携帯によろしく 第二章(8)

「俺と兄さんに親父が言ったんだ!!」
そう一平が言うと、
「おにいさん?!」と、育子が、少し首をかしげ言うと、
「姉さんのだんなさ!」
「姉さんの名前は好子!」
そう一平が言ったので育子は納得したのでした。
一平と言う名前からして、長男だろうと思っていたからです。

「俺と、兄さんふたりだけ呼んだんだ!」
「小さな声だったけど、はっきりした口調で言ったんだ!!」
「今思うと、最後の力を振り絞って言ったことのような気がする?!」
「おまえたち。俺みたいに、会社のためだと思って、
接待するのはいいけど。
身体を壊すまで飲んだりするなよ!!」
「タバコなんか!もう、吸うのはやめろ!!」
「”先生が言うには、血管が弱くなり、もろくなるそうだから、
ぜったいにだめだぞ!”そう言ったんだ!!」

「兄さんに、”母さんと、好子を頼む!”と言ったあと、
父さんが、”孫の顔が見たかったよ!”と、兄さんに言ったんだ!!」
「そのとき、姉さんが妊娠してて、もうすぐ生まれそうだったんだ!」
「つぎの日が予定日だったんだよ!?」
「父さんが死ぬのが先か、
子供が生まれるのが先かって言う状態だったんだよ!?」
と一平は言ったあと、目をうるうるさせながら、

「おれに!」
「”お前の結婚式を見て死にたかった!”そう言ったんだ!!」
「そして、”母さんを頼む!”って言ったあと、何も言わなくなったんだ!!」
「急いで!先生を呼んだんだよ!!?」
「部屋のそとの廊下にいた母さんも呼んだんだ!!」
「先生が来てから、5分か10分かわからないけど、
じきに亡くなったんだよ!?」
と一平が言うと、涙を流したのでした。

その話を聞いた育子は、大声で泣いたのでした。
そして、「ごめんね!」「ごめんね!!」
と、はっきりことばにならないことばで、
一平に謝ったのでした。

「ごめんよ!育ちゃん!!?」
「男なのに泣いたりして!思い出しちゃって!」
そう言うと、涙を手でぬぐったのでした。
そして、椅子から立ち上がると、
育子のところに行って髪の毛をなでたのでした。
育子はゆっくり立ち上がると、
一平に抱きつき大声で泣いたのでした。
そしてただ、「ごめんね!ごめんね!!」
を繰り返したのでした。

「もう!わかったから!?育ちゃんの気持ちは!!?」
「いいんだよ!謝らなくても!?」
髪の毛をなでながらそう言ったのでした。
しばらくすると、育子の泣き声が小さくなったのです。
「少し落ち着いた?!」そう一平が訊くと、
「うん!」と小さな声で言いうなずいたのでした。

「育ちゃんちょっと、顔を上げて!?」と言うと、
自分のポケットから水色の柄のハンカチを取り出して、
「ハンカチ王子だよ!」そう言うと、
育子の顔の涙を拭いたのでした。
育子はしばらく一平のなすがままにしていたのです。が、
「ハンカチ王子って汗を拭くのよ!」
「涙じゃないわ?!」と言ったのです。すると、
「まあー!?育ちゃんの言うとおりだけどね!!?」
と一平がニコッと笑みを浮かべて言いました。
育子もつられてニコッとしたのです。

「ところで、今!?お母さまはどうしていらっしゃるの??!」
(えっ?なして?!。)
と、育子はまことに丁寧なことばで、一平に訊いたのです。
「育ちゃんどうしたの?!」そう言うと一平は、
「座って!育ちゃん!!?」と言って、育子を椅子に座らせ、
中腰になり、育子のおでこに右手を当てたのです。
「うーん!熱はないようだけど!?」
そう言ったあと、右手をどかし、
おでこにキスしたのでした。そして、
「しょっぱいなあー!?」と、わざとおどけて、言ったのでした。
そしてまた、話し始めたのです。

「親父が死んで3時間してから、男の子が生まれたんだ!!」
「だから親父の生まれ変わりかなって思ってるんだ!!?」
「不幸なことと、めでたいことが重なってさ!なんか忙しかったよ!?」
「親父とおふくろは、社宅に住んでいたから、
親父が死んだので、出なきゃならなくなってさあー!?」
「急きょ家を探すにしても困るから、
会社に頼んで3ヶ月待ってもらったんだ!!?」
そう一平は言ったのです。






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