携帯によろしく 第十五章(5)

一平と泰三は社員食堂へ向かったのです。
入り口に着くと、
きょうの日替わり定食は、焼肉定食になっていました。

「和樹が早く来るわけだあー!?」
「みんな一斉(いっせい)に注文するから、早くなくなるんだよなあー!?」
「焼肉定食は!!?」
と一平は言うと、
泰三とふたりで食堂に入ったのです。

ちょうど入れ替わりに、
食堂のおばさんが売り切れのプレートを持って、
ディスプレイの前のところに置いたのでした。
ふたりは焼肉定食を注文したのですが、
「今売切れちゃったよー!!」
と食堂のおばさんに言われたので、カレーライスを注文したのでした。

お盆に、カレーライスと味噌汁とお茶とスプーンと箸を載せると、
和樹のいるテーブル席へと向かったのでした。
和樹はうまそうに焼肉定食を食べていたのです。
「お前!昼飯前に言えよなあー!?」
「きょう焼肉定食だってことをさあー!?」
と、一言(ひとこと)言ってから席についた一平でした。

「すいませーん!」
「やっぱり人気あるんですねえー!?」
「焼肉定食はー!!?」
と和樹は、うれしそうに食べながらそう言ったのでした。
それから三人で話をしながら食べていると、
事務員の斉藤 絵里(えり)が受付のふたりといっしょに、
三人のテーブルへ来たのでした。

「きのうはご馳走様でした!!!」
とほぼ同時に三人が言うと、すぐに、
「ご一緒させてもらっていいですかあー!?」
と絵里が言ったのです。すると、
「どうぞ!どうぞ!!」
と、うれしそうに泰三が言ったのでした。

しばらく食べながら話をしたのです。
そして、受付のふたりは食べ終わると、
「じゃあー!?」
「ガードマンのおじさんが待ってるんで!」
「お先にー!!?」
と言うと、
「じゃあねえー!?」
と言って、絵里が手を振り二人を見送ったのでした。

二人を見送ると絵里もじきに食べ終えたのです。そして、
「あのー!?」
「きのうの事件のことは!」
「二人には言わなかったんですけどー!?」
「午前中に、吉野屋のおじさんから電話があったんですー!」
と絵里が言うと、
「謝(あやま)りの電話を掛けてきたんだあー!?」
「あのおやっさんらしいなあー!?」
と泰三が言ったのです。

「ええー!謝罪してくれたんですけどー!?」
「それがあー!?」
「わたしのお尻を触(さわ)ったノムさんと言うおじさんなんですけど!?」
「精密検査したら、癌(がん)で!!」
「手術が決まった日だったそうなんですー!」
「なのできのうで飲み収めだったそうで!!」
「いつもそんなことする人じゃないらしいんですけど!?」
「つい酔った勢いでやったらしいんです!」
と絵里が、吉野屋の店主から聞いた話を話したのでした。

「そうなんだあー!?」
「気分が滅入っていて、むしゃくしゃして飲む気持ちはわかるけどー!?」
「やっていいことと、悪いことがあるよなあー!?」
と一平が言うと、
「そうですよー!!」
「絵里ちゃんのお尻を触るなんて!!」
「俺も触ったことないのにー!!?」
と和樹が、つい言ってしまったのですが、すぐに、
「そんな気持ちはぜんぜんありませんよー!!」
「軽いじょうだんですよー!!?」
と、あわてて言ったのでした。

「あのなあー!?」
と泰三が言うと、
「わかってますよー!?」
「言っていい冗談(じょうだん)と悪い冗談があるっていうんでしょう!!?」
と和樹が言ったのでした。

「気が付いただけいいとするかあー!?」
「和樹じゃあー!?」
と言ったあと、
「一平の親父さんは、癌で亡くなったんだよなあー!?」
と泰三が言ったのです。すると、
「そうなんですかー!??」
「一平さんのお父さん!癌で亡くなられたんですかー!?」
「最近ですかー!??」
と絵里が言ったのでした。

「いやっ!もう丸二年過ぎたよー!」
「三回忌(さんかいき)やったから!?」
と言うと、
「そうなんですかー!?」
「それで今、お母さまはどこに住んでいらっしゃるんですか?」
と絵里が言ったのです。

「姉さんたちといっしょに平塚にいるんだよー!?」
「中古の家を買って住んでいるんだけどねっ!」
と一平が言ったのでした。すると和樹が時計を見て、
「もうすぐ始まりのBGMが流れますよー!」
「行きましょうかあー!?」
と言ったのです。

それから四人は、自分の食べた食器を片付け、
急いで食堂を出ると、それぞれの自分の席に戻ったのです。
席につくと、すぐに午後の始業のBGMが流れたのでした。






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