平成21年1月14日

佐藤 裕子 殿

(代理人)

弁護士 津田 玄児 殿

弁護士 村中 貴之 殿

弁護士 福田 笑美 殿

弁護士 米倉 勉 殿

国立大学法人 東北大学

公開質問状への回答について

本学航空部において平成19年7月28日に発生したグライダー墜落事故に関する、平成20年12月18日付の公開質問状について、下記の通り回答します。

・慰霊式の実施に関するお尋ねについては、以下の通りです。

まず、航空部では事故機体を廃棄するにあたって平成20年3月28日(金)に読経供養を実施することとし、佐藤君の御両親に差し上げた平成20年3月11日付の手紙の中で実施のお知らせとともに参列についての御意向をお伺いしましたが、このことについて何もご返答はありませんでした。

平成20年7月5日(土)に御両親とお兄様が来仙され部員数名と会食された際、部員から一周忌に合わせた御自宅への訪問と御焼香の希望をお伝えしたところ、親類対応などで多忙とのことでお断りされ、もしどうしても希望するというのであれば、9月か10月以降に改めて連絡をして欲しいとのお話がありました。

平成20年7月16日付で御両親から届いた資料請求の手紙に7月26日(土)に御自宅の近くで一周忌法要を実施することが記されておりましたが、航空部としても法要での御焼香が叶わぬのであれば、せめて皆で集まって亡くなった仲間の冥福を祈る機会を設けたい、可能であればその場に関係する大学教職員にも列席してもらいたいとの意向があり、 部員及び部関係者並びに当日参加可能な教職員数名で、急遽、追悼セレモニーを開催することにしたものです。このセレモニーは、純粋に故人への追悼の意を表することを目的として開催したものであり、御遺族の排除等の意図は全くありませんでした。誤解を招いたとすれば申し訳ございませんでした。なを、霞目飛行場で上記セレモニーを実施したのは、公開質問状に記載された7月27日(日)ではなく7月26日(土)です。

・航空部の活動は、フライトという非日常的で魅力的な経験ができる反面、土日休日が潰れる、部費が高額である、等、他の一般的な課外活動とは若干事情が異なる部分があり、相当の負担を強いられることが一因となって退部する者もいます。また、部員同士の仲の良さや意識のレベルの違い等もありますし、入退部には様々な要素が絡んでいて、単に事故発生の有無だけが部員数の増減の原因という訳ではありません。

・人員等の体制が十分でないままに訓練を実施することはありません。現部員で不足の場合は、上級生や大学院に在籍する航空部OBに支援を要請するなどしています。事故当日の訓練においても、御両親からの資料請求に応じて平成19年12月24日付でお送りした回答に記載の通り、4年生から佐藤君の他に活動に熟知した者2名と大学院生2名が参加していました。

・訓練前に実施するチェックフライトは、教官自身もしくは有資格者(ライセンサー)が教官の指示の下で実施し、機体の状態を確認しています。航空部において訓練を担当する教官は複数名おり、そのうち事故当日に訓練に立ち会った教官が半年以上当該機体に搭乗していなかったことは事実ですが、事故当日は大学院生である航空部OBが教官の指示の下でチェックフライトを実施しており、適正な安全確認が行われていたと考えています。このチェックフライトの状況は、御両親からの資料請求に応じて平成20年1月16日付でお送りした「ASK23B事故日のチェックフライトに関する報告」に記載の通りです。

・航空部として、入部者について「保証人の署名欄を自分で代理記入して良い」という方針・了解があったという事実はありません。航空部の教官及び役員は入部届に記載すべき内容を認識しており、このうち、保証人の署名欄についても当然適正に記載されているものと考えていました。しかしながら、従前からの入部届の取り扱いでは、記載内容を部員が確認し受理・保存することになっており、教官や役員が書類を直接確認する機会が無く、運用の中で厳密さが薄れてしまっていたことから、今後は取り扱いを厳格化するよう見直すことにしています。

・事故対策としてマニュアルを見直し、また、教育資料を追加・拡充した理由については、サブGと空間識失調に関する資料の追加が事故に対する直接的な予防策であり、その他の部分は、東北大学報告書にも記載の通りに「今回のような事故を二度と繰り返すことのないよう、他の重大事故につながる要因を一掃する」ために実施したもので、今回の事故との直接的な因果関係はありません。

