2009年7月24日

佐藤基遺族の思いと要望

-貴校航空部が再び事故を起こさないために-

国立大学法人 東北大学

総長 井上 明久 殿

佐藤基遺族 佐藤 裕子

大塚市民法律事務所

同代理人弁護士 津田 玄児

同 弁護士 村中 貴之

渋谷共同法律事務所

同 弁護士 米倉 勉

はじめに

昨年12月18日付け公開質問に、本年1月14日付けでご回答(以下回答といいます)いただきました。

私どもは質問の冒頭で、「この質問は息子の無念に答えていただくだけではなく、今後の事故防止に役立つものとしたいと思いますので、誠実に回答されることを望みます」と述べ、最初の質問項目を、「東北大学では、この事故を教訓として、被害者遺族とともに、事故再発の防止に備える姿勢をお持ちでしょうか」といたしました。それは、東北大学の責任の追及を主眼としたのではなく、本件事故を再び今回のような事故が発生せぬことに役立てるために、必要な事項を明らかにする問題を提起し、貴校と共に事故再発の防止に勤めたいと切望したからです。

しかしご回答は、貴校の責任ではないとか、学生の自己管理の問題であるという説明に終始し、不安全要素を指摘した肝心の質問にはご回答いただけなかったと受け止めざるを得ません。結局、貴校の回答は、私どもの問題提起を土台にした事態の解明と改善に取り組もうという姿勢を示していただけませんでした。

貴校の責任であってもなくても、あるいは学生の自己管理の問題だとしても、事故に繋がっていることが明らかであれば、そのような事態を避けるための対応を、全力を集中して考え、実行しなければ事故再発は免れません。貴校からの回答に接して、貴校の責任ではないとか、学生の自己管理の問題などだとして、不安全要素を取り除く取り組みによって事故再発を防止する方策を考えない貴校の姿勢に、本件事故発生の根本原因があったのではないかとも思います。

私ども事故によって命を失った者の家族として、これまで飛行についてまったく知識のなかった家族であるからこそ、旧来からのやり方にどっぷりとつかり、「学生選手権」への参加を唯一最大の目標にして、安全など他の大切なことを忘れたまま、訓練が実行されてきたのではないかと考え、貴校と航空部にかかわる方々に、新しい視点を探索する手掛かりが提供できることを期待して回答を求めたのです。上記のとおり、残念ながらその期待に応えていただけなかったことに、率直に言って失望いたしました。

この要望書の趣旨について

それでも、貴校においてはこれからも航空部の活動を継続するということですから、再び多くの若者が空を飛ぶことになるものと思います。そのことを考えると、私どもは、貴校の事故防止に対する基本姿勢について強い不安を抱きます。特に、不幸にして起きてしまった事故の教訓を生かして、それまでの不安全要素を取り除くという基本的な態度が欠落していることを深く憂慮し、このまま貴校の航空部が活動を続ける中で、尊い命をみすみす失う事態が再発することを懸念いたします。

そこで、そのような事態を防止し、将来ある若者の命を助けるために、せめて基の死が無駄にならないようにという思いから、以下のとおり私どもの要望を記すものです。

どうか、私どもの意のあるところをご理解いただき、これらの要望をよくご検討のうえで、今後の活動に結実させて下さるよう求めます。

東北大報告・再報告では十分解明されていないと思われる点

1、私どもは、公開質問書により、12項目の問題についてご質問いたしました。以下、公開質問書のナンバーにより、「質問の○」と○の部分にナンバーだけを表示して指摘します。

2、前回の質問の2は、「事故当時の、東北大航空部の訓練計画実行主体学生は、2005年学連の事故多発自粛もあり退部者が多く、活動主体となる上級生3年不在のため、事故死亡学生も含め経験豊富とは言えない入部経歴わずか1年2,3ヶ月の2年生が中心で、新1年生への指導など分担していました。このような状況は、事故調報告書で指摘された、適切な指導体制とはいえず、本件事故の背景として無視できないと思います。」という点を疑問とし、「この点についての事実確認・問題点の解明、今後同様な状況が生じた場合の対応策」3点について、貴校の見解を質しました。

