妙なこと 第一話 (3)

きょうは西からの風が少し強く吹いてます。
風船は、斜めになりながら上へと上って行きました。
空にはそんなに大きくない雲が、5,6コ浮かんでいます。
「やっぱ、へんだよなぁー?!」修二がしきりに首をひねっています。
雲が西から東に少しづつですが動いているのが見えます。
車も動いているのですが、よくわかります。

「あの雲だけ1つ止まっているよ!やっぱり!!」
「どれどれ!?」と和雄が雲のほうを見ると、修二が指をさして言いました。
「あれだよ!?あの雲!あの雲だけ動いてないんだ!!」
全員が雲のほうを見ました。
「お父さん!危ないから前見てて!!」と、美津子が叫びました。
そう言われて、義雄が顔をまっすぐに向き直したのです。

「危ない危ない!?修二余計なこと言うなよ!!?」と義雄が言いました。
「ごめん!でも本当だよ!!」
「ね!ほらー!?」と修二がまた指をさして言いました。
見ていた3人が口々に言いました。
「あれ、ほんとだ!」。「まーほんと!」。「どすこい、どすこい!」

義雄は見たくてしょうがありません。
ちょうど信号で止まったので見ようとしましたが、
ビルが邪魔して見えません。
「なんだぁー?!ビルが邪魔して見えないよー!?」
そう義雄が残念そうに言いました。

「不思議なこともあるものね?!」と美津子が言いました。
「あれって、どういうこと?!」美加がみんなに訊(き)くように言いました。
「あの雲は、きっと重い雲だったんだ!」
「軽い雲は、風で飛ばされて動いたんだよーきっと!」と、修二が言いました。
「でもなー、あの雲さー!??」
「止まってるというより、少し逆に動いていなかったか?」
和雄がそう言ったのです。

「そうよ!わたしも少し逆に動いていたように見えたわ?!」
「車が動いてたから、はっきり言えないけど!?」
「お母さんはどおー?」と、美加が言いました。
「わたしも、少し逆に動いていたような感じがしたわ?!」
「車は動いてたけど!」と美津子が言いました。

義雄がつまんなさそうに言いました。
「お前たちはいいさ!」
「俺は、運転してて何にも見てないんだから!?」
すると、
「お父さん!すねない、すねない!?」
「携帯で撮ったから、あとで見せてやるよ!」と修二が言いました。
「おお、そうか!さすが修二だ!ぬかりがない!!」
と言って、機嫌を直した義雄でした。

家まではもう少しですが、渋滞(じゅうたい)が続いています。
「この通りの信号が変わるのが、横の通りより短いよなー!?」と和雄が言うと、
「横の通りの信号に右折(うせつ)の矢印ができてから!?」
「向こうのほうが長くなったんだ!!」
と、義雄が言いました。
「へー!?そうなんだ?!!」
「前は、同じぐらいだったもんなぁー!?」
「正月のときは気がつかなかったよ!?」と、和雄が言うと、
「正月はすいていたからだろー!?」と義雄が言いました。

「お兄ちゃん!お正月、車に乗った?」と、美加が訊(たず)ねると、
「そういえば、乗ってなかった!」
「それじゃーわかるわけないよ?!」と、修二が言ったのです。
「ごめん、ごめん!」と言って、頭をかく和雄でした。
みんな口々に笑いました。
「はは!」。「ひひ!」。「ふふ!」。「へへ!」。「ほほ!」。
ふつうなら20分ほどで帰って来れるのですが、
きょうは、かなり混んでいて30分ほどかかりました。

家に着くと、
さっそく修二の携帯で写したムービーを見ようと、義雄が言いました。
「修二!携帯は?!すぐ見よう!」
「はい!」と言って、修二が携帯をよこしました。
「これ新しいのだろ!やってくれ!!?」と義雄が言うと、
「ちょっと待ってよー!?着替えるから!!?」と修二が答えると、
「お父さんも着替えたら?!」と、美津子が言いました。

「じゃあ、そうするか!?」と言うと、急いで着替えにとりかかる義雄でした。
「けっこうきれいに写っているよ!」そう修二が言ったのです。
「どれどれ、」
「修二!きれいに写ってるけど、ゆれてるぞ!!?」
「これじゃー、逆に動いてるかわからないなー!??」
そう言うと義雄は、少しがっかりしたようでした。

「車に乗りながら写したんで、動いてんだよー!?」
「うまく写したつもりだったんだけど!?」
「ほんとにこれじゃー、わからないなー?!」
「やっぱ、画面が小さいんで無理だったのかな?!」
と、修二もがっかりしたように言ったのです。
「そりゃー!?肉眼で見るのと!」
「携帯の小さい画面で見るのとじゃー!?ぜんぜんちがうさー?!!」
と、和雄が言ったのでした。

「残念、で、し、た!」美加が余分なことを言ってしまったのです。
「お姉ちゃんは見たけど、お父さんは見てないんだぞー!!?」
と、修二が怒った口調で言いました。
「ごめん!修ちゃん!?せっかく撮ったのにネ!!?」と美加が言うと、
「いいよ!もう!?」と言うと、
何度も繰り返して見直す修二でした。






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