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『閑人亭日録』Diary2013年
4月15日(月) 戦後名詩選1・続き
27人の戦後詩人の三〜五編の詩が選出されている。なじみ親しんでいる詩の一節。
《 深い器のなかで
この夜の仮象の裡で
ときに
大きくかたむく 》 吉岡実「静物」
《 ああ
きみに肉体があるとはふしぎだ 》 清岡卓行「石膏」
《 その秋 母親は美しく発狂した 》 田村隆一「腐刻画」
《 血は空に
他人のようにめぐっている 》 飯島耕一「他人の空」
《 ついに水晶狂いだ
死と愛とをともにつらぬいて
どんな透明な狂気が
来りつつある水晶を生きようとしているのか 》 渋沢孝輔「水晶狂い」
これらの詩句を思い浮かべては、詩全体を思い、その詩空間を浮遊、堪能した。そして選ばれた詩人の選ばれなかった愛唱詩。
《 みえない関係が
みえはじめたとき
彼らは深く訣別している 》 吉本隆明「少年期」
《 僕の左側に
いつも空いたままで
ひとつの席がある 》 黒田三郎「そこにひとつの席が」
しびれる名詩群。そんな愛着きわまりない詩に出合わなくなった平成。『戦後名詩選1』の巻末、野村喜和夫は「解説」で書いている。
《 二十世紀後半の四半世紀(そして来世紀?)を特徴づけることのひとつは、言語から情報へという文化基盤での大きなシフトであろう。情報とは言語の砂漠化である。浅い表層でさらさらと砂のように伝達しあうにはそれでもよいかもしれない。しかし、渇きを覚える人もいるだろう。 》
ここにいる。
ネットの見聞。
TPP、日本政府の発表内容は、アメリカの英文文書とまるで違っている。
《 日本政府の発表内容、米国USTRのリリース(英文原文)、そして各種報道を読み比較をしてみたところ、驚くべき事実がわかった。日本政府の合意公開資料は、USTRがリリースしたプレスを都合よくつまみ食いしたものなのだ。しかも、ねつ造ともいえる内容が含まれている。 》 Acts for Democracy
《 上記2つの政府が出した文書を読み比べて、まず気づくのはその「トーン」の違いである。USTR側が出した文書は、明らかに米国から日本への「要求」という基調で書かれており、日本がそれにどこまで応じたか、ということに文書の主旨は尽きる。 》 同上
4月14日(日) 戦後名詩選1
朝は源兵衛川の月例清掃。地下水位が上がったので、先月まで三島梅花藻に付着していたヌクがきれいに流されて、水中で美しい緑が揺れている。
『現代詩文庫特集版1 戦後名詩選1』思潮社2000年初版を読んだ。石原吉郎から谷川俊太郎まで27人の選詩集。ひとりだけ知らない詩人、村上昭夫という人。思潮社の現代詩文庫159が『村上昭夫詩集』2000年刊。収録された三篇を読む。透明な寂寥感。「象」という詩の冒頭と結び。
《 象が落日のようにたおれたという
その便りをくれた人もいなくなった 》
《 前足から永遠に向うようにたおれたという
巨大な落日の象をもとめて 》
落日に、落日という言葉にも、子どもの時から惹かれている。落日に魅せられたのは中学一年の冬だった、と書いてもしようがない。それから落日にかかわる言葉が気になった。今ではゴジラの産みの親として知られている香山滋だが、当時未知の作家だった彼の『海鰻荘奇談』桃源社1969年初版を購入させたのは、帯の文章だった。その後半部。
《 華麗奔放な文体と博大な古生物学の知識を駆使して執拗に描く魔境・秘境は、原始回帰を夢見る壮大な落日の理想郷である。 》
壮大な落日。この表現で購入。一読で魅了された。種村季弘の解説頁に、昭和23年に出た『オラン・ペンテク奇譚』の表紙画像があった。知人の家で実物を手にし、描かれた美女にあらためて惚れたが、そのイラストは山名文夫だと後日知って、やはりねえと納得。それから山名文夫のイラストを欲しくて銀座の資生堂へ行って購入した。宇佐美斉『落日論』筑摩書房1989年も、そんな関心から読んだけれど、印象が薄かった。今読めば違うかもしれない。
当時愛聴していた二つの「夕陽」の歌が今では You Tube で苦労なく視聴できるんだから、時代は変わった。一つは『夕陽が沈む/フォア・ダイムズ』、もう一つは『夕陽が泣いている/ザ・スパイダース』。あの頃の歌が目白押しだわ。参ったな。『君に逢いたい/ジャガーズ』を聴いては雑木林をあてもなく歩いた。そして『夕闇のふたり/西嶋三重子』。センチメンタル・ジャーニー。思えば遠く来たものだ。
大空の斬首ののちの静もりか没(お)ちし日輪がのこすむらさき 春日井建
ブックオフ沼津リコー通り店で文庫本を七冊。有吉佐和子『青い壺』文春文庫2011年初版、柄谷行人『日本近代文学の起源』講談社文芸文庫1990年9刷、中野京子『怖い絵 泣く女篇』角川文庫2012年4刷、日夏耿之介『風雪の中の対話』中公文庫1992年初版、講談社文芸文庫・編『戦後短篇小説再発見8 歴史の証言』講談社文芸文庫2002年初版、『カフカ短篇集』岩波文庫2003年38刷、ジャック・デリダ『声と現象』ちくま学芸文庫2005年初版、計735円。『青い壺』は解説が平松洋子なので。場違いな本が挟まっている時代小説文庫棚にはやっぱり、佐高信『時代を読む』などなど。愉しいねえ。
