7.練習

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 練習の目的はいろいろある.所要時間の確認,スライドの改善,演説原稿の改善,演説発声の改善,身振りの改善などだ.スライド作成と発表実施の間には練習の時間が必要である.
7.1 スライドの印刷
 練習や見直し用の印刷物を作る.

スライド

A4判程度のスライド印刷物.スライドの見直しに用いる.

配布資料

サムネイル形式の印刷物.スライドの見直しに用いる.

ノート

演説原稿.演説原稿の見直しや演説練習に用いる.

7.2 資料見直し
 スライドおよび原稿に誤字脱字などないか,時間配分や改善の余地がないか見直しをする.
7.3 黙読練習
■黙読による演説原稿の見直し
 演説原稿を黙読する.誤字脱字や改善点があれば原稿を変更する.

間(マ)を置く必要のある箇所に読点を入れる.
話しにくい文,長過ぎる文を直す.
聞き手に伝わりにくいと思われる文を直す.
図や写真の配置が演説の順と合わないなら,スライドか演説原稿を直す.

■冗長文字の排除
 演説原稿にはない文字を普段のクセで発声してしまうことをなくす.以下はプロスポーツ選手やタレントがテレビ番組でよく使うので,影響されないようにしよう.

無意味な接続

「〜なので,〜ですし,〜」などと文を延々と続けるクセを直す.

無意味な思考

「〜したいと思います」は「〜します」や「〜しましょう」に直す.

無意味な敬語

「〜させていただきます」は「〜します」に直す.

無意味な接続敬語

「〜ですけれども」は「〜ですが」や「〜です」に直す.

無意味な「とか」

「〜とかがあります」は「〜があります」に直す.

■冗長音の排除
 次に「アー」「ウー」「エート」「オー」「マー」などの発声の習慣がないかどうか確かめて,そういう冗長音を発声する習慣があるなら排除するよう訓練する.
 演説原稿を黙読または音読する.冗長音を言いそうになったら沈黙する.練習を繰り返して沈黙する時間を縮める.次の例では「xxx」は沈黙を表す.

習慣

エー,理科,歴史などの,オー,調査です.マー,日本で〜

訓練

xxx理科,歴史などの,xxx調査です.xxx日本で〜

上達

理科,歴史などの,調査です.日本で〜

 こうすると簡単にクセを直せる.テレビ番組の中ではニュースや漫才師は手本になる.
7.4 音読練習
 この辺からスライドだけを見て演説するように努力する.
■速度・強弱の確認

 音読をして強弱や速さを確認して,必要なら改善する練習をする.録音・再生には発表ソフトウエアのナレーション機能を使う.あるいはコンピュータの録音ソフトウエア(サウンドレコーダー)や普通の録音機やビデオカメラで録音してもよい.

 すべての音節を標準的な時間をかけて明瞭に発声しているかを確かめる.

(1)口をあまり開けないで話していないか.ハキハキと話すようにする.
(2)句点や読点のところで間(マ)をちゃんと置いているか.
(3)「ネットワークの専門家を置く」などと似た音が続くと縮めてしまいやすい.
(4)慣れている言葉は早口になりやすい.氏名や専門用語はゆっくり話す.
(5)ニュースより速く話してはいけない.時間超過対策のための早口はいけない.
(6)文末で息をひそめるクセはないか.「発想が強いと感じました」などと.
(7)助詞を強くしたり,伸ばしたりするクセはないか.「発想がー強い」など.
(8)言葉のアクセントおよび文全体の抑揚が適切か.
(9)半疑問文のクセはないか.質問でないのに質問「?」のようなアクセントのこと.

■口調・感情
 口調を確かめて,必要なら改善する.

(1)弱気だと信頼されないし,強気過ぎても怪しまれる.
(2)朴トツだと信頼されないし,立て板に水だと薄っぺらに聞こえる.
(3)ため息はやる気がなく聞こえるし,咳払いはいばっているように聞こえる.
(4)喜怒哀楽は出さない.話すことは複雑な活動なので冷静に徹する.

■想定質疑応答の練習
 想定質疑応答についても黙読と音読の練習をする.演説以上に原稿を見ない練習を重ねる.
 質疑応答では感情を抑制する練習もする.質疑応答は喜怒哀楽を出しがちだからである.
7.5 時間の測定
 円滑に演説できるようになったら時間を測定する.予定時間に合うかどうか確かめて,必要ならスライドの構成,演説の冗長性,演説原稿などを直すためである.
■練習モードのスライドショー 
 スライドを表示して,指示棒の代わりに指やボールペンで説明箇所を指しながら原稿を見ないで演説する.想定質疑応答は原稿の質問文だけを見て回答してみる.発表ソフトウエアの練習モードでスライドショーを実行すると時間の記録が残る.

■時間の測定結果の分析

 スライドショーを終えたらスライド一覧を表示する.各スライドの所に所要時間が表示される.

