妙なこと 第二話 (5)

義雄が台所に来るとあとから修二と、美加がすぐ来たのでした。
「なんだお前たち?!」と、義雄が言うと、
「なんだかのどが渇いてきちゃったから、」
と、美加が言ったのです。
「俺も、のどが渇いたから」
と、修二も言いました。
そのあとに美津子が来たのです。

「お母さん!。今飲んだのにまたのどが渇いたのか?!」
と、義雄が訊きました。
「みんないなくなったんで、ひとりじゃいやだから来たんです。」
と、美津子が答えると、
「そうか、そうか!。よし、よし!。」
そう言って、美津子を抱きしめた義雄でした。

「お父さんよして!。子供たちの前で!」
と美津子が言うと、修二が言いました。
「別にかまわないよ!。それが夫婦というものですから!」
「お母さんの気持ちわかるわ!」
「ひとりでいるのは、なんかいやな感じがする。!」
そう子供たちに言われて、
そのまま義雄に抱きしめられていると、
気持ちが落ち着いた美津子でした。

義雄は、一番最初に缶ビールを、
修二と美加は、グラスに注いだウーロン茶を、
美津子は、グラスに注いだオレンジジュースを、
それぞれが持って居間に戻ったのでした。
そしてみんなが席につき、
義雄がビールをジョッキに注ぎ終わると、
また修二が話し始めたのでした。

「俺と同じ道にいる自転車に乗ったおばさんが、
ひとりは、歩道のほうを走ってきて、
もうひとりのおばさんは、俺と同じように車道を走ってきたんだ。」
「話しながら来たみたいだったんだけど、そのまま来るとぶつかると思い、
俺は右の車道のほうによけたんだ!。」
「そして俺は一応ブレーキを踏んで足をついて止まっていたんだけど」
「そのおばさんは気がつくのが遅かったようで、
ブレーキを踏んだようだったんだけど、
俺の自転車の50センチか、30センチかそのぐらいで、
タイヤの先が重なるくらい手前で止まったんだ!。」
と、修二が言ったのです。

「よかったじゃないの!。ぶつからないですんで!」
と、美津子が言いました。
「ほんとだ!。ぶつからないでよかったなあ!」
と、義雄も言いました。

「ふつうはそう思うだろ!」
「俺もぶつからないでよかった!。そう思ったんだ!」と、修二が言うと、
「なに!。どうしたの?!」
と、美加が訊きました。
「ブレーキ踏んで止まったら、ふつう足をつくだろう?!」と、修二が言うと、
「あたり前じゃないか!。足をつくに決まってる!」
と、義雄が言いました。

「ところが俺もびっくりしたんだけど!。」
「そのおばさん!。ブレーキを踏んで止まったまんまの状態で、
俺のほう側に倒れたんだ!」
「びっくりしたヨオー!」
「ふつう考えられないだろう!」
修二はそのときの状態を、
「こんなかんじで倒れたんだ!」
そう言って、座ったままからだを使って、倒れて見せたのでした。

「それから一瞬、まをおいて倒れたおばさんに大きな声で言ったんだ!」
「おばさん!。だいじょうぶ!!。」
「そのおばさんが立ち上がって言ったんだよ!」
「”だいじょうぶ!。だいじょうぶ!。”ってね。」
「そして自転車を起こすと、もう5mか6mぐらい先にいってしまい、
止まって待ってるおばさんに言ったんだ!大きな声で!」
「ケガなくて本当によかったわよー!」
「ってね!。」
「そして、何もなかったような態度で自転車にまたがり、
走り去っていったんだ!」

「しばらくその二人の後姿を見ていたんだけど、
”早く帰らなくちゃ”
と思い、帰ってきたんだけど!」
「まったく!、わけのわからないことだらけだったよ!」
そう言い終わると、ウーロン茶を一口飲む修二でした。

「世の中には説明がつかないことがあるって言うけど本当ね!」
「しかもきょう、お父さんと修二が、
同じような不思議なことに出会うなんてネ!。」
そう言うと美加も、ウーロン茶を一口飲んだのでした。
「だけどヘンよねえー!二人とも周りに、だれもいなかったなんて!!??」
そう言うと美津子は、ジュースを一口飲んだのでした。

「修二!。ところで橋を渡ったところにあった、
おじいさんとおばあさんでやっていた、
鯛焼きの店は今もやっているのか?!」
と義雄が訊きました。

「おじいさんか、おばあさんか忘れたけど!。」
「どちらかが病気になったとかで、店は閉まったままだよ!。」
と、修二は答えたのです。
「じゃあ、別に問題はないのか!?」
「でも今考えても、あのときの様子が、半年前に来た風景と違っていた
ように思えてならないんだ!?」
そう言うと、アジのフライをつまみ、
ビールをジョッキの半分ほど飲んだ義雄でした。

「お父さんより、俺のほうがもっと!、わけのわからないことだらけだよ!。」
そう言って、グラスのウーロン茶を、飲み干した修二でした。






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