それに対し、事実確認については、入退部には様々な要素がからんでおり、事故発生の有無だけが、部員数の増減に影響するわけではないとして、肝心の適切な指導体制に影響を与える部員の増減と構成の変化については全く解答がありませんでした。

そして、それにもかかわらず、「人員等の体制が十分でないままに訓練を実施することはありません」とのご回答ですが、その「人員等の体制」を整えることは、学生に任されています。回答では、「訓練日を設定し、必要な教官を依頼するのは部員自身です。部員に対し教官や役員から訓練を強要するようなことは一切ありません。また、試験日程は所属学部や学年、履修する講義によって様々であり、部員がこれらを考慮して自ら訓練日を設定していました」とか、入部届けについては、「教官及び役員は、入部届けに記載すべき内容を認識しており、・・・保証人の署名欄についても適正に記載されているものと考えていました。しかしながら従前からの入部届けの取り扱いでは、・・・部長が確認し受理・保存することになっており、教官・役員が直接確認する機会がなく」とか、訓練日の設定については、「試験日程は所属学部や学年、履修する講義によって様々であり、部員がこれらを考慮して自ら訓練日を設定していました」など、重要な事項の決定の多くが、学生にゆだねられているとされています。

そうした学生に委ねられた運営の中から、チェックフライトは、教官自身ではなくOBに任され、本件事故発生時にピストに教官がいないまま、事故機は発航しています。基は、前日期末試験があり、航空部OB宛の活動支援の礼状作成を深夜まで行わせ、事故当日の早朝6時30分に飛行場の草刈りを行わせ、肉体的限界を超える状況であったのに、学生の自己責任だとして、誰もチェックしていません。航空部に経験を積んだ上級生がいないことが、こうした問題を防ぐことができない背景にあることは容易に窺えます。それなのに、「人員等の体制が十分でないままに訓練を実施することはありません。」というのが回答でした。これでは事故の背景にあり生かさなければならない問題点はすべて見えなくなってしまうことになります。

私どもが提起しているのは、「人員等の体制が十分でないままに訓練を実施することはありません。」という形式的な結論(回答)でよしとせず、もう一度安全指導の体制を見直すことの必要性です。すなわち、学生たちが安全を軽視した活動をしていないかどうかの日常的な指導と確認の機会、また実際の訓練にあたっては、具体的な安全確保を含む十分な指導と監督の体制が確立されているかどうかを検討し直すこと。これは、監督や教官による指導・監督のみならず、経験のある上級生から下級生への指導の体制を含むべきものと思われます。

3、前回の質問の3は、チェックフライトに関するものでした。これについては、「教官自身もしくは有資格者(ライセンサー)が教官指示の下で実施し、機体の状況を確認しています。」「事故当日は大学院生である航空部OBが教官の指示の下チェックフライトを実施しており、適正な安全確認は行われていた」との回答でした。

しかしどのような点検が行われたかについては、一切明らかにされていません。航空部OBが行うのであれば、点検項目が確立していたはずですが、その内容はどうであったのか。その結果について記録はあるのか、記録がないとすれば何故なのか。こうした点に問題がないかどうかの検討は、将来の事故を防止する体制つくりの上で、きわめて重要なことだということを指摘しておきます。

4、前回の質問の4は、入部届けと関連して安易に勧誘が行われていないかに関するものでした。改善された点は評価し、その上で、①、安易な勧誘体制についての現実認識。②、安易な勧誘体制についての効果的な改善策についての見解をうかがいました。しかしこの肝心な安易な勧誘体制にかかわる質問については、ご回答をいただいていません。

