妙なこと 第一話 (5)

「お父さん、出たわよ!」
美加が、バスタオルで髪の毛を拭きながら、
義雄のとこに来て言いました。
「おお、そうか!」「じゃあー、入るとするかなぁー!?」
義雄はそう言って服を脱ぎ始めました。
「お父さん!やめてよ!?お風呂場で着替えて!!」
と美加が言うと、
「わかった、わかった!」そう言うと、
途中まで脱いだ服を持って、風呂場に向かった義雄でした。

「お父さん、着替えは?」と、美津子が訊くと、
「おお、タンスから出してこっちにある!」と義雄が言い、
「洗い物は洗濯機の中に入れといてね!」と、美津子が言ったのです。
「洗濯機、回ってるぞ!」と義雄が言うと、
「また美加ね!じゃー、あいてるカゴに入れといて!?」
と、美津子が言ったのです。
「わかった!」そう答える義雄でした。
「まったく、自分のしか洗わないんだから!?」
「洗剤もお水も、もったいないんだからぁー?!」と、つぶやく美津子でした。

「次は誰が入るんだ!?」そう言いながら、義雄が風呂から出てきました。
「俺はあとにする」「修二お前は?」と、和雄が言うと、
「どうしよーかな、やっぱりあとにするよ」と、修二が言い、
「じゃあ、めし、めし」。「おい!、美加は?」と義雄が訊ねると、
「おねえちゃんは、まだ髪の毛のお手入れさ!」と、修二が言ったのでした。
「まったっくあいつ、時間かけったって金髪になるわけじゃないのに!」
と、和雄が言ったのです。

「修ちゃん、呼んできて!」と、美津子が言うと、
「またおれ、たまにはお兄ちゃんに言ってよ!」と修二が言ったのです。
「よし!おれが呼んできてやる!!」そう言って和雄が席を立ったところで、
「お、ま、た、せ。!」と言いながら、美加が来ました。
みんなで美加のほうを見ました。
みんな口々に言いました。
「なんだ!」。「あれー!」。「およよ!」。「ごっつあんです!!」。

「おまえ、あたまがおかしくなったのか?!」と和雄が言いました。
すぐ続けて修二が言いました。
「おまえ、あたまがよくなったのか!」
ワンテンポ遅れて義雄が言いました。

「おまえ、金髪に染めたのか?!」
「違うわよ!、か。つ。ら。」と、美加が答えると、
「小五郎か!」と、間髪を入れずに言ったのは、義雄です。
「お父さん、面白くない!」そう言ったのは、美津子でした。
よくわからない家族です。

「今度、学園祭でファッションショーに出るのよ!」と美加が言うと、
「いつだ!」そう義雄が訊ねると、
「再来週。お父さん来ないでよ!」と、美加が言い、
「そりゃー、そうよねえー?!」と、美津子が言ったのでした。
「おねえちゃん!かっこいいじゃん!!」と、修二が言ったのです。
美加は、けっこう頭もよく、美人で、ユーモアもあり、
修二の自慢の姉です。

「へ、へ、へ、へ。どう?!わりと似合うでしょう!?」と、美加が言うと、
「ほんと!似合うわよ!」
「どうしたの、それ?」と、美津子が言いました。
「友達の知り合いの人から借りたの!」と美加が言うと、
「美加、そいうのってたかいのよ!なくしたらたいへん!!」
「弁償しなきゃー、ならないじゃないの?!」と、美津子が言ったのです。
「そうだって、だからあした返すのよ!」と美加が言うと、
「ならいいけど!早くしまってご飯にしなさい!!」
と、美津子が言ったのでした。

「はぁーい」と、ルンルン気分で答えた美加だったのです。
おとこ3人は、ぽかんとした表情で美加の後姿を見ていました。
修二が言いました。
「お姉ちゃんきれいだったけど、女ってすげーなー!?」
「髪の色と形であんなに変わるなんて!」
「修二!?きれいなんていうなよ!あいつ調子にのるから!!」
と、和雄が釘をさして言いました。

「”似合ってる”って言っとけばいいからね!」と、美津子も言いました。
「ほんとに、女は化け物だなあー!?」と、余計なことを義雄が言ってしまったのです。
「わたしも女よ!」「化け物??!」
と、美津子が義雄のほうに顔を向けて言いました。
「一般論を言ったまでで、お母さんのことを言ったわけじゃーないから!?」
「ね。ね!!」と頭を振りながら、弁明する義雄でした。

美加がこっちに来ます。
それを見た義雄が、わざと大きな声でいいました。
「久しぶりだなー、全員で夕飯食うなんて!」「わぁ、はっはっ!」
和雄が調子を合わせて、
「お父さん、最初はビールからにする?!」
「そうだなー、ビールにするか!」
和雄が気を利かせて、
「お母さん、ビール少し飲む?」と言うと、
「そうねえ、少し飲もうかしら?!久しぶりにみんな揃ったから!?」
と、美津子が答えました。

「美加と修二は、何にするんだ?」と義雄が言うと、
「おれは、ウーロン茶。もう注いであるよ!」と修二が言い、
「わたし、ワイン。しかも赤の!」と、美加が言ったのでした。
「おまえ、ワインは一気に飲まないと、味が落ちちゃうんだぞ!」
「お父さん、ビールのあとワインでいい?」と和雄が言うと、
「お父さんは何でもいいんだよねえ!?お父さん?!!」
と、美津子が顔をのぞくように言ったのです。

「うん。俺は、何でもいい!」と、義雄は言ったのですが、
少し笑っているけど、少し引きつっているようでした。
「じゃー、乾杯するか!?」と、義雄が言うと、
「なんに乾杯するの?」と、修二が訊いたのです。
「そうだなー、じゃあ!?みんなの健康を祝してかんぱい!!」
義雄がそう言ってジョッキを高く上げたのです。
みんないっせいに、手に持っているものを上げたのでした。






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