ネットの拾いもの。
《 ハルキノミクス !? 》
《 「村上春樹作品はどうしてこんなに話題になるんでしょうか」という質問をしたがるわけだが、「そりゃ、あなたたちマスコミが大騒ぎするからでしょうよ」以外答えようがない。 》
《 【震度6弱】 冗談で作った「地震速報に連動してハードディスクのデータを消すソフト」がきっちり作動!「大事なフォルダ」が全消去される! 誰か俺のエロフォルダ知りませんか!ここに!ここに確かに俺のエロフォルダがあったんです! 》
4月13日(土) ぼくは散歩と雑学がすき・つづき
植草甚一『ぼくは散歩と雑学がすき』、「11 ワイセツ語だらけのノーマン・メイラーの新作『なぜぼくらはベトナムへ行くのか』の話といっしょにアメリカの青年と先輩とがやった『対話』をサカナにして」(『話の特集』昭和四三年二月号)
《 このような変化は、きみたちの父親や祖父が、まったく予期しないものだった。テクノロジーの現社会にあって、彼らは無教育者となってしまった。だから最早なにも教える資格はないのだけれど、そういった技術の面を超越して、ただひとつ教えてあげられることがある。それは人間的叡智のことだ。 》
《 これにたいし、イェール大学で校友会雑誌を編集しているリタ・ダーショウイッツというインテリ女性は、つぎのように答えている。 》
《 人間的叡智がどうのこうのといわれますが、わたくしの生活、あるいは生活の条件として、それはまったく無関係なものなんです。わたくしたちより、ずっと偉大な経験をした、だからそれが人間的叡智となって、心のなかを豊かにするというのは、なんだか気まぐれな主張のように思われますわ。なぜなら、わたくしの人生体験は、両親のそれとは質的に違うものだし、いままでのどんな体験のしかたとも違ったものだと断言していいんですから。 》
《 それなのに政治家たちは、昔のころ、ちがった戦争があったころに使った言葉を、そのまま使っているだけなので、世代間のギャップは、ますます深まるばかりだといわなければなりません。/ともかく古い価値は、いま若くあることで偉大な昂奮をあじわっている者に、まったく無価値なものになりました。》
《 ぼくはウォルター・リップマンというアメリカでの価値ある頭脳より、この若い女性のほうが、ずっといい頭脳をしていると思わないではいられない。 》
最近耳にする話のようだけど、1968年の発表。
《 もう一つの記事は、プリレイボーイ誌十一月号に出たミケランジェロ・アントニオーニとの対談だった。(略)いずれにしろ「欲望」をめぐって、つぎのようなことをアントニオーニは語ったのである。 》
《 質問『スクリーンで見せてはいけないものがあるんではないでしょうか』
答『自分自身の良心以上にいい検閲はありません』 》
しびれる答えだ。
ネットの見聞。
《 TPP。日経朝刊「米国が自動車関税の撤廃を先送りしても、日本自動車業界にはそれほど大きな影響を与えない。乗用車の関税率はすでに低く、トラックは日本メーカーの米国内での現地生産が進んでいるからだ」。つまり恩恵がないってことか。じゃあ、なおのことTPPなんかいらねえじゃん。 》 藤岡真
《 「スポーツを通して人格の形成」とかいうが「数学」とか「国語」じゃ駄目なんかな。 》 藤岡真
4月12日(金) ぼくは散歩と雑学がすき
植草甚一『ぼくは散歩と雑学がすき』がちくま文庫で出た。紀田順一郎がウェブサイトで取り上げている。
《 いわゆるオタクの先駆とみなされているが、資質的にもまったく別ものであることを知るべきだろう。植草はいまだに信頼すべき文化の水先案内人なのだ。 》
本棚の奥から単行本の『ぼくは散歩と雑学がすき』晶文社1970年2刷を取り出す。四十年前は、彼の引用の多い文章に反発していた。今にして思えば、世間知らずな田舎の青二才が、饒舌で軽妙な都会人の未知の文体に激しい違和感を覚えたのだった。
新宿厚生年金会館での前衛ジャズピアニスト、セシル・テイラーの日本初公演だったと思うが、小柄な植草甚一が観客席後部のドアからひょうひょうと入って来た。アメリカ国旗を洋服に仕立て直した格好で、観客が少し沸いた。かなわねえなあ。
時は流れた。今こうして文庫になるとは、感慨深い。セックスなど、きわどいことをさらりと書いていてドッキリ。知らぬ間に時代に呑まれ後退したのかも。私が。帯文。
《 しなやかな現代感覚溢れる視線で文学を芸術を政治を風俗を独特の語り口で綴る植草甚一話題のエッセイ集 》
このひょうひょうとした姿勢を貫くには、繊細なステップと眼光紙背の明察が求められる、と今なら思う。会話のような軽い語り口。だから大上段に構えた難しい言葉や漢字は使われない。僕ではなく、ぼく。散策ではなく、散歩。碩学ではなく、雑学。好きではなく、すき。
