携帯によろしく 第十二章(5)

小百合は、前を見つめ涙を流していたのです。
一平はびっくりしたのでした。
そして、どうことばを切り出せばよいのか、わからなかったのです。
しばらく沈黙が続いたあと、
「一平さんは、わたくしのことをお嫌いなのですか?!」
と、小百合は涙声で言ったのでした。

「嫌いなんてことはありません!!?」
「もちろん小百合さんのことは大好きですが!?」
「俺は古い考えかもしれませんけど!?」
「結婚というと、家というものが係(かか)わってくると思うんです!!?」
「あなたは、白石家の跡取(あとと)りなのですよ!!?」
「この世の中は広いし!?」
「きっと!!あなたに似つかわしい方がいるはずです!!?」
と一平は、自分の気持ちを正直に言ったのでした。

小百合は涙声で、
「それは、わかっています!!?」
「でも・・・!?」
と言ったきり、話さなくなったのでした。
一平も黙ったまま助手席の窓から外を眺めたのです。
うっすら、小百合の横顔が窓に反射して見えたのでした。

(ここでわたし的には、因幡 晃(いなば あきら) の ”わかって下さい”
をBGMで流したいのですが・・・若い方は知らないかもしれませんネ!
こいのぼりでは・・・ガクッ)

そして何気なく小百合は、FMラジオのスイッチを入れたのです。
すると、パイプオルガンのイントロ演奏が聴こえてきたのでした。
すぐにDJが、
「懐かしい曲をお送りしましょう!?」
「因幡晃の ”わかって下さい” !!?」
と、言ったのです。

一平と小百合は、
黙って曲を聴いたのでした。
聴きながらふたりとも、涙を流していたのです。

曲が終わると小百合は、ラジオのスイッチを切ったのでした。
そしてポーチからハンカチを取り出し、
涙を拭いたのです。
一平もハンカチを取り出し、涙を拭いたのでした。

ふたりが黙り、しばらくしたあと急に、
「後ろを見るから、バックして方向を変えて!!?」
と一平は言うと、ドアを開け車を降りたのでした。
「わかりました!!?」
と小百合は答えると、一平の誘導でバックし、
車の向きを変えたのでした。

すぐに一平は、運転席のところに行ったのです。
そして、すぐ窓をノックしたのでした。
小百合がスイッチを押し、窓を下げたのです。

「じゃあー!?きょうはこれで!!?」
「送ってくれてありがとう!!?」
「携帯へ連絡入れるから!?」
「そうしたら彼女に会ってくれる??!」
と一平が言ったのでした。
すると小百合は黙ってうなずいたのです。

それからしばらく見つめ合ったのでした。
じきに我に返った一平は、
手をそっと小百合の前に差し出したのです。
「来週は忙しくなりそうなので!?」
「お見舞いには行けないかもしれないので!?」
「御両親にお伝えください!!?」
と、一平は言ったのでした。

「わかりました!伝えておきますので!?」
と言うと、小百合はやさしく一平の手を握ったのでした。
「じゃあー!?お気をつけて!?」
と一平は言うと、
小百合をいとおしく思えて、
小百合の手を自分のほうに持ってくると、
その手の甲に、軽くキスしたのでした。

「くすぐったい!!?」
と、うれしそうに小百合は言ったのです。
一平は手を離し、窓の外で手を振ると、
小百合は、手を振ったあとすぐ窓を閉めたのでした。
そしてゆっくりと車は、早稲田通りに向かって走って行ったのです。
車が見えなくなるまで手を振っていた一平でした。






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