携帯によろしく 第七章(10)

この日は一日、仕事になりませんでした。
ユーのベッドに横たわっている姿を実際に見て、
彼女との思い出が蘇(よみがえ)って来たのです。
話しかけても何も答えぬ再会に、
一平の心は動揺を隠せなかったのでした。

仕事に集中しなければと思っても、
ふと、ベッドに横たわる彼女の姿が脳裏(のうり)に浮かび、
そして楽しかった幸せの日々が思い出されたのです。
その繰り返しの一日でした。
彼女に何もしてやれないつらさが増す、一日でもありました。

「一平!?どおだー今夜一杯やらないか!?」
と定時の終了のBGMが流れると、
泰三がすぐに一平のところにやって来て言ったのです。

「きょうはなんか疲れたので、まっすぐ帰って寝ますよ!?」
と、いったん答えたのですが、
答えてすぐの心配そうな泰三の顔を見て、
「そうですね!?一杯やりますかー!!?」
「でも先輩!デートはいいんですか?!」
と一平は言ったのでした。

「お前さー!毎日デートしていたら!??」
「夕食どきだろ!?金がいてしょうがねえーやー!?。」
と笑いながら言ったのです。
「じゃあーいつもの店に寄りますかー!?」
「モツの煮込みで!!?」
「ご飯ものもあるし!!」
と一平が笑顔をとり戻し、言ったのでした。

「なんせ!安いしなあー!!?」
と、泰三もうれしそうに言ったのです。
「じゃー!?着替えますかー先輩!!?」
と一平が言うと、
ふたりは着替えを済ませ、会社をあとにしたのでした。

通いなれた店に着くと、
会社帰りのサラリーマンで、混んでいました。
座敷はいっぱいで、カウンターに座ったのです。
ふたりはモツの煮込みと瓶ビール1本を、
先に注文したのでした。

店員がすぐに注文したものを持ってきたのです。
通いなれた人たちは、
ほとんどがこのパターンか、
焼酎を加えたパターンでした。
ビーチュウにするのでした。

ふたりは、ビールをお互い注ぎあったのです。
「お疲れさーん!!?」
と泰三が言うと、
「お疲れさーんでーす!!?」
と一平が言って乾杯をし、
ふたりはモツの煮込みをつまみに飲んだのでした。

ビールが終わりに近づくと、
梅割りを注文したのです。
「なあー!?彼女にはもう話したのか?!」
と泰三が言うと、
「きのう電話があったので、見舞いに行ったことは話しました!。」
「今彼女は忙しいので!?詳しいことは」
「今度会ったときに話すことは伝えました!」
と一平が言ったのです。

「そうかあー!?」
と言うと泰三は、話を切り替えたのでした。
「試作機の組み立てが順調に進んでてよかったなあー!?」
と泰三が言うと、
「そうですね!」
「このまま行けば修正箇所が、一個も出ないなんて、ことはないかー!??」
と一平が笑って言ったのでした。

「当たり前だー!!?」
「そんなパーフェクトな設計やったことねえじゃんかー!!?」
と笑って、泰三が言ったのです。
「設計した時点では完璧だと思っても!!?」
「どうしても修正しないと、まずくなるんですよねえー!?」
と苦笑いしながら一平が言ったのでした。

「計算通りに事(こと)は進まないってことだなー!!?」
「あしたあたりから、設計の変更が出てくるんじゃあーないのかあー!?」
と泰三がうれしそうに言うと、
「あっ!先輩!!?」
「あしたまた、彼女のところに見舞いに行かなきゃならないんで!!?」
「もし、修正が残業しなきゃならないようなら!?」
「先輩に頼みたいんですけど!!?」
と一平が言ったのでした。

「じゃあーお前の担当の設計を、あしたコピーして置いててくれなっ!?」
「いつもと同じに、修正したら、履歴に書いとくから!!?」
と泰三が言ったので、
「すいません!?恩にきます!!?」
と言って一平は、頭を下げたのです。
「一杯おごってくれればいいからよー!!?」
と、笑って泰三が言ったのでした。






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