本来コーヒー紅茶などをお出しして、御もてなししなければいけませんが、
インターネットの都合上それができません。
ご自分で好きなものを適当に用意していただき、
キーボードなどの上にこぼさぬよう注意して、
ときどき飲みながらでもお読みくださいませ。 m(_ _)m
義雄が風呂から出てきて、
冷蔵庫から缶ビールを出しジョッキに移し変えて、
自分が残しておいた、アジのフライを皿にとってソースをかけ、
それらを持って居間に来ました。
台所から声がしました。
ちらっ、ちらっと、義雄の行動を見ていた美津子でした。
「お父さん!。”からし”いらないの?!」
と、美津子が言うと、
「おお、忘れてた。お母さん持ってきて!」
と、大きな声で義雄が言いました。
「お父さん!。カロリーとり過ぎよ!。
刺激物はほどほどにしないとだめよ!」
と、美加に言われたのでした。
「わかったよ!。この一杯で終わりにするから。」
娘に言われるのが一番こたえる義雄でした。
美津子がからしを持って台所からやってきました。
「お父さん!。ハイ!これ。」
そう言って義雄の前におきました。
「おお、ありがとう!」
といってチューブから、からしをほんの少し出して、皿につけました。
「お父さん。いつももっとたくさん付けるのにどうしたの?!」
と、美津子が言いました。
「お姉ちゃんに、”刺激物はほどほどに”って言われたんだよ!」
と修二が言うと、
「まったく!。私が言っても”わかってる”って言うだけで聞かないのに!」
と、怒ったように言った、美津子でした。
「たぶん!きょうだけだと思うよ!。」
と、修二が言うと、
「そうね!、きょうは幽霊を見たから!」
と、笑って言う美津子でした。
「そんなことより早く話せよ!。修二!」
そう言って、はぐらかそうとした義雄でした。
「これからも気を付けてくださいよ!お父さん!」
「いくら私が言ったって、自分で気をつけなきゃだめなんだから!」
「もう!。五十を過ぎているんだから」
そういう美津子でした。
「わかった!。わかった!。」と、義雄は言ったのですが、
「お前が”からし”って言わなきゃ美加に”刺激物はほどほどに”って
言われなくてもすんだのに!」と、心の中で思う義雄でした。
「お母さん!、もうよしましょ!」
「それより、修二!。早く話してよ!」
と、美加が言いました。
「じゃあ、どっから話するかなあ?!」
そう言って少し考えたあと、
修二は同級生の家から戻ってくるところから話し始めました。
「直樹のところへ本を返したあと、」
そこまで言うと美加が言いました。
「だれ?!。直樹って?!」
「川から向こうは校区が違うだろ!。」
「高校に入って、クラスがえで新しく友達になったやつだよ!」
と修二が言うと、
「ふーん」と、美加が言ったのです。
「だから、直樹の家を出て橋に行く道路に出たんだ!」
「それからまっすぐ道なりに行けば橋を通るんだけど」
「歩道の幅が狭くて、横に自転車2台で走ってくと、歩いている人が来ると、
かわらないんで、俺はいつも車道の歩道に近いとこを、走って行くんだ!。」
「いつもと同じように走って行って、カーブを過ぎて、
橋の手前30mぐらいになると、橋までまっすぐなんだ!」
「そのへんは、街路灯が10mおきぐらいにあって、夜でも明るいんだよ!。」
「橋のほうを見たら、いつもは車が走っているか、人が歩いているのにそのときは、
だれも歩いてなく、車も通っていなかったんだ!」
「今までそんなことは一度もなかったもんでヘンだなあって思ったんだけど、
そのまま走ってすぐに、あたり全体が薄暗くなったような感じがしたんだ!」
と、修二は言ったのです。
「それって!お父さんの話に似ているね!?」
と、美加が言いました。
「ほんとね!」
と、美津子が言ったのです。
「ほんとだ!」「それからどうなったんだ!。」
と、義雄が言いました。
「うん。それから最初、影のようなものを見たんだ!」
「俺のほうのまっすぐ前に二つ。反対の車道よりに三つ」
と、修二は手でジェスチャーをまじえて言ったのです。
「その影のようなものが沸いてきたというか、出てきたって言うか、
そのへんの言い方が難しいんだけどね!」
「その影のようなものが、自転車に乗っている人間の影に見えたと思ったら!?」
「一瞬のうちに、自転車に乗っているおばさんになって現れたんだ!」
「ほんとだよ!。」
それを静かに聞いていた義雄が、ビールを一口飲みました。
「五つの影みたいなものが、自転車に乗っている人間の影になって、
その影が一瞬のうちに、本物の自転車に乗っているおばさんに代わったんだ!」
やはり静かに聞いていた美津子が、言いました。
「お父さん!。わたしにもビールちょうだい!。」
黙ってジョッキを差し出した義雄でした。
そのジョッキの取っ手を握ると、一気に飲んでしまった美津子だったのです。
「おい!お母さん!。俺のを、全部飲んじゃって!」と、義雄が言うと、
「冷蔵庫に缶ビールがあるから、自分で持って来て!」
そう答えた、美津子だったのです。
「わかったよ!」
そう言って、台所に向かった義雄でした。