勧誘にあたっては、入部希望者とその家族に、本件事故を含む死亡事故発生の事実やその内容を予め知らせることが必要と考えます。それが、安易な入部を防止するのに役立つとともに、今後の事故防止のために極めて有用です。現実に事故が起きていることを示した上で入部を勧誘するからには、相応な原因の解明と対策が万全にとられたことを示さざるを得ないからです。このように、安易な勧誘が行われないことは、将来の事故防止という点においても重要な意味があります。

5、前回の質問の5については、東北大報告に、本件事故を踏まえて、訓練規則、マニュアルを全て見直し、統一的な体系に整備しましたとあったことを評価し、「具体的に本件事故との関係を問題とされたのは、いかなる点で、どういう見直し整備をされたのかを、明らかにして下さい」という点での回答を求めました。ところが回答は、「サブGと空間識失調に関する資料の追加が事故に対する直接的な予防策であり、その他の部分は、今回の事故との直接的な因果関係はありません」というものでした。私どもは、貴校がこの事故を教訓として、これまでの運営のすべての問題を、安全の視点から見直したと評価していたのですが、これでは私どもが評価したことが誤っていたことになってしまいます。

貴校は、「サブGと空間識失調に関する資料の追加」が、「直接的な予防策」だとされますが、そのことが問題であるとしても、私どもが13項で詳述した、飛行前の基の状況、試験・OBへの礼状作成による睡眠不足、早朝草刈の指示、炎天下で行われた当日飛行における健康管理などが、その背景にあり、それがサブGと空間識失調(仮にそうだとして)につながったのではないかという疑問を拭うことはできません。

どんなに「サブGと空間識失調に関する資料の追加」をしても、睡眠不足・疲労状態、あるいは体調不良の学生をソロに出したのでは、事故は防げないと思います。直接的な予防策は、睡眠不足、体調不良の学生をソロに出さないという認識とそれを保証する管理体制の確立にあるのではないでしょうか。それらの問題と一体としてサブGと空間識失調の問題を検討されてこそ、効果的な体制の確立になるのではありませんか。

事故工学の世界では、事故とは、数多くの事象の連鎖(CHAIN OF EVENTS)によって生じるものと理解しているそうです。サブG等の現象にも、訓練の問題、ウインチによる牽引の技術、上昇角度の大きさ、訓練生の疲労や睡眠不足と体調、気温などのコンディションの劣悪さなど、多くの事象(要因)が連鎖して、事故につながるという意味でしょう。後述する13項の諸問題を含めて、私どもは、そうした連鎖する不安全要素を一つ一つ取り上げて吟味し、なくしていくことを求めているのです。すなわち、事故の原因を直接の操縦操作の誤りに解消してしまうのではなく、仮にそのような操縦操作の誤りがあったのだとしても、なぜそのような事態が生じたのかを解明し、その不安全要素を払拭しなければ真の再発防止は実現し得ないことを重ねて指摘し、そうした事故防止策の実現を要請いたします。

6、前回の質問の6は、VHF無線機の不具合に関するものでした。7月1日には、電源が入らない不具合があり、当該訓練機は使用しなかったが、その後無線機付属のリセットボタンを用いて再起動したところ不具合が解消したので、以後当該機体は使用したとのことです。

無線機の電源が入らない場合に、リセットボタンを押せばよいというのは、正しい対処法であるとは考えられません。なぜなら、現に生じていた不具合の原因は解明されておらず、再び飛行中に不具合が生じる可能性があるからです。むしろ、航空機に搭載する機器にはフェイルセーフの考え方による二重三重の安全策が求められるはずです。「無線機が正常に機能することは安全を確保する上での基本中の基本」との回答は正当なものですが、そうであるならば、リセットボタンを押して作動すれば足りるという非科学的な対応が日常化していることこそが問題であり、その改善が将来の事故発生の予防に欠かせないものと考えます。