・VHF無線機の不具合については、平成19年7月1日(日)の訓練開始時の点検でASK-23(事故機)に搭載していたVHF無線機の電源が入らないという不具合が見つかり、当日の訓練には当該機体を使用しませんでした。その後、無線機付属のリセットボタンを用いて再起動したところ不具合が解消しVHF無線機は正常に機能したため、7月8日(日)及び7月28日(土)の訓練においては当該機体を使用しました。両日にVHF無線機が正常に機能したことは、各日の飛行前点検リストにも明記されています。なお、御両親からの資料請求に応じて平成20年3月11日付で送付した添付文書に同点検リストが含まれています。
無線機が正常に機能することは安全を確保する上での基本中の基本であり、無線機に不具合があるまま訓練を実施することはありません。また、VHF無線は法令上、無資格者が電波を発することが認められておらず、当然、訓練開始時の点検は無線資格を有するものが実施しています。

・単独飛行時の教官による指示については、ご指摘の通り「明文化されていなかったので文章化した」ということです。

・単独飛行前の健康状態の確認についてですが、平成19年12月16日に航空部関係者が状況説明のために佐藤家を訪問させて頂いた際の説明資料である「東北大学航空部による事故の調査と分析」の(エ)項に記載の通り、佐藤君が教官と複座訓練機に同乗し事故発生約30分前に実施した訓練飛行は安定していて操作も適切であり、その訓練を通じて教官が観察した動作や会話でも普段と変わった様子は特に認められていません。また、佐藤君本人からも体調不良等の訴えは一切ありませんでした。これらの状況を踏まえて健康状態に問題なしと判断いたしました。
部員に対しては、常日頃より体調管理の重要性について指導していましたし、ライセンス取得の学科試験では体調管理の知識が要求されることから、平成18年夏に国内ライセンスのための学科試験に合格している佐藤君には当然その知識はあったものと思います。また、佐藤君は平成19年4月に米国のライセンスを取得しており、その際にも体調管理に関する知識について重ねて確認されているものと考えます。

・航空部の制定した訓練規則は、「単独飛行に係わる安全基準(滑空機)」(運輸省航空局平成9年12月18日付 空乗第2103号通達)に準拠しています。同基準には指示

を与える教官の場所(どこに居なければいけないか)についての規定はなく、また、教官が与えるべき指示の内容は「ア. 気象変化に伴う飛行中断等の指示、イ. 通過機等の飛行情報に基づく飛行方法の変更等の指示」となっております。このことから、教官が地上に居ない状態で訓練生が単独飛行したとのご指摘については、同基準に照らし合わせて問題となる要素はないと考えています。
なお、今回のマニュアル改訂にあたって、航空部の訓練規則で教官の場所を「地上」と指定したことは、前述の通り公的に義務付けられているものではありませんが、単独飛行に係わる安全基準を補完する事項として、航空部独自の判断で定めたものです。

・着陸と離陸が同時刻として記録されている点については、1名の記録者が高速に移動する機体と自分の時計を交互に見ながら記録するものであり、また、秒単位まで記録しているものではありませんので、多少の誤差が生じるのはやむを得ない部分があると考えていますが、いずれにせよ、事故当日、教官が一旦機体を降りて事故機の搭乗者が佐藤君であることを確認したことについては間違いありません。

・ウインチの操作資格等については、平成20年1月16日付で御両親に送付した文書で御回答した通り、公的な資格制度は無く、航空部独自に規定を設けて運用しています。事故当日も同規定に従ってウインチマン養成資格を有する大学院生である航空部OBが脇で指導監督しながらウインチ練習生の部員がウインチを操作し、また、ピストマンについても規定の資格を有する部員が担当していました。

・公開質問状には、「・・遺族の私どもが、個別にお聞きした情報では、シラバス、学科教材とも、その存在も知らされておらず・・」とありますが、学科教育資料については、「東北大式エレメンタリーグライディング」を新入部員が訓練を始める時の座学で使用し、「風を聴け」については、絶版で入手できないことから部員が容易に閲覧できるよう電子ファイルとして当部ホームページに掲載し、部員は日頃よりこれに目を通していました。
また、部員は直接シラバスを目にする機会が無かったことからその存在を認識していなかった可能性がありますが、事故当時、教官は日本学生航空連盟(以下、「学連」という。)のシラバスに則って適切な指導を行っており、「訓練は系統的ではなく、場当たりで行われていた」というご指摘は当てはまりません。