「31 性的アイデンティティを失ったアメリカの若い男女が『ニュー・ピープル』と呼ばれるようになった」(『話の特集』昭和四四年十二月号)
《 現代のアメリカ女性は、職業の分野でも男を出しぬくようになってきた。(略)また亭主よりも収入が多い細君が全米に二三○万人いる。それでよく家庭争議が起るが、そんなときは離婚が一番いい解決策とされるようになった。 》
《 ある少女が親戚のおばさんに、こう訊いた。『おばさんは四度も結婚したそうね。最初は銀行家で、そのつぎが芝居のプロデューサー、三度めが牧師で、いま葬儀屋さんだけど、どうしてそんな結婚のしかたをしたの』 するとおばさんが答えて『最初はお金が目的で、二番めは芝居がたくさん見られるから。三番めは、そろそろ死ぬ支度をしなくてはならないと思ったからで四番めで気が楽になったわ』といった。 》
「12 コンタクト・レンズにこんなのがあったのか バナナの皮の使いかたなんかも知らなかった」(『話の特集』昭和四三年三月号)
《 この作家のものでは、二年ほどまえだったか、「十一月の珊瑚礁」というのが一冊だけ訳されているが、 》
そのロビン・モーム『十一月の珊瑚礁』新潮社1964年初版は、宇野亜喜良の装丁。
その本を宇野亜喜良装丁本の山から探していて、ええ、こんな本を持ってたんだ、としばし中断。新書館のフォア・レディース・シリーズは、寺山修司だけでも『ひとりぼっちのあなたに』『さよならの城』『はだしの恋歌』などなど可愛さ全開。手元にある最も古い本は、ピエール・クロソウスキー『ロベルトは今夜』河出書房新社1960年初版函付。
《 DEZIGN 田中一光 ILLUSTRATION 宇野亜喜良 》
ステキな装丁。古本値は高くないし、ファンなら持っているべきだろう。次は読売新聞社社会部編『われらサラリーマン』読売新聞社1961年初版の1961年3刷。表紙はオフィス街の写真を使ったもので、絵はない。彼らしい絵は、植田敏郎『ビール世界地図』朝日麦酒株式会社。刊行の記述はないが、1961年の刊行と思われる。フランソワーズ・サガン『すばらしい雲』新潮社1962年、クロウハウゼン夫妻『完全なる女性』河出書房1966年、三島由紀夫『夜会服』集英社1967年、そして『ボードレール詩集』河出書房1967年の挿絵など、古さを感じさせないペン画。
ネットの見聞。
《 わたしにとってのベスト3:『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』『ねじまき鳥クロニクル』『神の子どもはみな踊る』 ワースト3:『国境の南、太陽の西』『スプートニクの恋人』『アフターダーク』 》 豊崎由美
《 社会の中の人間は、まずは自分だけのリアルな内面世界を生きているのであるが、そこへ新たな情報が到来したときに、それを取り込んで、みずからのこれまでの記憶と照らし合わせ、自分の全体を内側から一気に作り直して新しい姿にしていくはたらきを持っているのである。そして内面世界を新しくした人間は、対話によって現実へと関与し、コミュニケーションの作動の中にふたたび織り込まれていく。そのダイナミズムを正確に捉えないかぎり、社会の行き先など読めるはずがないのである 》 森岡正博
ネットの拾いもの。
《 「復讐するは我にあり」佐木隆三、「復活するはわれにあり」山田正紀、「復活の日」小松左京 》 生活 就活 婚活 終活
4月11日(木) 死のフェニーチェ劇場
この前読んだアレッホ・カルペンティエール『バロック協奏曲』にヴェネツィアの「フェニーチェ座」が出てきた。ドナ・M・レオン『死のフェニーチェ劇場』文藝春秋1991年初版を読んだ。サントリーミステリー大賞受賞作。選評での田中小実昌の言葉が効いた。
《 ドナ・M・レオン著「死のフェニーチェ劇場」にはユーモアがある。ユーモアは根本的なことで、ユーモアで味つけするのではない。ほかの三つの作品にはユーモアはなかった。 》
三つの作品には横山秀夫「ルパンの消息」が。選考委員イーデス・ハンソンは書いている。
《 それでいて、登場人物にはユーモアも可愛げもなく、全体の暗い辛いトーンが重苦しかった。 》
「ルパンの消息」は2005年にカッパノベルスで日の目をみた。「改稿後記」から。
《 だから上梓に向けて臨んだ今回の改稿作業は、嬉しくもあり、懐かしくもあり、そしてほろ苦くもあった。 》
さて、世界的指揮者が、フェニーチェ劇場での演奏の合間に楽屋で死んでいた。死因は毒薬。犯人は? 真相は? 田辺聖子の選評から。
《 「死のフェニーチェ劇場」の面白さは細部のこだわりにある。トリックや構成よりも、人間と人間関係の面白さだ。日常のリアリティが確立しているので、事件究明のスピードがまことに読者の脈拍によく合致しており、すこしの無理もない。ゆっくりゆっくりと被害者の私生活があぶり出され、それは必然的に犯人の所在をさし示す。 》
まことに当を得た評だ。傍らに大竹昭子『須賀敦子のヴェネツィア』河出書房新社2001年初版を置いて読んだ。地図にはフェニーチェ劇場はもとより、刑事が捜査で訪ねるシュデッカ島もあって便利。写真に魅せられ行きたくなってしまう。大竹昭子の文を読むと躊躇する。
