携帯によろしく 第十章(10)

一平はすぐ立ち上がるとテーブルを回り、
小百合のところまで行ったのです。
「小百合さん!?がんばるんだよ!?」
「きっと意識が戻ると信じてね!!?」
と一平が言ったのです。

小百合は一平のことばを聞くと、涙を流しながら立ち上がり、
一平に抱きついたのでした。
一平も小百合を強く抱きしめたのです。
それからしばらくのあいだふたりは、抱き合っていたのでした。

「もう!?録音して病院へ戻らなければ!??」
「ねっ!!?」
と一平が言ったのです。すると、
小百合は顔を上げ一平を見つめ、
「そうですわねっ!!?」
「ここへは録音に来たのでしたわ!?」
そう言うと、また涙を流したのでした。

すぐに一平は小百合が流した涙を、唇で吸い取ったのです。
小百合は優が事故に遭わなければ、
一平とはこんなかたちで出会わなかったかもしれないと思い、
涙を流したのでした。
一平が目の近くから徐々に唇を下ろしていき、
小百合の唇に近づくと、小百合は目を閉じたのです。

一平は小百合の唇に軽くキスすると、
からだを離したのでした。そして、
「小百合さん!?」
「これ以上近づいたら!?」
「男として我慢できなくなってしまいますから!!?」
「わかってくれますねっ!!?」
と言ったのです。

小百合はかすかな声で、「はい!?」と言い、
軽くうなずいたのでした。
すると一平は、ジャケットのポケットからネクタイを出し、
小百合の顔の涙を拭こうとしたのです。
すぐに気がつくと一平は、
「ごめん!!?」
「ハンカチだと思って出したら、ネクタイだったよー!??」
と顔を少し赤らげ、そう言ったのでした。

「ほんとですわ!??」
「一平さんったらー?!」
と言って小百合は微笑んだのです。

「なんでネクタイなんかポケットに入れておいたんだろー??!」
と言ってから、
「あっ!?そうだあー!??」
と一平は言うと、
小百合が迎えに来るので、
もしネクタイ着用の所にでも食事に行った時に困ると思って、
ジャケットに着替え、
ネクタイをポケットに入れておいたのを思い出したのでした。

「小百合さんハンカチあるけどー!!?」
と言ってズボンのポケットから取り出して一平が言うと、
「一平さん!?すみませんが!??」
「洗面所とタオルをお借りしてよろしいでしょうか??!」
と小百合が言ったのです。

「もちろん!?いいですよ!!?」
「やっぱり、それのほうがいいですよねえー!??」
と言うと、
ハンカチをズボンのポケットにしまった一平でした。
すぐに小百合は、
「ではお借りいたします!!?」
と言うと、テーブルのところに行き、
バッグを持つと洗面所に向かったのです。
そして自分でカーテンを閉めたのでした。

洗面所にいる小百合に向って一平が、
「小百合さん!?」
「パソコンの部屋で、先に録音していますから!??」
と言うと、
「すいません!!?」
「あとからそちらに伺いますので!!?」
と小百合は答えたのでした。

「じゃあー!??」
と一平は言うと、
自分が書いたメッセージとレポート用紙とペンケースを持って、
パソコンの部屋に向かったのでした。
パソコンのイスに座ると、ドライブからCD−RWを取り出し、
CD−Rに入れ替えたのです。

そして一平は録音を始めたのでした。
最初読んでいたときは冷静でしたが、
読んでいるうちに、
ベッドに横たわっているユーの姿が浮かんでくると、
徐々に涙声に変わっていったのです。

録音し終わると、再生して聞いてみたのです。
一平が聞いていると、
「一平さん!?入ってもよろしいでしょうか?!」
と小百合が言ったので、
「いいですよ!!?今録音したのを聞いてるところですから!??」
と答えた一平でした。

小百合が入って来たときにはもう終わりのほうだったので、
涙声で、よく聞き取れません。
「最後のほうはよく聞き取れませんねえー!??」
と目を赤くして一平が言うと、
「いいえ!?」
「ユーには伝わると思います。きっと!!」
と小百合が、すっぴんの顔で言ったのでした。






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