布石の常識2

3 ハサミはきびしければよいというものではない
ハサミは一間バサミから三間バサミまで、それと、それぞれに高いハサミと低いハサミがあるので6種類ということになりますが、性質としてとくに知っておかなければならないことは、近い一間バサミと、遠い三間バサミの違いでしょう。二間バサミは、その中間ということになります。
よく一間バサミのことを「きびしい」といいますが、厳しければいいというものではありません。一間バサミの厳しさとは、戦いが急になるということです。それにくらべて、三間バサミは戦いがゆっくりします。
1図

例えば、この配置なら、a〜fの六種類、それぞれ性質が違うだけで、どれがいいということはありません。




2図

この配置ならどうでしょうか。上方に黒の厚みがひかえていることに注目してください。背景がこれだけしっかりしていれば、急戦であればあるほど、厚みが働くという考え方が成り立ちます。そこでここは、黒2と一間にハサみたくなるでしょう。黒aの二間高バサミでも悪くありませんが、少なくとも黒bの三間バサミでは上方の厚みとの間合いがせまく、ぬるい感じがします。
3図

では、この黒1はどうでしょうか。左方に白の小ゲイマジマリがあり、白2、黒3のとき白4のハサミ返しを絶好にさせます。相手にきびしい手は、自分にもきびしくハネ返ってくることを忘れてはいけません。




4図

左下隅の白をハサむのに私は黒1の一間高バサミを選びました。これを選んだ目的は何だったでしょう。
上方、黒▲があることに注目してください。ここの援軍で左辺は黒が断然優位です。それならば、できるだけ激しい戦いに導きたいところです。したがって、一番厳しいとされる一間高バサミを選びました。
白2のケイマには黒3。白4のとき、黒5の大場に転じています。左下隅の白はまだおさまっておらず、二手と二手の交換は黒の働きでしょう。このあと、黒aと地を稼ぎながら白を攻めるのが、楽しみです。
5図

黒1の二間バサミはどうでしょうか。黒▲との関連もちょうど二間ビラキで、しっかりしています。
しかしそれだけに、白2から4とかわされ、白△を捨ててこられるのがちょっとおもしろくありません。黒aのとき、他の大場に回られてしまうでしょう。
6図

一間バサミの場合でも、白1とかわされる心配はないかどうか。しかし、一間高バサミの場合は黒2のツケがあまりにもピッタリしています。白3のとき黒4。白一子のこの取り込み方は理想形といってよく、これで黒不満というのではハサミ自体が悪手になってしまいます。
7図

黒1の一間バサミはどうでしょうか。黒aと逃げてくれれば黒bで順調ですが、やはり一子を捨てられることを考えなければなりません。その場合はいずれ黒cとツケることになりますが、黒1からcとツケるよりも、dの一間バサミからのツケのほうが好形でしょう。
ポイント

一間バサミは戦いが急になる。背景に強い石があれば、一間バサミが好ましい。

相手にきびしいハサミは、自分にもそれだけの反動がくることを忘れないように。


4 根拠を確かめる手は見かけ以上に大きい
布石の段階でも、石の強弱にはかなり神経を使わなければいけません。弱い石があると、それを攻められて主導権を握られるうえ、うまい汁を吸われてしまいます。むやみに弱い石、重い石を作ってはいけません。また、弱い石ができたら、思い切って捨てる作戦も考えるべきでしょう。
1図

一間バサミの定石を例にとります。白3から9まで、いち早く石の安定をはかりました。この中でおろそかにしやすい手は、白9ではないでしょうか。なんだかヨセの手みたいで、あわてて打つ必要はないように思われるかもしれません。しかし、これは絶対といってもいいぐらいに、大切な手です。

2図

前図の白9で、かりに白1のカカリに転じたとしましょう。すると白3のとき、すかさず黒4とオサえられます。白に眼形はあっても、二眼はできそうにありません。となれば外へ逃げなければなりませんが、たとえば白5なら、黒6と乗じられます。白7に黒8です。攻めながら地模様ができる、黒にとって理想的な展開になってきました。この調子で、右辺の地模様も固まっていくことが考えられます。
3図

黒1の三間バサミに白2から6は同じようなおさまり方ですが、この場合は黒7のとき白8と転じてもかまいません。黒1が遠い三間バサミのため、黒aとオサえられても白bで安定をはかる余裕があるからです。




4図

この局面で、次の一手はと問われれば、やはり黒1のオサエでしょう。黒▲のコスミが攻めに利いていて、白は一眼しかありません。となれば、白2と逃げるぐらいなものです。黒3が好調です。白2、黒3の交換をしてもらうだけでも、黒1の値打ちがあるでしょう。さらに黒aのオシも白にひびく手ですから、白bと入ってくるような手はまずかんがえられません。黒1のオサエにより、右辺に黒地のまとまる可能性が大きいということです。
5図

黒1とハサまれたとき、小目の白をどうサバくか、いうところです。上方の黒の厚みに注意してください。モタモタしていてこの厚みに働かれては嫌ですから、白としては早くおさまることを考えるのが得策です。その手段として、白2のツケを選びました。黒3のとき白4のツケが肝要です。相撲の差し手争いみたいなところで、白4の意味についてはあとでふれます。白6のオサエまで、いち早くおさまり、目的を達しました。
6図

最初、白1のコスミも考えられるところでしょう。すると黒2とヒラかれそうです。そのあと、白3のコスミツケには手を抜かれます。黒▲の一子がいわゆる「軽い石」であることに注意してください。これにくらべ、5図は黒3とノビさせ、黒の負担を重くしているところに働きがあります。









7図

5図の白4の意味ですが、このようにすぐ白1とオサえるのは黒2、4とデギられて困るので、その防ぎだったのです。


ポイント

弱そうな石を作った時は、おさまるアテがあるかどうかをよく確かめること。

多少ぬるいように見えても、石をきちっとおさまる手はものすごく大きいのです。


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