7、前回の質問の7は、訓練生の単独飛行にあたって、操縦訓練教官は、学生の状況をどの程度把握しておられるのかに関するものです。

 ① 当日の基につき、「ア 練習生の睡眠、風邪、下痢などの健康状況」について、(1)、訓練教官がいつ、いかなる方法で確認をしたか。(2)、その結果はどうか。と質問しました。これに対し、貴校からは、「事故発生30分前に実施した訓練飛行は安定していて操作も適切であり、その訓練を通じて教官が観察した動作や会話でも普段とは変わった様子は特に認められていません。また、佐藤君本人からも体調不良等の訴えは一切ありませんでした」「部員に対しては、常日頃より体調管理の重要性について指導していました。ライセンス取得の学科試験では体調管理の知識が要求されることから、平成18年夏に国内ライセンスのための学科試験に合格している佐藤君には当然その知識はあったと思います」との回答をいただきました。

まず、当日の担当教官は、訓練生が「試験明けで、前夜は深夜までOBに礼状を書いていて、早朝草刈に参加していたこと」を認識していなかったものと推察します。もしこのような事実を認識していたのなら、それでも訓練飛行をさせたこと自体が重大な問題だからです。他方、このような事実を認識しないまま訓練が行われたことについては、訓練に参加する学生の体調管理の状況を、監督や教官が把握する体制が確立していない点を改善する必要があります。

次に、事故発生30分前の状況は、事故発生時の状況を保証するものではありません。特に事故当日の気象は、仙台気象台の発表によると、午前10時頃から、熱中症の発症の警戒レベルとされる28℃を越え、本件事故発生時は29.1℃に達し、当日は仙台市内で7月中の熱中症発症数が最高に達した日であったといいます。このような過酷な気象状況下では、30分前正常であっても、その時点で異常に陥らない保証は全くありません。本人からの訴えがなかったら、教官は確認する必要はないとしてはならないと思います。当日の担当教官が、当日の気象状況を踏まえた、柔軟かつ適切な状況判断をできる体制が必要と考えます。

三点目として、「国内ライセンスのための学科試験に合格している佐藤君には当然その知識はあったと思います」という回答の不見識を指摘せざるを得ません。ライセンスを取得していれば、必要な知識があり、適切な行動がとられるはずだという形式論は、あらゆる事故の再発防止策がほとんど不要ということにもなりかねない暴論です。

基は、あくまでも学生であり、航空部の訓練生です。知識を教わっているから、あるいはライセンス取得にそなえて学習しているからといっても、それを生かすことができるかとは限りません。貴校の回答はきわめて無責任といわざるを得ません。貴校のような見解では、到底事故の再発防止はできないことを肝に銘じた上で、上記の要請を真摯に実現していただきたく求めます。

② 教官はピストにいなくても良いかについて、「教官が与えるべき指示の内容は、「ア、気象変化に伴う飛行中断の指示、イ、通過機等の飛行情報に基づく飛行方法の変更等の指示」となっており、教官が地上に居ない状態で、練習生が単独飛行したとのご指摘は、同基準に照らし合わせて問題となる要素はないと考えています。」との回等です。

しかし、(1)、コックピット内の搭載物の状態、(2)、ハーネスがキチンと締められていること、(3)、キャノピーがロックされていること、(4)、パイロットの座席位置、重心位置、(5)、最も大切と考えられる、パイロットの表情、挙動、地上の要員との会話や交信内容、などについて把握指導する必要はないと考えているのでしょうか。私どもは、そうした安全に関わる諸点について確実に確認し、また危険な兆候を把握して指導する最後の「安全装置」が、ピストの教官の存在であろうと考えます。その位置づけの検討を含めて、改善を求めたいと思います。

8、前回の質問の8は、ウインチマンと、ピストマンについてのものでした。ウインチマンについては、大学院生であるOBが脇で指導監督しながらウインチ練習生の部員がウインチを操作していたとのことですが、大学院生であるOBが脇で指導監督については、指導の基準があったのでしょうか。これらの役割の重大性に鑑み、指導の基準、どの程度の技術があれば訓練生がウインチ操作を実施してよいのかの確実な基準を定めるべきであろうと考えます。