・公開質問状にある「①ストールにおけるGの変化、②ウインチ曳航中断後のサブG状態、③進入中のサブG」という訓練項目は、事故を受けて平成20年5月12日付で学連の安全委員会から出された安全委員会報告書「サブGセンセーションが係わる異常運航・事故およびその防止について」に示された標準的な体験実施要領です。航空・鉄道事故調査委員会報告書の2.5.3項にある通り、佐藤君の場合には上記の①に該当するストール体験を35回、②に該当するウインチ曳航中の策断訓練(ダミーカット)を2回実施しており、その他に本当の策断を1回経験しています。③に該当する訓練はありません。従来の実績では、①を10回以上、②を2回以上実施するのが標準的です。
なお、①と②に該当する訓練は、サブGを特に意識したものではありませんでしたが従来から必ず実施してきたものです。特に②ウインチ曳航中断によるサブGは、上記の安全委員会報告書に記載されているように物理的に最も自然にサブG状態が発生し、その状態を無理なく維持できるので現象の理解に最適なものです。このように実質的に従来からサブGの訓練は実施してきました。

・佐藤君の米国への渡航について航空部としての関与は一切ありませんでしたが、渡航費用等は御両親が負担しているとの考えのもとに、我々は、佐藤君は当然、御両親の了解の下で渡航したものと理解していました。
佐藤君の方から宮城県航空協会(以下「協会」という。)専務理事に「大会(平成20年春開催)に出るためにどうすればよいか」と相談を持ちかけ、協会専務理事から、米国でライセンスを取得すれば平成19年10月頃には国内ライセンスに書き換えが完了するので、大会出場のために必要な最低限の資格(国内ライセンス)を確保できる旨の助言を受けた、と聞いています。このことは、当時、佐藤君が大会出場を強く希望していたことを部員も教官も認識していたことと合致します。ただし、その後に佐藤君と協会専務理事との間で具体的にどのようなやり取りがあったかは当事者同士の問題であり、一連の経緯に関与していない航空部はお答えする立場にはありません。
航空部は協会の傘下団体として活動していますので、部員と協会関係者との間には日頃より交流があり、一般論として、協会の方々にはグライダー競技の先輩としての立場から良き相談相手となっていただいていますが、協会と航空部とはあくまでも別の組織であり、部員が協会側から直接的に指揮命令を受けるようなことはありません。

・部員が海外でライセンスを取得することに対する航空部の考え方は、御両親からの資料請求に応じて平成19年12月26日付でお送りした回答の通りです。つまり、ライセンスは、国内外問わず、しかるべき技能と知識検査の試験を受けて法律で認定される個人の資格であり、どこで(海外、国内)、いつ取得するかは、目的、時間的余裕、資金などに大きく依存することから個人の判断によると考えています。また、チャンスを逃さないという意味でライセンスの取得を推奨はしますが、航空部在籍中に必ず取得しなければならないものとは考えていません。

・米国ライセンスを取得したからといって、航空部の訓練が一部免除になったりするようなことはありません。経歴・経験は尊重しますが、あくまで航空部の定めた要領や基準に従って技量を確認しますし、特に、曳航方法(航空機曳航とウインチ曳航)の相違点は十分考慮して慎重に見極めていました。

・学生選手権をはじめとする大会への参加は部員の意志で決まるものであり、教官や役員が強要することはありません。また、少なくとも教官や役員が大会参加を緊急課題にしたことはこれまで一切ありません。

・繰り返しになりますが、部員に対し体調管理の重要性は常に指導しており、また、ライセンス取得の学科試験では体調管理の知識が要求されることから、部員はこれらのことを十分に理解していたはずです。併せて、航空部として訓練を実施するにあたっては、全体で適宜休憩を取るとともに、必要に応じて個々人の判断で休養を取るように指導していました。
訓練日を設定し必要な教官を依頼するのは部員自身です。部員に対し教官や役員から訓練を強要するようなことは一切ありません。また、試験日程は所属学部や学年、履修する講義によって様々であり、部員がこれらを考慮して自ら訓練日を設定していました。

・霞目飛行場のウインチ曳航の上昇角について、確かに過去には「東北大はウインチ曳航時の上昇角がきつく、それは短い滑走路(霞目)で高度を獲得することに馴れているから」と噂されたことがありますが、そのような事実は一切ありませんし、ここ最近ではこのような噂も耳にしていません。

以上