携帯によろしく 第三章(3)

一平は作業服に一応着替えたのです。
ふだんは、スーツを脱ぎネクタイをはずし、ズボンだけ、はき替えて、
腕まくりをしてやるのですが、お得意さんの手前、着替えたのでした。
きょうは修正作業を行わないので、スーツでもいいのですが、
急に変更という事もあるので、そうしたのです。
先方からの連絡では、月曜日に担当者が打ち合わせが出来ないので、
きょう、行いたいということでした。
ところが急きょ担当者が変わるので、顔合わせに来たということだったのです。

設計の重要な箇所が済み、ほぼこれで設計が完成したという時に、
担当者が変わるのはときどきあることでした。
あとは細かなところの設計修正の連絡係とでもいうのでしょうか、
ほとんどが若手に、引継ぎされるのでした。
一平は玄関まで出迎えに出たのです。

「おはようございます!」そう挨拶すると、
今までの担当者が、
「きょう、二宮さんはいます?!」と言ったので、
「いますが、何か?!」
と一平が言うと、
「きょう他に用事があるので、じゃあ二宮さんに挨拶してから帰ります!」
と言ったのです。

一平は、今までの担当者と、新しい担当者を会議室まで案内したのでした。
「二宮さん!すいません!!急に担当が変わりまして!」
と今までの担当者が言ったのです。
「時々あることだから、気にしてませんよ!」
そう先輩が言ったのでした。

「じゃあすいませんが、私は急ぐので、彼にはすべて伝えてあるので、
よろしくお願いします!」
「こちらが二宮さん!こちらが一平ちゃんいや、山本さん!」
「この若者が、わが社の若手の中でも逸材の松平くんです!!」
そう紹介すると、
「じゃあ!?あとのことはよろしくお願いします!」
そう言って、
深々と頭を下げると、今までの担当者は帰って行ったのでした。

「相変わらず忙しそうだなあ!?」
そう先輩が言うと、
「ええ!これから中国に飛ぶそうです!!」
そう新しい担当者が言うと、
「やっぱりなあー!スーパーマンじゃあないかと思ったけど、
中国まで飛んでいくんだあー!?」
と、少し訛(なま)りのあることばで言ったのです。
「あはは!!」そう一平が笑うと、
「あはは!」と、新しい担当者も笑ったのでした。

「二宮さんって、おもしろいですね!!」
「先輩も言ってました!」
そう新しい担当者がニコニコして言ったのです。そして、
”松平健一”と書いてある名刺を出して、
「まつだいら、けんいち」と、言います。
そう言って、二人に名刺を渡したのです。
「松平健の息子さんですか?!」
先輩が名刺を受け取りそう言うと、
「よく言われるんですが、関係ありません!!」
と、答えたのです。

「だめだあー!それじゃあ面白くねえー!!?」
「なんか考えろぉ!」
そう先輩が、すこし訛りのあることばで、言ったのです。
「はあ!じゃあ!?考えてみます!」
と、新しい担当者の松平君が、答えたのです。

そしてすぐ、自分の”二宮泰三”と書いてある名刺を取り出すと、
「申し遅れましたが、わたくし”にのみやたいぞう”と申します!」
「今後ともよろしくお願いします!!」
と、まじめな顔をし、標準語で言って、名刺を手渡したのでした。
不意を突かれた松平君は、
「こちらこそ、よろしくお願いします!!」
そう言って、頭を下げたのでした。

一平も続けて名刺を取り出し、
「私は、”やまもといっぺい”と言います!」
「よろしくお願いします!!」
と言って名刺を渡し、頭を下げたのです。
「こちらこそ、よろしくお願いします!!」
そう松平君は言うと、お辞儀をしたのでした。
そして松平君は、
「すいません!二宮さん!?山本さん!?」
「ふだん!なんと、お呼びすればよいのでしょうか?!」
と、訊いたのです。






▲Top