貴校における、複座機初曳きから僅か2日程度で、練習生が搭乗する単座機を曳航していたという運用は、適切な訓練環境と言えるのか疑問です。

ウインチに関しては、平成9年7月21日にも熊本県阿蘇町において墜落事故が起きております。航空事故調査委員会の報告書によれば、その原因解析の一つとして、ウインチ曳航速度が適切ではなかったことが指摘され、ウインチ曳航者の資格要件について詳しく検討されています。このようにウインチ操作には高度な技量が必要であり、この点の厳密な検討が、貴校における今後の事故防止のためには不可欠であると考えます。

9、前回の質問の9は、シラバス・速度表・学科教育の資料に関して、「確立した訓練シラバスの存在と、それによる訓練進度の評価、それに適応した訓練の展開は、危険な飛行にあたっての安全を確保する基本だと思います。」という視点で、(1)、事故当時、シラバス・速度表・学科教育の資料は、どのようなものを用いていたか。(2)、事故後それを拡充・補強した内容。(3)、その理由。(4)、特に本件事故とのかかわりについて。(5)、シラバスと学科教育の資料を学生に徹底する方法。についてうかがいました。さらに、学科教育の資料については、「東北大式エレメンタリーグライディング」と「風を聴け」を拡充・補充したということでしたので、その内容と理由と事故とのかかわりについてうかがい、シラバスと学科教育の資料を学生に徹底する方法について伺いました。しかしこれらについては、直接の回答はなかったと思います。

しかし、これらはいずれも事故防止のために欠かせない事項であると考えます。また、「シラバスに則って適切な指導を行っており」といっていますが、一人一人について、その進行を確認して、次へと進む、チェックの仕方、特に訓練生のソロ飛行に必要な、総飛行時間、ウインチ曳航の回数についての基準も、同様に事故防止のために欠かせない重要な事項であると思われます。今後、その適切な策定と、確実な実施を実現することを求めます。

10、前回の質問の10は、サブGについての訓練についてうかがいました。それについて、訓練回数について回答をいただきました。すでに指摘しましたが、どんなに訓練をつんでいても、高温多湿・寝不足・過労下という条件では、その経験は役に立たないはずです。飛行にあたって訓練回数だけではなく、こうした状況への配慮が必要ではないかを指摘したいと思います。

11、前回の質問の11は、ウインチ曳航ではない米国でのライセンス取得の問題と、その背景に、「学生選手権」への参加を唯一最大の目標にして、安全など他の大切なことを忘れた航空部の実態があり、それを推奨する周辺の雰囲気があることに問題があるのではないかと考え、米国でのライセンス取得の問題についてうかがいました。回答によっても、基が「学生選手権」への参加を強く希望し、協会専務理事からその資格獲得の近道が米国でのライセンス取得だと聞かされて、米国でライセンス取得をしたことが認められています。

しかしその際にウインチ曳航ではない米国でのライセンス取得は安全上問題があるという、検討課題が全く抜け落ちていたことについては問題にされていません。協会は航空部とは別の組織であり、直接的に指揮命令を受けることはないとか、渡航は基の個人判断で行われたものであり航空部とは関係がないとか、ここでも安全の視点抜きで、貴校には責任はない式の回答に終始しています。しかし、チャンスを逃さないという意味でライセンスの取得を推奨はしますともされており、協会だけではなく、航空部も、チャンスを逃さないという評価をし、米国でのライセンス取得を推進する雰囲気を醸成することに一役買っているのです。

回答においても、特に、曳航方法(航空機曳航とウィンチ曳航)の相違は十分考慮して慎重に見極めていたとして、米国ライセンス取得に、問題があるとの認識が示されています。回答でいわれた、航空部在籍中に必ず取得しなければならないものとは考えていません。米国ライセンスを取得したからといって、航空部の訓練が一部免除になったりするようなことはありません。経歴・経験は尊重しますが、あくまで航空部の定めた要領や基準に従って技量を確認するという認識がもっと徹底されていても良いと思いますが、なぜか日常の指導の上でそのような配慮がなされていることはうかがえません。この点で航空部の指導が不足しており、改善が必要だと考えます。