ブックオフ三島徳倉店で二冊。『ちくま哲学の森3 悪の哲学』筑摩書房1990年初版、杉浦日向子『東のエデン』ちくま文庫2003年7刷、計210円。自転車でその先へ。米山記念館に遭遇。ちょうどいいので入館。立派な建物だ。
ネットの見聞。
《 結局児童文学は漫画に負ける。そしていまだに小川未明、浜田広介、坪田譲治にしがみついている、死んだ分野になりさがった。そして、この三人が内務省の「児童読物改善ニ関スル指示要綱」の尻馬に乗って、大衆文学系ジュヴナイルの弾圧に協力した事実。 》 芦辺拓
4月10日(水) きわどい
ブックオフ函南店で四冊。宮部みゆき『小暮写真館』講談社2010年初版帯付、米原万里『発明マニア』毎日新聞社2007年初版帯付、ミステリー文学資料館・編『江戸川乱歩と13人の新青年』光文社文庫2008年初版、同『「宝石」1950』光文社文庫2012年初版、計420円。自転車も軽く〜。
米原万里『発明マニア』の帯には《 絶筆の連載 》。その最後「119 国際化時代に最も不向きな対立回避症克服法」の結び。
《 というわけで、対立回避症克服のために、まず政治家には、内輪ではなく相手国の懐で、物騒な発言をしてもらおう。南京大虐殺は無かったと主張する政治家は、南京市の虐殺資料館で、靖国参拝に反対するのは内政干渉だと主張する政治家には、韓国や中国の反日デモ隊の人たちをそのように説得してきて欲しい。 》
前段では小泉元首相。
《 スローガンのみを念仏の如く羅列する。内容を追及されたり、反論されたりすると、相手を抵抗勢力と一括りにして、議論しないまま、重要法案を次々と強行採決していく。 》
2006年5月の発表。当時の政権党は自民党。民主党を経て再び自民党。歴史は繰り返す。
ネットの見聞。
《 心中天網島は、この世の倫理規範が成立している世界と、その向こう側の地獄の美世界の両方を描いていて、主人公(とくに男)がそのもう戻れない境界線を渡るところが素晴らしく美的に描かれていた。かつどっちの世界が良いとも言ってない。この踏み越えの感覚を近松は描きたかったに違いない。 》 森岡正博
上記の文と下記の文が交錯する。
《 きわどいは、「際疾い」と綴る。キワが、病んでいる。変形してしまっている。傾(かぶ)いている。悲鳴を上げている。何とかかろうじて持ちこたえている。だが、次の瞬間の保証は何もない。そのあぶなっかしさである。(略)きわどいには、ただの美しさにはない、色っぽさが宿っている。 》 平野雅彦
「美は危うきに遊ぶ」。世界認識が不意にゆらぎ、たがが外れる予感……かな。きわどい踏み越えの作品が芽吹く兆し。期待にワクワク。
ネットの拾いもの。
《 「期待に胸も膨らむわ」「どれどれ」「あなたは」「……」 》
《 吉川美南で信号故障があって武蔵野線運転中止だって。どうも静かだと思った。線路脇住人。←吉川美南、って人の名前じゃなくて駅なのか。 》
4月 9日(火) 時との戦い
アレッホ・カルペンティエール『時との戦い』国書刊行会1977年初版を読んだ。「聖ヤコブの道」「種への旅」「夜の如くに」の三篇を収録。1956年の刊行。三作とも時間は歪む。
「聖ヤコブの道」では 《 序章と終章とでメビューズの輪のようにつながる時間。 》
「種への旅」では 《 ニグロの老人がひと振りした杖の魔力によって、死から蘇生、蘇生から誕生へと、いやその先の、母胎の「温く湿っぽい」肉のなかの種への状態へとたどられる。 》
「夜の如くに」では 《 三千年にも及ぶ歴史的な時間のなかで反復されてきた人間の共同的な運命の一面が、見事な円環を構成する神話的な時間の枠のなかで描かれている。 》 鼓直
西洋のSFではない、カリブの魔術というか、時間をテーマにしてもこれだけ違う。面白いものだ。時間といえば、タイムワープとタイムスリップ。タイムワープ( time warp )は、空間のゆがみを利用して瞬時に目的地に移動すること。タイムスリップ( time slip 》は和製英語で、過去や未来へさっと移動すること。出典は『ことばの道草』岩波新書1999年5刷。
手元にあるカルペンティエールの未読本は『ハープと影』新潮社1984年初版と『光の世紀』書肆 風の薔薇1990年初版の二冊。間を置いて読もうと思う(どれくらいの間かなあ)。
ブックオフ沼津南店で六冊。大西巨人『深淵(上・下)』光文社2004年初版帯付、レイ・ブラッドベリ『死ぬときはひとりぼっち』サンケイ出版1986年初版、『世界の大思想17 ルソー エミール』河出書房新社1971年初版、伊藤整『日本文壇史1 開化期の人々』講談社文芸文庫1996年3刷帯付、平野純・編『上海コレクション』ちくま文庫1991年初版、計630円。
ネットの見聞。
《 米国と日本の状況は酷似している。今でも米国を日本の手本のようにあげつらう評論家・学者はいる。「米国ではこうなっている、日本もそうすべきだ」。しかし米国の手本になりそうなものは、日本にもたくさんある。それを米国の要求通りに変えてしまい、我が国が失ったものも多いのである。 》 兵頭正俊
