布石の常識4

7 視野を広げ、局面全体を関連づける
視野を広げるということは、ものすごく大事なことです。局部だけにこだわっていると、碁盤全体の関連を見失ってしまい、いきあたりばったりの碁になってしまいます。
こっちはこっち、あっちはあっち、という碁を打ってはいけません。碁盤は一つの土俵であり、全部関係があるのです。
視野を広くすれば、それだけ碁盤がせまく感じられ、全体の関連がつかみやすくなるということです。
1図
白1とツケられたところです。黒はどう応じるかですが、定石を打てばいいというものではありません。まず盤面全体を視野に入れること。とくに隣り合っている左上隅と右下隅との関連をよく考慮することが大切です。



2図

黒2から4はもっとも普通の受け方であり、もちろん定石です。つづいて白5から13までで一段落です。さてこの結果はどうかということですが、まず黒12までの厚みに関して、白△が絶好点にいることがわかります。それに対して、白13までの厚みは周囲に邪魔者がなく、十分な働きが期待できます。ということは、黒やや不満のワカレです。白△を無視した定石を選んだことに罪があります。
3図   白12ウチカキ(1の右)

実戦は黒1とツケました。黒13まではやはり定石ですが、これなら黒に不都合はありません。前図とくらべ、四連星の大模様作戦がそのまま生かされていることもおわかりでしょう。




4図

左上隅の白に対し、黒1とカカルか、aとカカルかという問題です。とくに隣の隅との関連を考慮に入れることが大切だといいましたが、本当は隣の隅だけでは足りません。やはり、盤面全体を視野に入れることが必要です。
この配置では、左下隅に強い石があるので、黒1とカカって左辺を地模様にするのが正しい・・・・・と思われる方が多いのではないでしょうか。実際にやってみますと、黒1から5のとき、白6のヒラキが絶好点になることがおわかりでしょう。左辺は予定通り地になりますが、平板な地模様で、もりあがりに欠けます。
黒3で単にbcも考えられますが、どちらにも隙があり、囲い方がもうひとつピッタリしないのも不満でしょう。
5図

黒1とカカルほうが正しいのです。黒5までとなった局面全体を視野に入れてください。きっと改めてお気づきになることがあるでしょう。そうです。黒▲とヒラキがサン然と輝き、上辺から右辺にかけて、黒の一大勢力圏ができあがっているのです。前図の左辺の黒地とはスケールの点で比較にならないでしょう。左上隅をどちらにカカるかに関して、右辺黒▲の石まで視野に入れなければならないという実戦例でした。
6図

これも実戦例です。黒1のカタツキから白4までとなれば、左上隅か右下隅かの選択では黒5の左上隅です。なぜなら、白4のスベリがきて下辺は広義のダメ場になっており、右下隅はそれだけ価値が損なわれるからです。


ポイント
視野を広く、ということは布石に限らずいつも大切なことです。

布石の一隅で戦いを起こす時は、とくに隣り合った隅の配置に眼を向けることです。

ダメ場に石がいかない様に用心が必要です。



8 戦いの様相になったら攻守兼用の手を心がける

秀策の「耳赤の一手」が妙手としてあまりにも有名なのは、一手が何重もの働きをしているからです。
碁というものは、守りだけの手というのは気が利かないし、攻めるだけというのもいわゆる「アマリ形」になる可能性が強く、こわいものです。常に攻めと守り、二つの働きを持つ手を心がけてください。この場合の攻めと守りは広い意味に解釈してよく、ねらいを持つ手も攻めに含まれるし、地を囲う手は守りに含まれるでしょう。布石においても、相手が近くへきたとき、さっそく、攻守兼用の手が求められます。
1図

白1のカカリに対し、黒2、4はいずれも攻めながら地を守る手で、二重の働きを持った好手です。
白5のとき、黒6のコスミもそうでしょう。白の根拠を奪いながら、上方の地模様を固めています。黒6で・・・・・
2図

黒1のトビも攻守両用ではありますが、ややきびしさに欠けます。
白2、4のツケヒキが根拠と実利に関して大きな手です。白6まで、白の形は完全とはいえないまでもかなりゆとりが生じました。

3図

今度は少し図柄が違います。黒1、3はやはりいい手ですが、白4のとき、黒5はどうでしょうか。攻めの意味ははっきりしていても、守りの意味がはっきりせず、攻守兼用とはいえません。黒5はaが普通でしょう。






4図

ワリウチの白に対して、黒1といっぱいにツメたのは、白2のとき黒3とコスむ作戦です。白は二間ビラキをしているものの、両方からツメがあれば、相当な攻め味があります。
とくに黒3のコスミにご注目ください。星からいきなりコスむ形はふつうはあまり打たれないものですが、攻守兼用の意味があるので、この場合「この一手」です。白4は黒からこの点のヒラキが好形なのでそれを妨害しました。黒5も大切な一手です。その理由はあとでいいましょう。

5図

白二間ビラキのとき、黒1の大ゲイマ受けは白2とスベられます。ここにスベられると、白に対する攻めはほとんどねらえません。とすると、黒▲へいっぱいにツメた手の顔が立たなくなります。攻めをねらわないのなら、黒▲はaにひかえ、右下隅の守りを固めるほうがマシです。
6図

4図黒5の必要性について。これを怠って白1とスベられると、隅の黒は地を失い、先に黒▲とコスんだ石が攻めるだけの意味になってしまいます。まさか白1に対していまさら黒aと受けるわけにもいかないでしょう。

7図

実戦例
白1は攻守兼用の味わい深いサガリでした。黒2、白3の調子を求め、なお攻めをうかがいます。白1がないと、黒aが脅威でしょう。




ポイント
攻守兼用の手は、働きが二倍あります。一見小さそうでも中身が濃いのです。


戦いの様相になったら、つねに攻守両用の手を打ちたいものです。

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