12、前回の質問の12は、事故当時2年生部員たちは学連主催 「学生選手権」参加を唯一最大の目標にして訓練実行しており、その参加資格を得るために、正規のシラバスとその進度の正確な評価を無視して、飛行時間、ソロ飛行回数のみを増やし、グライダーライセンスを取得することのみが緊急課題にされ、安全など他の大切なことを忘れた航空部の実態があるのではないかとして、無理な訓練飛行が日常化していたのではないかとの指摘についての、貴校の見解と、それが問題だとすれば、それについていかなる対応を考えているかを明らかにして下さいと回答を求めました。

  これについては、学生選手権をはじめとする大会への参加は部員の意思で決まるものであり、教官や役員が強要するものではありません。という回答をいただきました。しかし、米国ライセンスの取得についても指摘しましたが、教官は、そうした加熱した大会参加の雰囲気に、適切なブレーキを掛けるのではなく、学生と一体になって、大会出場資格を強く意識し、そのために、事故に至るまでにASK23の飛行回数が異常に増加していたのではありませんか。大会出場候補者(希望者)を優先させ、何回も連続で乗せていたのではありませんか。そうした点での実態把握と、対応策が必要であろうと考えます。

13、質問の13は、貴校航空部におけるさまざまな不安全要素が窺える事実の中でも、訓練生の体調不良や疲労、睡眠不足に関する事実を挙げて、それらが事故の遠因になり、あるいは仮に直接・間接の原因とはなっていないとしても、いずれ事故等の深刻な自体の原因になりうる事項を指摘し、その改善を促したものでありました。しかし、東北大報告・再報告では、飛行直前の飛行者の身体状況に影響する事実の指摘と検討が大きく欠落しています

前回の質問の13は、9つの小項目にわけ、質問しました。全体については、貴校の訓練規則の2-1で遵守すべきとされる単独飛行に係る安全基準で、「教官は、『ア 練習生の睡眠、風邪、下痢などの健康状況』『イ 使用機、ウインチ、えい航索等の整備状況』、『ウ 気象(現況及び予報)』『エ 航空情報』について、飛行前に確認をおこなわなければならない(Ⅰ、4、1)」。『えい航、離陸及び離脱の各操作が安全かつ確実に実施できること』『策切れ等の緊急時の操作が確実にできること』『使用する空域とその利用方法を理解した飛行ができること』について、練習生が、必要な技能を有していると認めなければ、単独飛行を行わせてはならない(Ⅰ、5.2)」とされていることを指摘し、さらに、「事故当日の気象は、仙台気象台の発表によると、午前10時頃から、熱中症の発症の警戒レベルとされる28℃を越え、本件事故発生時は29.1℃に達し、当日は仙台市内で7月中の熱中症発症数が最高に達した日であった」ことを指摘し、本件事故において、死亡学生の状況把握と対応がいかに行われたのかについて、以下の各項目についてとし、9個の小項目を上げ、それぞれ明らかにして下さい。として回答を求めたものです。

しかし、貴校は、その小項目の竭シを除くいずれの項目についても、個別の回答をされず、包括して、①、部員に対し、体調菅理の重要性は、常に指摘し、学科試験で体調菅理の知識が要求されているので、部員はこれらのことを十分に理解していたはずであること。②、全体で適宜休憩を取るとともに、必要に応じて個々人の判断で休養を取るように指導していたこと。③、訓練日を設定して必要な教官を依頼するのは部員自身であり、部員が試験日程などを考慮して、訓練日を設定していたこと。を指摘して済ませています。しかしこれでは、安全のために何がたりなかったかという視点ではなく、自らの責任を免れようとする回答としか思えません。貴校の訓練規則の2-1の教官の安全のための責務は、全く空文になってしまいます。そのような危険な飛行が日常的に行われていたと評価されても、いいわけが出来ない事態ともいえます。