ネットの拾いもの。
「海賊とよばれた男」百田尚樹、「百年法」山田宗樹。紛らわしい名前だ。どっちの小説も持っていないけど。
《 ♪ サッチャーはね マーガレットっていうんだ ほんとはね ♪ 》
《 若い世代の皆さんへ注意。イギリスの元首相サッチャーさんの「鉄の女」という呼称は、鉄道マニアという意味ではありませんよ。 》
《 この眠気と戦うより15分くらい寝てスッキリする方が得策では。15分で起きられれば、だが。 》
時との戦いだ。
4月 8日(月) この世の王国
アレホ・カルペンティエル『この世の王国』創土社1974年初版を久しぶりに再読。叙事詩のように、ぎりぎりまでそぎ落とされた文章。
《 小説は、一人の人間の生涯をとおして、一八世紀の七十年代からつぎの世紀の二十年代にいたる、ハイティの約五十年の歴史を概観したものである。 》 エミール・ボレーク
口絵写真のシタデル・ラフェリエール城砦は、白黒写真でなんだかよく分からなかったけれど、今はネット画像で納得。ハイチの世界遺産。
『この世の王国』1949年から『バロック協奏曲』1974年への展開と飛躍。じつに興味深い。『この世の王国』はまた、古川日出男の『ベルカ、吠えないのか?』2005年を連想させる。こちらは二十世紀の軍用犬の年代記。古川日出男は文春文庫で書いている。
《 想像力の圧縮された爆弾。創作意図を問われれば、ひと言、それに尽きる。 》
《 そこから歴史に挑む必要が生じた。 》
アレホ・カルペンティエルと古川日出男の比較文学論を論じる人がいるかも知れない。私は寡聞にして知らないが。
ネットの見聞。
《 病院で個々の患者の病名や容態を口にする者はいない。そして患者を偶うに殊遇に徹している。看護師の思慮の深さや広さに屡々驚愕させられる。どのような人間であろうが、生活者である以上雑念を持っているに違いない。ところが、なにかの瞬間に集中力が働くと一切が吹っ切れてしまう。看護に携る人間は、苗字を持つ個人であると同時に、別の抽象されたなにものかに成り果せる。 》 渡辺一考
ネットの拾いもの。
《 読書道免状規定
読書十段…蔵書で私立図書館が建つ
読書九段…蔵書が大学や図書館にまるごと寄贈されて、「◯◯文庫」と呼ばれる
読書八段…蔵書を収納するために家/部屋を住居と別に借りる
読書七段…住居面積の五割以上を本を置くスペースに使っている 》
ホームセンターで買ってきた輸入板を棚と柱にして壁に作った本棚は、文庫棚が十三段、単行本棚は十段。本棚は手作りに限る。安いしピッタリと収まるし。夢「 四面書架 」。
4月 7日(日) バロック協奏曲
キューバの作家、アレッホ・カルペンティエール『バロック協奏曲』サンリオSF文庫1979年初版を読んだ。正味八十頁余りの短い小説だけれど、十分な読み応え。舞台は十八世紀半ばのメキシコ〜スペイン〜ベネツィア。
《 銀鉱で巨富を得た鉱山主が従者と様々な品々を伴ってマドリッド詣でに出立しようとしている── 》 裏表紙の紹介文
しかし、マドリッドに幻滅してイタリアへ旅立つ。そしてベネツィアでとびっきりの祭りに飛び込む。
《 特別の祭日だというので、旋回花火と彗星花火を加えた仕掛けから、花火とともにロケット、ベンガル花火を打ち上げるために、小屋から引き出されてきたのだ……。それを合図に、人びとは顔を変えた。 》 36頁
仮面、仮面、仮面のお祭り。
《 清楚な貴婦人が作り声で、何ケ月ものあいだその胸にしまい込んでいた下品で猥らな言葉を吐き散らす。 》 37頁
そして音楽が鳴り響く。そこから時間は急速に歪み、歴史は捻じ曲がる。
《 「カ=ラ=バ=ソン=ソン=ソン」いっそう調子をつけてフィロメーノは歌った。「カバラ=スム=スム=スム」とヴェネツィアの男、サクドン人、ナポリ生まれの男が応じた。 》 49頁
《 「下らん! 甘ったるいマーマレードだ、あんなもの!」「いや、ジャム・セッションといった感じでしたよ、どちらかと言えば」 》 58-59頁
《 モーターボートが通過するたびに波が立った。 》 85頁
《 そこでフィロメーノは、ルイ・アームストロングの類まれな金管楽器が間もなく鳴り渡ることを告げるポスターで飾られたホールへ向かって、いとも軽やかな足取りで歩き始めた。 》 85-86頁
1974年に発表された『バロック協奏曲』、これは開放的に面白かった。トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』が強迫的競争的な展開であったのにたいして、『バロック協奏曲』は上記の「ソン」=キューバのポピュラー音楽のように、協奏的あるいは狂騒的。濃密な時間を体験した。
《 この『バロック協奏曲』は、円環的、褶曲敵、加速的、或いは直線的といった、カルペンティエールの物語を構成する叙述の時間形式がすべて実現させられているという意味で、彼のスンマ・ポエティカと呼ぶにふさわしい傑作であると考える。 》 訳者鼓直の解説
