ来て、私達三人と十 一人の大世帯で一しょに暮らす事になるが、とてもとても大きな不安で、困 難な事はさけ様もなし。 此方の志筑の女学校へ転校入学するのに、色々調べて見る様に書いてあり、 早速、志筑の女学校の生徒さんに聞き合わせをお願いする。 私のこれからの前途はどの様になる事だらうか。 ねて居るお母様のお世話が大変だらうから助けてやらうとの事らしいが、主 人が一緒に居るのならとにも角、其の様な大家族と果たして一しょに暮らせ る事だらうか、考えれぱぼう然となる。 |
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一月 六日 | 今日はとてもとても寒い風だった。 昨日の手紙の事で、色々とこれから先不安になり、亡くなられたお父様が生 きておられたら、いくら戦争がはげしくなった為疎開するのだと云はれても 家へ家族全部では来さして呉れなかっただらうに。 私を助ける為だと云はれても、私は何とも申し様がない。 色々と思ひなやまれる為か風邪気味になり、体の具合良くなく、夜も早くね る。 |
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一月 七日 | 引き続き風邪気味で、一日中頭が重くて痛んで困る。 朝鮮の兄様と桝田の松子姉さんに便り書く。 今日は七日で、菜づなをこしらへ、神様佛様にお供へする。 夜八時ねる。 |
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一月 八日 | 冷たいが良い天気だ。 主人、龍麿さん、安民兄さん、松子姉さんに書いて居た手紙出す 午後、平岡さんのおぱあさん来て下さった。 |
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一月 九日 | 安田生命保険会杜の杜員が来て、進められて主人の保険を加入した。 暖かい良い天気なり。 モンペ一枚仕上げる。 |
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一月 十日 | 今日も縫物をする。 良い天気だった。 電気がつかぬ為、早くねる。 | |||
一月 十一日 | 煕のチョッキをこしらへる。 新年のまぶりかけ(注)に来て下さる。 煕の頭に胎毒が出来て来た為、のみ薬とつけ薬を買って来て用ふ。 |
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一月 十二日 | 今日も一日縫物をする。 | |||
一月 十三日 | 此の間よりモンペニ枚仕上げる。 洗濯物のつぎ当てをする。 妹へ手紙を書く。 巽さんへお礼状を出す。 |
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一月 十四日 | 入営中の龍麿さんからハガキが来て、小包みをこしらへて贈ってくれ、との 事であり、早速、ジバン、パッチ、千人針と糸、豆、芋類等を用意し、小包 みをこしらへて、明日送る筈にする |
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一月 十五日 | 所得の申告をする。 今年は申告方法は簡単である。 みかんの収入と純益保険金、扶養家族くら いのみである。 午後手紙を書き、明日入れる筈。 桝田、龍麿さん、長太郎兄さんに書く。 |
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一月 十六日 | 郵便局へ行って来る。 醤油の配給も受ける。 今朝、姫路の眞枝姉様より便りあり、晴吾兄さんが昨年末除隊になったとの 事。 早速返事を出す。 生穂の洗張屋さんへ行って、出してあった着物をもらって来る。 サツマ芋がくさり出し、皆洗ってゆでて干す。 今夜も電気が来なくて早く寝る。 |
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一月 十七日 | 今日も芋をむして干す。 ふとん一枚縫って仕上げる。 | |||
一月 十八日 | 光子さん午前中遊びに来られる。 午後より、神戸の皿池とも子さんが突然子供さんを連れてお越しになり、 色々とお互いの戦地の主人の事を語り合ひ、四時過ぎに帰られる。 ネーブルと芋の干したのをあげる。 |
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一月 十九日 | 馬で畠へ浜のたまりから肥上げに来て下さる。 新宅の音吉さんが手傳ってくれ、肥かけして頂く。 米の配給、砂糖の配給を受けに行って来る。 午後一時頃より敵機数多く襲来し、此の上をたくさん飛んだのには驚いた。 |