(1)、前回の質問の(1)(公開質問書のナンバー13の小項目のナンバーをそのまま括弧付けのナンバーで、表示して指摘します)は、「各飛行訓練においては、その日の気象状況・搭乗予定練習生の体調の確認はどの様に行われていましたか。日中遮蔽も冷房もなく、直射日光にさらされるグライダー飛行の特性に対応して心配される、熱中症発生の危険にどのように対応していましたか。」というものです。気象状況については、貴校が指摘される部員個人では、容易に把握はできないはずで、個人には任せられない課題であり、事故に直結する問題でもあります。当然航空部として、把握していたはずで、最小限指導教官が現状とその後の予測推移について、確認しているはずです。その方法を確めただけで、日常的な手順ですので、容易に回答ができるはずです、回答がいただけないのは不可解です。

(2)、前回の質問の(2)は、「その前後における大学の行事の把握、学生個々の生活環境 学習環境等の把握、指導はしていましたか。行っていたとすれば、どのような方法で行っていましたか。」というものです。部員にまかせていたというのが貴校の回答ですが、では最終的に責任がある教官は、生徒の把握方法について、どのような指導をしていたかが問われます。「学生選手権」参加を唯一最大の目標にして無理な訓練を行っている状況は、ディスパッチの記録を見ればあきらかです。部員にまかせた場合無理な日程が組まれかねない状況が現実に存在するわけで、事故につながるおそれを避けるためには、部員にまかせるとしても、試験の当日や前後重複する日程は組まないようにという程度の指導はしなければならないはずです。そのような指導もなされていなかったということなら、その改善が必要なことは明らかです。

(3)、前回の質問の(3)は、(2)に続けて、「本件事故当時は、定期試験中の訓練も区別なく行われていたということです。若しそうだとすれば、試験期間中訓練が行われるようになったのは、いつからですか。試験期間は、ストレス、寝不足などによる体調不良が予想されますが、体調不良学生が飛行しないようにするために、どのような配慮をしていましたか」というものです。現に安全を損なう無理な訓練が実施されていた以上、これらの防止策について、改善が求められます。

(4)、前回の質問の(1)は、基は、本件事故の前夜おそくまで部の命令で礼状の作成を行っており、その前日も27日の期末試験のため睡眠を十分とっていませんでした。この事実については、事故後の調査で確認されています。いずれも、個人の行動ではなく、大学の公にされたスケジュールであり、部の命令での行為であり、これまたそのような作業を負担させた学生には、訓練のソロ飛行はさせないということを徹底すれば、防げた問題です。

(5)、前回の質問の(5)に指摘したのは、基は、「寝不足に加えて、事故当日の早朝6時30分に飛行場に入門して、自走式草刈機が以前より故障のため、ハンディ草払い機により、飛行場の草刈りを行い、部員3名で3時間くらい作業をした」ということです。このことは、航空部の命令ですので、当然部としては把握していたはずです。

質問において指摘したとおり、炎天下の飛行訓練を予定している、寝不足の学生に早朝から草刈作業をさせたこと、それが本人の体調にどのような影響を与えているかについて、指導教官が把握し、訓練の中止を含めた適切な判断をなし得る体制の確立を求めます。

(6)、前回の質問の(6)は、(1)とともに、熱中症に関して、「指導教官は当日の気象状況の予報を確認していましたか。またこの気象状況が、本人の体調にどのような影響を与えたかについて把握していましたか。事故との関係について検討はしましたか」という質問です。この点についても、指導教官が訓練当日の気象状況とコンディションを把握し、訓練の中止を含めた適切な判断をなし得る体制の確立を求めます。

(7)、前回の質問の(7)は、基は、ウインチの操作に安定感がなかったこと、訓練の合間に仮眠をとっていたことから、これを教官が把握していたかどうかの質問です。過労と睡眠不足を推測させる事実です。そうした事実でさえ、把握できない訓練飛行の運営に、事故との関係を読み取ることができない情況そのものに問題があると言わざるを得ません。適切な改善を求めます。

