携帯によろしく 第十五章(10)

ちゃんこ鍋の店に着くと、座敷に案内されたのです。
部屋に上がると、一平の携帯が「ブル・ブル・ブルル」と鳴ったのでした。

「すいません!電話なんで!?」
「ちょっと行ってきまーす!」
と一平は泰三に言うと、座敷を出て靴を履き、
早足に店の外に出たのです。

「もしもしー!?」
「今電話しようと思ってたんだよー!?」
と一平が言うと、
「きょうも遅いのー!??」
と、いきなり育子が言ったのです。

「そんなに遅くならないと思うけどー!??」
「九時頃には駅に着けると思うんだよー!?」
と言うと、
「ちょうどよかったわ!!?」
「あした支度があるから!」
「付き合えないって言ったら!?」
「きょう会社の人たちと食事に行くことになったのよー!」
「だから!わたしも帰り九時過ぎると思うんだけどー!?」
と育子が言ったのでした。

「俺もそうなんだあー!?」
「あしたは用事があるからって言ったら!?」(言ってない!!)
「きょう食事を付き合わなきゃならなくなったんだよー!?」
「いつものメンバーだけどねっ!」
「その時、課長の話も聞くんだよー!?」
と一平が言ったのです。

「課長さんの話しってえー!??」
と育子が言うと、
「ごめん!長くなるから!?」
「帰ったら、ゆっくり話すよー!?」
と一平が言ったのでした。

「もし俺が九時ぐらいに高田馬場の駅に着いたら!?」
「電話入れるからねっ!」
「もし育ちゃんが駅に着いたら電話くれるかなあー!??」
と一平が言うと、
「うん!そのつもりよー!?」
「じゃあねえー!?」
と言ったあとすぐ、
「愛してる!??」
と育子が言ったのです。

「もちろん愛してるよー!!」と言った時に、
ちょうど一平の前を、アベックが笑いながら通ったのでした。
すると思わず一平は、
「じゃあー、切るねえー!?」
と言ったのです。

「誰かいるのー!??」
と育子が言うと、
「うん!ちょっとねっ!!?」
と一平が言ったのでした。すると、
「わかったわっ!」
「じゃあ、切りまーす!」
と言うと育子は電話を切ったのでした。
すぐに一平も携帯電話を閉じ、ポケットにしまったのです。

そして一平はすぐに店に戻り、
ふたりのいる座敷のところの前で靴をそろえて脱ぐと、
いったん座敷より1段低い板張りのところに足を乗せたあと、
襖(ふすま)を開け、座敷に上がったのでした。

「お待たせしましたあー!?」
と一平が言うと、
「先輩!ここー!!?」
と言って和樹が、自分の隣の座布団に手をおいたのです。すると、
「ここかあー!?」
と言って、一平は和樹の横に座ったのでした。

「ところで何にするか決まったあー!??」
と一平が言うと、
「飲み放題コースにするか?」
「お前が来てから決めようと思ったんだけどー!??」
「電話どうせ育ちゃんだろー??!」
「続けて遅く帰るのはちょっとまずいと思うんだあー!?」
と、少し笑いながら泰三が言ったのです。

「すいませーん!」
「一応!9時ごろには駅に着くよう帰るって言ったので!!?」
と一平が言うと、
「先輩も大変ですねえー!?」
「奥さんになる人に気を使わなきゃならないしー!?」
「会社の人間にも気を使わなきゃならないしー!??」
と和樹が、笑いながら言ったのでした。

「いいえー!とんでもござりません!!?」
「なんとかうまく対応いたしておりまーす!」
と一平が笑いながら言ったのです。すると、
「じゃあー!飲み放題コースはやめて!!」
「とりあえずー!」
「生中(なまちゅう)頼んで!?」
「”串焼き”って書いてあるけど?!」
「写真を見ると、どう見ても普通の焼き鳥だよなあー!??」
と泰三が、メニューを見ながらうれしそうに言ったのでした。

「おれはそのあと、ビンビールでいいですよー!?」
「きょうはあんまり飲めないから!?」
「ちゃんこはどうしますー!??」
「みんないっしょのほうがいいじゃないすかあー!??」
「先輩に任せますよー!?」
と一平が言ったのです。

「かずきー!!?」
「お前のとこにインターホンがあるから!?」
「適当に注文しろー!」
と泰三はメニューを閉じると、そう言ったのでした。

「わっかりましたあー!!?」
と和樹は答えると、インターホンを取り、
メニューを見ながら注文したのでした。






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