スンマ・ポエティカとは「詩学大全」の意。併録の短編「選ばれた人びと」は、ノアの方舟の拡大版パロディというか、何艘もの方舟が大洪水の後に出合う、苦いユーモアの効いた寓話。これまた好きな一編。
《 要するに、多くの神々が存在し、それぞれの人間に同じお告げを授けたのだ。「わしらのものに似た別の船が、きっと、その辺を漂っているのだろう」 》
なわけで、聴く音楽はキューバのソン SON 。1904年に生まれたカルペンティエールが耳にしたであろうバンド、セステート・アバネーロ SEXTETO HABANERO の1924-1927年録音のCD『 SON CUBANO 』。続いて1958年録音のセプテート・ナシォナール SEPTETO NACIONAL のCD『 De Ignacio Pineiro 』。三十年の間に変わったところと変わらぬところ。どちらもじわじわと効いてくる。
『バロック協奏曲』や『失われた足跡』1953年から連想するのは、古川日出男の『沈黙』。角川文庫の『沈黙/アビシニアン』裏表紙、「沈黙」の宣伝文から。
《 祖母の家の地下室で見つかった数千枚のレコードと十一冊のノート。記されていたのは、十七世紀アフリカに始まるある楽曲の、壮大な歴史。 》
帯の宣伝文句。
《 炸裂する言葉の弾丸 博覧強記の物語世界 》
まあ、そうなんだけど。「アビシニアン」は珠玉の、と言いたい硬質な美しさ。偏愛する一編。文学好きならば『バロック協奏曲』『失われた足跡』『沈黙/アビシニアン』、これらの作品は必読書だろう。
ネットの拾いもの。
《 タイトルが「私の家来ちゃいますか?」ってスパムメールきて
「いやいや家来じゃねーよww」って思ったけどよく考えたら訓読みだった。 》
4月 6日(土) 競売ナンバー49の叫び
トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』サンリオ文庫1985年は1966年の発表。題名の由来。
《 トライステロの「偽造切手」は競売ナンバー49として売りに出されるという。 》 227頁
裏表紙の紹介文から。
《 ある夏の日の午後、エディパ・マース夫人は、ホーム・パーティから帰ってみると、自分がカリフォルニア州不動産業業界の大立物(ママ)ピアス・インヴェラリティの遺言執行人に指名されていることを知る。 》
《 その全体が一つの暗号であり、読者自身がエディパ同様暗号解読者たらざるを得ない、隠喩と多義性に満ちている。 》
暗号は、私の最も苦手とするところ。読み進めるのにひどく難儀した。巻末の解注《 グリム童話のラプンツェル姫(二○頁) 》では、サンリオ文庫版の表紙絵に使われたレメディオス・バロの絵とエディパとの関連が、十頁ほどにわたって詳述され、小説の一つの読みができるけれど。ま、それは他の人に任せて。気に入った文を少し。
《 いずれにしても、断片、小片、ひとしなみに、絶望という名のサラダさながら、煙草の灰やら凝縮した排気ガス、埃、人体の排出物やら、灰色のドレッシングがまぶされてある。 》 11-12頁
《 弾丸(たま)は飛んでいる最中に凍りついて停止していても、弾丸の中に速度が住みこんでいる。 》 165頁
《 「主人はいまテラスでセメントの代わりにビールを流しこんでいるの」 》 192頁
読書中も読後もイーグルスの名曲「ホテル・カリフォルニア」が聞こえていた。そしてこのくだりに共感。
《 彼らが作った輪の中には想像の焚火があって、必要とするのは自分たちだけの、他人の入りこむ余地のない集団意識のみであった。 》 150頁
先だって、沼津市庄司美術館で開催中の内田公雄展の案内葉書を、内田氏の親戚の男性に手渡したとき、彼が本業以外に中古自動車のレストアを仲間とやっている、と聞いた一緒にいた知人が、それを多くの人に広めよう! と前のめりに提案したところ、彼は仲間内で楽しんでいるからそれだけで十分、とやんわりかわした。そうだよなあ、と思った。
訳者志村正雄の「あとがき」冒頭。
《 いつのことでしたか正確な記憶はありませんが、寺山修司氏が『競売ナンバー49の叫び』を訳してサンリオから出す予定であるという噂を聞いて、寺山版ピンチョンを楽しみに待っていました。 》
あの寺山修司が……。新刊で購入した当時も今も、驚きが心に広がる。
ネットのうなずき。
《 つまり、占領軍の方が安倍ちゃんや自民党よりも日本国民の幸せと将来を真剣に考えてたってことだよね。いったいどういう党だよ、自民党。恥を知りなさいっての。 》 想田和弘
ネットの拾いもの。
《 『思案暮れーる』懐かしい店だ。 》
京都に「しあんくれーる」というマニアにはよく知られたジャズ喫茶があった。一度行ってマッチを貰った。手元にある。
《 祝儀」の反対の「不祝儀」は「ふしゅうぎ」と読むものと思い込んで生きてきた…… 》 道尾秀介
《 つい先日、うちの主人が「御祝儀」を「おしゅうぎ」と読んでいた…… 》
4月 5日(金) 暗黒物質
50周年で新作。すごいな。