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一月 二十日 | 今日も肥上げの馬が来て下さり、午前中に上げて頂く。 敷ぶとん一枚縫ひ上げ、敷布もかける。 |
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一月二十一日 | 午前中敷ぶとん一枚仕上げ、午後みかんの配給を受けて来た後、座ぶとん二枚仕上げる | |||
一月二十二日 | のりを炊き、しき布にのり付けをする。 座ぶとん一枚縫う。 今日も電気来ず、早く寝る。 |
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一月二十三日 | 煕が一寸風ぜ引き気味なので、下のお医者さんに診てもらって来る。 大した事もないらしい。 頭につける薬ももらって来る。 どうか早くなおつてくれる様祈る。 座ぶとん一枚とふとん縫う。 |
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一月二十四日 | ふとんの敷布を二枚かける。吹雪日和の寒い寒い日和になる。 風呂をたいたが煕風ぜをひいて居るので入れず、恒吉さん夫婦と私入る。 |
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一月二十五日 | 洗濯を済まし、お医者さんへお薬を頂きに行って来る。 煕も咳の出るのは少し良くなったが、何だか又耳が痛むらしい。 本当に早く良くなってくれる様祈る。 二時頃、大日電線の会杜へ行って居る進太郎さんが突然来られ、ぴっくり したが、一月十日から洲本の県民修練所へ来られており、今日は外出があっ て来られたとか。 早速お芋をむし、御飯を炊き食べて頂き、三時頃洲本へ 帰られる。 隆三さんが此の間の風呂敷を持って来て下さる。 |
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一月二十六日 | 昨日より煕が耳を痛がり困ったので、今日お医者さんに来て診て頂く。 やはり胎毒の様で耳だれではないらしい。 頭につける薬と同じのをつける 広石から手紙が来て、心配して居た務も会杜で無事だったとの事で本当に嬉 しく思う。 新宅の正一さん入営に付き、明後日門出のお客をするとの事、明日お手傳ひ に行く筈にする。 |
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一月二十七日 | 新宅へ手傳ひに行く。 広石から妹が来て留守番をして、お母様と煕の面倒 を見てくれる。 明日も又早い。 |
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一月二十八日 | 新宅と下の上(光司さん)と、二人兵隊さんが入営する門出で、朝七時より へよばれに行く。 少しすると妹が下の上へ私をよびに来たので、帰って見ると晴吾兄さんが 真佐子ちゃんを連れて来られて居り、食事をこしらへて出す 十時頃、汽船場へ兵隊さん二人見送りに行く。 平岡のおぱ様も行っておられた。 帰りに写真屋さんへよって、私と煕の写真が出来て屠て、頂いて帰る。 妹と恒吉さんのおば様に一枚づつ上げる。 妹、午後三時半頃帰る。 |
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一月二十九日 | 畠の反別を、一枚一枚番地とナルトの木の数を調べて申告をする。 | |||
一月 三十日 | 志筑の女学校へ行き、校長先生に面談し、朝鮮から引き上げて来る安民兄さ んの長女滋子さんの入学の可否を伺へば、「疎開証明のない者は入学出来な い」との事。 早速帰って其の旨朝鮮の安民兄さんの所へ電報で知らす。 国民学校の方へより聞いて見れぱ、転校出来るとの事だった。 帰りに自転車屋へより、チューブ張りをして頂く。 |
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一月三十一日 | 晴吾兄様、此の間からずっと居られ、前の門長屋やかど(注)等をきれいに 取り片付けて下さる。 今日 真佐子さんと二人で尼崎へ帰られるとの事。 近々 龍麿さんにも面会に行って下さるとの事で、向家(岡村さん)でサツ マ芋一〆目買って来て焼く。 大豆も煎ってこしらへてことづける。 午後三時頃帰られる。 それより煕の薬をもらいに行って来る。 今日も電気来ぬ為早く寝る。 |
次へ続く
平成16年3月発行
「銃後の妻の戦中日記」より転載 禁無断転載(著作権は平岡弥よい氏に帰属します。)
※(自費出版他発行分NO.129)
copyright by yayoi hiraoka 2004
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