(8)、前回の質問の(8)は、事故機に搭乗した時点での体調確認は、教官でないとすると、誰が代わってどのような方法で行っていましたか。その確認では、発航時の本人の体調はどうでしたか。というものでした。教官は一旦それまで搭乗していた機体を降りて、事故機の搭乗者が佐藤君であることを確認したといいますが、これを地上からの教官の監視のもとと言っているとすれば、そうした事態が日常化していたことが疑われます。上記のとおり、このような体制そのものの改善が必要と思われます。

(9)、前回の質問の(9)は、霞の目飛行場は700メートルと狭く他の滑空場よりもウインチによる上昇角度がきついことから、学生にとって、他よりも一層慎重な運航と高い技能が要求されるとともに、体調の不良が伴えば、通常こなせる技能も発揮できなくなる滑空場だという事実を踏まえた上で、そうした要因が原因となる事故の予防と対策について、日常的にはどのように対応していたかについての質問でした。その趣旨は、当然そうした飛行場の不利な条件に応じた、適切な訓練と指導が求められることを指摘しようとしたものです。ところが貴校の回答は、そのように噂されたことはあるが、そのような事実は一切ありませんというものであり、当方の意図ないし趣旨を全く理解しないものでした。

   ここでも、どうか責任の回避に終始せず、事実を謙虚に踏まえた上で、事故の再発防止に向けた誠意ある取り組みをしていただきたいと、重ねて求めるほかありません。

おわりに

以上、貴校の回答を踏まえて、私どもの求めることを率直に記載いたしました。

それにしても残念なのは、長年にわたって航空部を運営し、事故防止と飛行の安全について専門的知見と経験を備えているはずの貴校が、航空について全く素人である私どもにとってさえ理解が及ぶ事項について、およそ見識の感じられない回答に終始したことです。しかも、貴校は営利目的の飛行クラブや運送会社ではなく、教育の一環としてグライダーによる飛行の実践を行っている団体です。そうであれば、一層、安全の実現に対しても教育的指導と取り組みが求められるはずです。それにもかかわらず、貴校の回答はただ学生の自主的活動であって強制はしていないとか、各自の自己責任であるというものでした。

しかし、未熟な年齢であるからこそ大学で学んでいるのであり、また、航空という高度に専門的な世界の実践は、学生にとって、容易に自己責任を負えるものではないと考えます。まして、学生の経済力では到底自由にすることができない高価な機材を用いて飛行訓練を行うことができるのも、大学航空部という存在があってのことであって、それを自己責任や自主的活動の一言で処理することは、実態に合致しません。

人間の様々な間違いは、起きるべくして起きる避けられないものであることを認めなければなりません。しかし、そうした間違いはしかるべき準備や予防策によって、食い止めることが可能です。そして事故を防止するには、ただ精神論や観念論に依拠するような対応や、責任逃れの姿勢ではならず、事実を謙虚に受け止め、理に適った指導・監督の体制とその運営により、不安全要素を一つ一つ取り除いていく努力が不可欠であると言えるでしょう。ところが、貴校の対応は、本文に指摘したとおり全くこうした姿勢を感じさせないものです。これでは、何も知らずに入部し、危険をおかす学生のみなさんが不憫です。

そこで最後に、貴校の学生諸君の将来のため、次の2点を提案します。

1 事故の怖さを忘れず安全飛行の大切さを理解し続けるために、本件事故が起きた時期に、事故再発防止のための周年行事を実施することを提案します。その場合には、私ども遺族もできる限り参列し、遺族の思いと安全への取り組みの大切さを語る役割をつとめさせていただく所存であることを申し添えます。

2 この要望書及びこれまでの公開質問書・回答書を、貴校ないし航空部等のホームページに掲載し、広く一般のインターネットによる閲覧に供することです。貴校においてこの趣旨に適う取り扱いをなさらないときには、私どもにおいて、それに代わる相応しい公表の方法を検討させていただきます。 

以上