《 米の大作家トマス・ピンチョン、『X.』刊行から50周年で新作刊行を発表 》
トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』サンリオ文庫1985年初版を読んだ。巻末に解注。途中まで読んで、ふと巻末を開き、本文233頁にたいして、解注は50頁を知った。本文には解注の印(*など)が無い。おいおい。それにしても小さい字だ。創元推理文庫よりも小さい。まあ、小さくても肉眼で読めるから問題ないけど。感想は明日。
今朝のニュース、《 黒田日銀の「バズーカ砲」 》という表現には笑った。
暗黒物質(ダークマター)の《 痕跡?を発見 》というニュースに心が躍る。宇宙の組成の23パーセントが暗黒物質(ダークマター)、73パーセントが暗黒エネルギー(ダークエネルギー)、そして残りの4パーセントが知られている物質。この構成から人の意識と無意識を連想する。意識=知られている物質、無意識=暗黒物質・暗黒エネルギーの図式。ユング心理学の本を読むと、無意識の領域の広大さに目がくらむほど。人体と宇宙とは相関関係にあるという、よくいわれることに確信は持たないが、かも知れないとは思ってしまう。
ネットのうなずき。
《 クールジャパン推進か…オレはかっこいいと言ってるやつを周りはどう思うだろう。 》
ネットの見聞。
《 週刊ポスト 「小沢事件」検察審査会の重大疑惑 》
ネットの拾いもの。
《 日食の反対語は夜食。 》
4月 4日(木) 40周年
天気がいいので自転車でぐるぐる。イトーヨーカドー三島店でダブルのシーツを購入。女性店員から「これ、ダブルですけど」と訊かれる。鋭い。独身と見抜かれた。足を伸ばして昭和レトロ物件を写真に撮る。コンクリート製の高さ2メートル、縦横3メートルほどの立方体が地面から出ている。配管から見て給水施設のよう。苔むした二基を撮影。富士山を背景に高圧鉄塔・三島線2も撮ろうと思ったけど、これは陳腐、見送り。使用のカメラは、先だって近所で購入したレンズ付きフィルム。デジカメなんぞは持っておらん。
去年の十月に企画展をした木彫作家下山f氏のアトリエを訪問。完成間近の『母子像』を拝見。抱かれている赤ん坊の口元が個性的。依頼主が写真を持ってきて、この顔に似せてくれ、と。たしかにそっくりだ。ベテランの技が冴える。庭に横たわっている大木、依頼され、これから二年がかりで恵比寿さんと大黒さんを彫り上げるという。作図を見せてもらったが、これはまたいい構図だ。二年後がたのしみ。
キャンディ−ズ公式本発売。
《 1970年代の国民的アイドルグループ、キャンディーズのデビュー40周年を記念し、初めて活動を完全記録した公式本「アン・ドゥ・トロワ」(エムオン・エンタテインメント刊)が発売されることが3日、分かった。全3巻で計約670ページ、定価2万9800円(送料・税込み)の豪華書籍で、予約者のみ入手できる異例の限定販売。アイドルグループ全盛の今、伝説の3人が本の中でよみがえる。 》
《 73年9月1日デビューし、人気絶頂だった78年4月4日、「普通の女の子に戻りたい」の名言を残し、解散した。 》
たしかに普通の子じゃなかった。魔性を秘めていた。くびったけ、ぞっこん。くびったけは「首丈」、ぞっこんは「底根」と書く。今時のアイドル歌手は、じつに物足りない。「胸丈」もない。色香が情けないほど乏しい。なにが萌え〜じゃ。萌え〜じゃ、燃え尽きない。……なにを熱くなっているんだろ。
ネットの拾いもの。
《 イセエビ、アワビ、牡蠣などが冒険する伊勢海ファンタジー 》
4月 3日(水) A、B、C、D、F、H、i、J、K、M、O、P、R、S、T、W、X、Y、Z
昼過ぎまでしっかり雨。本棚を眺めて……アルファベット一字だけが入った日本人作家の題を探してみた。
『Aサイズ殺人事件』阿刀田高、『症例A』多島斗志之。『B級グルメ大当たりガイド』田沢竜次。『Dの複合』松本清張、『D機関情報』西村京太郎、。『F氏の時計』佐野洋、『クライシスF』井谷昌喜、『すべてがFになる』森博嗣。『H(アッシュ)』姫野カオルコ。『i』今邑彩。『Kの昇天』梶井基次郎。『Kの悲劇』杠葉啓(吉村達也)、『K』久松淳、『Kの日々』大沢在昌。『女教師M』綺羅光。『Pの密室』島田荘司。『Rのつく月には気をつけよう』石持浅海。『妖盗S79号』泡坂妻夫、『パンドラ'Sボックス』北森鴻。『T型フォード殺人事件』広瀬正。『Wの悲劇』夏樹静子。『マダム・Xの春』松井須磨子。『「Y」の悲劇』有栖川有栖ほか。『名探偵Z』芦辺拓。持っていない本では ―― 『Cの福音』楡周平、『D列車でいこう』阿川大樹、『Jの神話』乾くるみ、『物体O』小松左京、『Y』佐藤正午……ちょっと見回しただけでこれだけある……なにやってんだか。
雨が上がって清冽な空気が気持ちよいので、自転車でひとっ走り。公孫樹並木の細かな枝に水滴のような薄緑の若芽が数珠繋ぎ。空にレースが掛かったよう。富士山はふたたび雪厚白化粧。ブックオフ三島徳倉店で三冊。東直己『駆けてきた少女』2004年初版、林芙美子『絵本猿飛佐助』講談社大衆文学館文庫1996年初版、姫野カオルコ『すっぴんは事件か?』ちくま文庫2012年初版、計315円。『すっぴんは事件か?』にこんな注意書き。
