おそらく誰も知らなかった?
21世紀におけるオープンリールの現状リポート
第5回報告 テープ鳴きとバックコート | ||
■第5回目も管理人を悩ませたトラブルのリポートです。 再生中にキーキーとテープが擦れる音がしてひどい場合は、その振動音で再生音まで歪んでしまいます。いわゆるテープ鳴きという現象です。 原因は録音機器のテープガイドとテープが接触する時に発生するのですが、いわゆる「相性」があってテープとテープデッキの組み合わせにより発生する度合いが異なる。一般的にはテープのヘッドタッチを良好にするバックテンション(テープデッキの張力)が強い機器ほどテープ鳴きの発生度合いも強いと思われます。 私の持っていたデッキでは3モーターのTEACのマシンがバックテンションが強力かつテープガイドが複雑でテープ鳴きの発生度合いが高かった。 さらに言えばリールサイズが大きくなるほどバックテンションを強くする必要があるためトラブル発生率が高くなりました。 ■そこに登場したトラブルの元凶が「バックコート・テープ」でした。バックコート・テープとは磁性面の裏側に細かい粒子の凹凸(非常に細かい紙ヤスリのような感じ)を吹き付けて走行を安定させワウフラッターの軽減を狙ったテープでした。静電気発生防止にも効果があると言われていました。 プロユースとしては60年代から使用されていたようですが民生品としても70年代初頭から店で手に入るようになりました。コーティングしてないテープに比べ若干高価だったためか「高級品」のイメージがあり、私もFMエアチェックではなくレコードのダビングに良く利用しました。 |
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そしてテープ鳴きのエースが登場した? | ||
【画像のテープで茶色い方が磁性面、黒く見える方がコーティング面】 ■左画像のSONYのSLH-275-BLという7号リールが発売されたのがバックコートテープの爆発的?普及に繋がったのではないでしょうか。 ■このテープは両面で45分(19cm速)ちょうどLPレコードが1枚収録できる長さになっており、まさにレコードのダビングのためのテープといっても良い仕様でした。SONYはこのテープを箱買い(1ダース)するとCBS-SONYを傘下に持つ強みでCBSのアーチストのレコーデッド・テープをおまけに付けるキャンペーンで売りまくりました。 他社も追随し45分テープという規格外のテープ、しかもバックコートをオープンリールの主力として発売したためたちまち70年代初頭にはまるで標準規格のようになってしまいました。 ■手触りからもいかにもワウフラが軽減される感覚が強く最初は満足していたのですが、ある時期からテープがキーキー鳴くトラブルが発生したのです。最初は原因が良くわからなかったのですが、テープを大量消費するため中古の放出品を購入するようになって主な原因がバックコートにある事がはっきりしました。 中古放出品というのは放送局が使用、編集済み(途中がスプライシングで繋いである)のため秋葉原で格安で売っていたのですがブランドはSCOCH(一応箱はそうだった)など正規品という説明だった。そしてこれらのテープは殆どバックコート加工してありました。しかしこれらは当たりはずれが激しくリールを通すだけでキーキー鳴き始めるものも多かった。 ■このようなトラブルから導き出したテープ鳴きの傾向としては ・バックコート・テープとノーマルでは圧倒的にバックコートのテープ鳴きが多い ・同じバックコートでも古くなるほど、使用回数が多いほどテープ鳴きが多い ・バックテンションの強いデッキほどテープ鳴きが多い 結局どうしようもないテープは捨てましたが、まさか21世紀になってこうしたテープを復刻するとは夢にも思っていなかったものですから・・・ ■20数年ぶりにデッキをメンテナンスしてアナログ音源のデジタル化作業にとりかかった際、当時テープ鳴きしなかったものがビリビリ鳴き出したときはショックでした。その全てがバックコート・テープでした。そしてこのアナログテープのデジタル化サービスを始めてからも、やはり10号リールのバックコートで数本トラブルが発生したので基本的には、このサイズのバックコートテープはお断りすることに決めましたが『ダメモトでも』という依頼は断りきれず苦労しました。 80年代に録音されたテープでも、すでにテープ鳴きが発生したものがありました。 結果的に数回再生してもテープ鳴きの歪みが入る場合は依頼者には「どの部分に何秒歪みが入る」と明記して復刻することになりました。バックコート・テープの”被害”は歪みだけにとどまらずテープのエッジがガイドにこすれてぼろぼろと落ちてしまうという事態まで発生しました。 ■はっきり言ってアマチュア機器向きにバックコートを発売したのはメーカーの失敗だったと思う。そもそも何年も経過したテープではなく現役利用のものでもトラブルが発生したのですから。プロ機器はテープの走行系で擦れるように接触するのはヘッドだけで他のガイド部分は殆ど回転式になっているため摩擦係数が低い。反面民生用はプロから見ればオモチャのような作りですからテープがガイドと擦れる部分が非常に多い。メーカーはそれを十分承知の上で発売していたんだと思いますよ。 |
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対策として試した方法 | ||
■録音機はアナログ機器なので、その時々で鳴きが出たり出なかったりする事がある。せっかく途中まで調子よく再生していたのに最後の頃にキーギーという不快な音がしだすと本当にガックリしてしまいます。とにかくテープと接触して摩擦する部分を滑らかにしようと、様々な方法を試しました。 なお、テープの走行上接触する部分はヘッド以外も全てクリーニングして再生することは言うまでもありません。 ・デッキを立ててある場合、水平にする(逆も試す) ・接触する部分にスプライシングテープを貼る ・テープクリーナーを綿棒に浸しテープに浸けながら再生する ・10号リールの場合7号以下のテープに巻き取って再生する ・2台以上デッキがある場合は別の機器で再生する 等々あらゆる手段を試して効果がある場合もありましたが、いずれも付け焼き刃的な方法であり、ダメな時はだめでした。今だから管理人は声高に叫びたい。「アマチュア録音用にバックコート・テープなんて売るな!」・・・今更この時代に言っても始まらないイチャモンの最たるものか(^^; |
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第1回報告 サービス開始と終了について 第2回報告 テープ切れの傾向と対策 第3回報告 120分カセットの修復 第4回報告 テープのカビについて 第6回のお話へ(Coming soon) |
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Last Update 2007.10 |