携帯によろしく 第十章(7)

一平はベッドの横に置いてあるイスに座ったのです。
「ユー目を覚ませて!!?」
「こっちの世界に戻ってこなくちゃあーだめだよ!!?」
と言ったのでした。
その時小さなヘッドホンをユーがしているのが見えたのです。

「小百合さん!?このヘッドホンは??!」
と一平が訊くと、
「うちの父の知り合いのお医者様が!?」
「意識がない人に手足を刺激したり!?」
「耳から音楽や知り合いの言葉を聞かせて刺激すると!!?」
「意識が戻る症例が有るからと言われたので!!?」
「先生の許可を得て、音楽を聞かせているんです!。」
と小百合が答えたのでした。

「ユーの場合は、ケガをしているので!!?」
「手足への刺激は許可されませんでした!!?」
「”もし悪化しても責任は負えません”という条件で!?」
「音を聞かせる許可は得ました!!?」
と小百合が付け加えて言ったのです。

「では!?母が待ってますので、一平さんよろしくお願いいたします!?」
と言い会釈すると急ぎ足で、病室を出て行った小百合でした。
「はい!!?」
と答えた一平でしたが、
以前同じような話を聞いた事があったのを思い出したのです。

それは、一平の父が入院していた病院での話でした。
知り合いのいない場所で、脳内出血で倒れた青年が、
倒れてから1時間以上経って病院に運ばれ、
いつ亡くなってもおかしくない意識のない状態でいたのが、
家族と彼女の献身的な看護と、家族の声や友人の声を聞かせて、
2ヶ月以上経ったある日、突然意識が戻ったという話でした。
そのことを一平は思い出したのです。

その病院の医師たちも、若いから可能性があるとの意見で、
治療を進めていったとのことです。
青年は徐々に回復し、リハビリもできるようになり、
1年後には、仕事に復帰できる状態まで回復したとの話でした。

「ユーも若いから!?がんばるんだぞ!!?」
「絶対負けるんじゃあーないぞ!!?」
「俺の声を録音して聞かせるから!?」
と一平はユーに力強く、
涙を流しながら、語りかけたのでした。

そして一平はユーに自分の声を聞かせてやりたいと思い始めたのです。
そう思うと、いてもたっても居られなくなったのでした。

菊枝と小百合が病室に戻ってくると、
一平はイスから立ち上がったのです。
「すいません!?ユーに俺の声を聞かせてやりたいんですが!??」
「いいでしょうかあー??!」
と菊枝に言ったのでした。

「ええ!?もちろんかまいませんが!?」
と菊枝が言うと、
「今から部屋まで戻って録音して来ますので!!?」
「1時間か1時間半したらまた戻ってきますので!!?」
「すいません!?じゃあーしばらく失礼します!!?」
と言って会釈したのです。

「一平さん!?そんなに急がなくても!??」
と菊枝が言うと、
「ユーになんにもできないし!!?」
「俺にはそのぐらいのことしかできないので!!?」
と一平が言ったのでした。

「一平さん!??」
「では私が送って差し上げますから!??」
と小百合が言うと、
「小百合さん!?タクシーがありますから!??」
「気を使わないでください!?」
と一平は言ったのでした。

「そんなあー!??」
と言って小百合がなみだ目になると、
菊枝が察して、
「一平さん!?小百合と一平さん!?」
「ふたりの声をユーに聞かせてもらえますか?!」
と菊枝が言ったのです。

「すいません!!?」
「自分のことしか考えていなくて!!?」
「小百合さん!?ごめんねっ!!?」
と言い、一平は小百合に向って頭を下げたのでした。

「そうですね!!ふたりの声を聞かせてやれば!?」
「ユーも喜びますねっ!!?」
「じゃあー!?いっしょに行ってもらえますか??!」
「小百合さん!??」
と一平が言うと、
「ええ!?もちろんです!!?」
と、小百合はうれしそうに答えたのです。

「すみませんがおば様!?」
「小百合さんとお車をお借りしてよろしいでしょうか??!」
と一平が言うと、
「ええ!?もちろんいいですとも!?」
「ただし!お夕食をいっしょにいただくという条件で!!?」
と菊枝が言ったのでした。

「承知いたしました!!?」
「ところで今気がついたのですが!?」
「マイクがなかったので、途中で買っていかなくてはなりませんでした!!?」
「うっかりしていました!。」
「ごめんなさい!??」
と言って少し照れながら、頭をかいた一平でした。

「まあー!?一平さんったら!??」
「マイクがなければ録音できませんわよねえー!??」
と、小百合が笑みを浮かべ言ったのでした。

「ではおばさま!?2時間ぐらいで戻ってきますので!?」
「そのあいだおひとりですが、よろしくお願いいたします!!?」
と言って菊枝に向って、お辞儀をした一平でした。
「ふたりとも、そんなに急がなくてもいいですから!?」
「気をつけて行ってらしてねっ!??」
と菊枝が言ったのです。






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