携帯によろしく 第一章(3)

一平は、歩いて駅まで向かったのです。
いつもだったら、駅までは自転車で行くのですが、
なぜかきょうは、歩いて行ったのです。
そしていつもだったら、ここから新宿ぐらいの距離なら、
自転車で行くのですが、
なぜかきょうは、電車で行ったのです。
高田馬場の駅から電車に乗り、新宿まではすぐでした。

一平は、電車に乗っている短いあいだに、
いろんなことを考えたのです。
「もし、あの子が未成年者だったらどうしよう!?」
「もし、美人だったらどうしよう!?」
「もし、ブスだったらどうしよう!?」
「もし、高い宝石の勧誘だったらどうしよう!?」
「もし、一緒に男がいて、”俺の女に手を出すな!”
なんて言われたらどうしよう!?」
などと、余計なことを考えていたのでした。

新宿の駅に着くと、歩いて喫茶店のルミネまで行くあいだじゅう、
いろんなことを考えたのでした。
「あの子、今暇だって言ってたけど、ほんとかな?!」
「”あんたでもいいや”って言ってたけど、どういう意味かな?!」
「なぜ、ヨーコって子のとこに掛け直さないんだろう?!」
「電話の声だけで俺の顔がわかるのかな?!」
「ルミネに着いたらどうしようかな?!」
「あ!そうだ!!山本一平ですけど、
誰かから伝言ないですかって、ウエートレスに訊けばいいのか?!!」
などと考えてる、けっこうおバカな一平でした。

交差点にさしかかると、横断歩道の信号機が、
点滅しだしたので、急いで渡ろうとしたら、
携帯が鳴ったのでした。
「もしもし!」と言うと、
「一平ちゃん!元気!!」
「今どこ?!」
と、間違い電話の女性が言ったので、
「あのさー!?君、なれなれしいね!」
「一度も会ったことがないのに!!」
と言うと、
「気にしない!気にしない!!」
「で!今どこなの?!」
と訊いたのです。

「そっちに向かってるところだよ!」
「今、ルミネの手前の交差点!!」
「もうすぐそっちに着くよ!」
と、一平が言うと、
「けっこう行動が早いじゃん!」
「来ないかと思った!!」
「ところで今何時?!」
「時計持ってる??!」
と、間違い電話の女性が訊いたので、
「ちょっと待って!?」と言って、
左手で持っていた携帯電話を、右手に持ち替えて、
左手を高く突き上げて、袖をどかせて、
左の腕にはめている時計を見たのでした。

「もうすぐ10時半だよ!」
と言うと、
「ありがとう!!?」
「じゃあ!待ってるから!?」
そう言うと、すぐに電話を切ったのでした。

「もしもしー!?」と言ったあと、
「なんてヤツだ!!?」
と、言いましたが、
ルミネに行ってから、どういうふうにすれば、
自分だとわかるか訊こうとしたのですが、
電話を先に切られてしまったので、
困ってしまった一平ちゃんでした。

とにかく”待ってるから”と言われたので、
交差点の横断歩道を渡り、
喫茶店ルミネに入った一平でした。
店に入ると、少し奥にウエートレスが見えたので、
誰かから伝言がないか訊こうとして、
奥のほうに歩いて行こうとしたら、
店の窓際の席のところから、
「一平ちゃん!?こっち!こっち!!?」
と、手を振る女性がいたのです。

一平はびっくりして、
自分で自分を指差して、小さな声で、
「おれ!?」
と言ったのです。
おバカな一平は、
なぜ自分が一平だとわかったのかわかりませんでした。
とにかく窓際の席へと歩いて行ったのでした。






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