■時間調整
 練習した発表時間が予定時間より不足した場合は,演説原稿の量を増やすか,スライドを分割して,より詳細な説明に変える.あるいは分析や設計の時に削除した話題を追加する.
 一般には予定時間より長くなることが多い.この調整は大変である.次のように対処する.

(1)冗長音,詰まり,言い直しを減らす.冗長音が5%なら15分では45秒にもなる.
(2)演説原稿から文字や文を削る.
(3)前置きのスライド数や話題数を減らす.本質に関係ないので大胆に削れる.
(4)本論のスライドを重み付けして,重要でないスライドを削るか話題数を減らす.
(5)時間のかかったスライドを重点的に縮める.

7.6 動作練習
 動作練習はスライド操作や演説に加えて,視線の扱いや指示棒の扱いも含む練習である.

(1)身体の位置と向きを制御する
 発表者は胸を張って立ち,身体の向きは最前列の中央の視聴者を基準点にする.中央の視聴者と自分が立つ位置の間にコンピュータを置いて,映写幕(視聴者用画面)ではなくてコンピュータ表示画面(ディスプレイ装置)を見るようにする.指示棒で映写幕を指す時は視線を一瞬そちらへ向けるが、身体は向けないようにする.

(2)視線を交わす
 視線を向ける時間比率は図の印のような重点配分にする.◎印の最後部の中央の視聴者を視線を交わす基準点にする.こうするとほとんどの人は自分も見られているように感じるからだ.ときどきは○印の四隅の視聴者とも視線を交わす.△印の映写幕を見るのは表示を確認したり,指示棒で指す瞬間だけにする.

(3)指示棒・レーザポインタを扱う

 指示棒やレーザポインタはできるだけ使わない.視聴者が画面のどこを見てよいか迷う時だけに使う.指示棒は映写幕に近い方の手で持つ.視聴者と視線を交わしやすいようにするためである.そのため利き手の練習と,反対の手の練習との両方をする.
 指示棒で文面や図を指す時には,発表者側の端を指して止める.向こう側を指すと文面や図が指示棒で隠れる.

 指示棒は映写幕を指さない時は,自然に垂らしておくか,テーブルに置く.横に持ったり,肩にかついだりすると視聴者の気が散る.

(4)手を制御する
 手はコンピュータや指示棒を扱うほかに,実物や模型を示したり,物事の大小を表したり,動き方を表したりするのに使う.手は目立つので必要のない時は自然に垂らしておく.手をポケットに入れたり,顔にあてたり,髪の毛や指示棒をいじったりすると視聴者の気が散る.

 

7.7 対人練習
 最後に上司,同僚,あるいは発表経験者に視聴者になってもらって発表する.これを対人練習と言う.
■対人恐怖
 対人練習は発表の改善のほかに対人恐怖を減らすのに役立つ.
■積極的聴取
 発表が終わったら想定質問を任意の順序でしてもらう.

 積極的聴取「聴く」とは神経を集中して「聞く」ことである.

・挙手によって質問があることが分かる.質問者と視線を交わす.

・喜怒哀楽を抑制する.

・唇を注視して発言の最初から聞き漏らさないようにする.

・相手が話している間,視線を交わしておく.

・回答を考えることより聞くことを優先する.

・うなづきなども控え目にする.

・発言の終了をすぐ察知する.

■想定質疑応答と想定外質疑応答
 想定質問には想定質疑応答原稿を見ないで回答する.
 視聴者には想定外質問もしてもらう.もちろん積極的聴取をして回答する.

相手が話し終わったら速やかに回答を選び,速やかに発声を始める.
文の組み立て,発声,次の文の検討,視線交わし,発言の終結判断を同時並行に進めていく.
この間も喜怒哀楽を抑制して冷静にする.

 回答文としては想定質疑応答作文の原則を適用する.本番ではないのでゆっくりと回答してよい.

最初の話題文は何にするか? 質問者の主旨に合う結論をまず述べる.聴いた相手は少なくとも主旨に合った結論だと納得した表情か?
反論は必要か? 合意できないなら反論の接続句を述べる.
一番重要な補足文を何にするか? これで終結してよいか?
二番目に重要な補足文を何にするか? これで終結してよいか?
・・・ 話題文を含めて4〜5文でやめる.

■批評
 質疑応答の練習を終えたら,視聴者は配布資料にメモ書きした批評を口頭で発表者へ伝える.発表者は必要なら議論しながら指摘を記録する.想定外質問も記録して,後で原稿へ回答も含めて追加する.
 批評を理解したら,即時に再発表するか,または対人練習を止めて,スライドや原稿を直して個人練習をしてから,次の対人練習をする.これを5段階評価で3なり4なり5なりの基準へ達するまで繰り返す.

君島浩のISD研究室.2001.1.25, 2005.5.23.[ 戻る ] [ ホーム ] [ 上へ ] [ 進む ]