《 本書をコピー、スキャニング等の方法により無許諾で複製することは、法令に規定された場合を除いて禁止されています。請負業者等の第三者によるデジタル化は一切認められていませんので、ご注意ください。 》
誰が(法律?)認めていないのか、わからんなあ。
ネットの拾いもの。
《 堀北真希がCMにでてる商品は全部買う!と意気込んでいたら、ついに自動車のCM…。 》
4月 2日(火) 岡本綺堂
雨。春雨ではない。しっかり降っている。
『ちくま日本文学全集 岡本綺堂』筑摩書房1993年初版には「半七捕物帳」から五編が収録。未読の二編を読んだ。これで「半七捕物帳」六十八編のうち三十一編を読んだ。杉浦日向子(ひなこ)は解説で書いている。
《 なんのためでもいい。とりあえず生まれて来たのだから、いまの生があり、そのうちの死がある。それだけのことだ。綺堂の江戸を読むと、いつもそう思う。 》
《 うつくしく、やさしく、おろかなり。そんな時代がかつてあり、人々がいた。 》
《 うつくしく、やさしいだけを見ているのじゃ駄目だ。おろかなりのいとしさを、綺堂本に教わってから、出直して来いと言いたい。 》
二十一世紀の今日でも、全く色褪せていない。時代がここまで変化したからこそ、その深い魅力が、夜闇の底からさりげなく放射されてくる。時代は江戸末期であっても、内容はコンピュータの収集からすっと漏れてしまう、漆黒のなかの情報がそこかしこに感じられる。それを見つけるは、ひとえに読者の眼力にかかっている。そんな気がする。私でさえなんか、「半七の世界」みたいなものを書きたくなる。
ネットのうなずき。
《 国民栄誉賞、手塚治虫ももらってないよ。 》
《 最近の新聞の政治報道が政局や政治家の人間ドラマばかりになっていて、もっと政治家の業績とかこの法案が通ったら何年先には生活がこうなるといった情報がほしい。 》
TPPに関して、賛成派反対派双方が持論を戦わす、という論戦論争を仄聞にして聞かない。マスメディアの怠慢。あるいは避けている? と思ったら、毎日新聞夕刊「夕刊ワイド」がTPPによる国民皆保険の危機を紹介していた。見出しの大文字。
《 風前の国民皆保険 TPPが「当たり前」を崩す最悪のシナリオ 》
《 「薬価」を発火点に 「医療外」で議論され 混合診療広がれば… 》
本文から。
《 日本の薬価は、国民皆保険のもと多くの人が利用しやすいように、低く抑えられている。それがアメリカの製薬会社は気に入らないらしい。知的財産権の保護を理由に、医薬品や医療機器の流通の規制緩和を求めてくる可能性が高い。 》
《 色平(哲郎)さんは「薬価制度が知的財産権などの項目で議論されてしまえば、結果的に国民皆保険に影響を与える危険性をはらんでいます。TPPは普通の人の老後を直撃する問題であり、取り組みは慎重であるべきです」と話す。 》
ネットの見聞。
《 VOCA展。受賞作家が表彰されるのは当然として、実質その推薦者(所属)にも光が当たるようになっている。推薦者が選考者の「趣味」や「傾向」を念頭に作家を推すようになっても不思議はない。これを20年も続けているうち、似たりよったりの作家ばかり並ぶ「現代絵画ムラ」に。もはや「団体」展。 》 椹木野衣
4月 1日(月) もっと、「半七」!
高曇り。早朝に小雨があったようだ。
《 箸をおくと、すぐに着物に着かえて、半七は傘を持って表へ出ると、雨はまだ未練たらしく涙を降らしていたが、だんだん剥げてくる雲のあいだからは薄い日のひかりが柔かに流れ出していた。 》 「弁天娘」(『半七捕物帳・続』講談社大衆文学館文庫収録)
うまい描写だ。
《 御承知かも知れませんが、赤城下はその以前に隠し売女(ばいた)のあったところで、今もその名残で一種の曖昧茶屋のようなものがある。 》 「むらさき鯉」(『半七捕物帳・続』講談社大衆文学館文庫、『もっと、「半七」!』ちくま文庫収録)
『もっと、「半七」!』には「曖昧茶屋」の注。
《 売笑婦を抱えている茶屋。 》
売笑婦とはまた古風な。で、北村薫/宮部みゆき編『もっと、「半七」! 半七捕物帳傑作選 二』ちくま文庫2009年初版を読んだ。収録十一篇のうち六編が、講談社大衆文学館文庫と重複しない。お茶漬けの味のような、さらりとした短編。後を引く。さりげなく巧緻。
ネットの見聞。
インドネシアで味の素が販売している調味料の名前。「ほんだし」に当たる風味調味料「Masako(マサコ)」。マヨネーズ「マユミ」。液体ソース「サオリ」。
《 長嶋、松井氏に国民栄誉賞 》
エイプリル・フールかと思った。
《 運動不足で3日ほど便秘してるんだが、屁が醗酵して目にしみるほど臭い… 》
《 去年はエイプリルフールの嘘が下手すぎて多方面から怒られた。 》
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