6.想定質疑応答作文

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■質疑応答
 発表を聴いた人が質問や意見を述べて,それに対して発表者が回答する会話を質疑応答という.
 会話を上手にするためには会話技法を訓練する.発表の場合には想定質疑に対する回答を作文するとともに,練習で想定質疑や想定外質疑を受けて回答する.
 ここに述べる会話技法が使える分野には,発表のほかに,就職の面接,医療診察,電話番号案内などのコールセンター(ヘルプデスク),会社の報道記者向け発表,取扱説明書やウエブページに載せる頻出質問回答集(FAQ集)などがある.

6.1 質問・意見の想定
 想定質問を列挙して「おわりスライド」のノート枠の演説原稿の後に書く.10項目ぐらいは列挙する.
 ノバト高校の事例は筆者たちのツアーが見学した報告なので,その時にツアー参加者が実際に質問した事例を挙げよう.質問にも上手下手がある.私たちのツアーは質問が多く,しかも感情的な質問がなかった.上手に質問した方である.
6.2 回答作文の技法
 回答文面は基本的には一般の文章と同じ次の条件に合わせる.
 ・構造としては結論の話題文で始めて,いくつかの補足文を続ける.
 ・文あるいは行の量は1から7までである.4〜5行が適量である.
 ・補足文は重要な順に並べる.そうすればいつでも打ち切ることができる.

 結論の話題文.

[反論の接続句]最も重要な補足文.

二番目に重要な補足文.

三番目に重要な補足文.

四番目に重要な補足文.(5文以下で打ち切り) 

  結論の話題文の構文には次の種類がある.質問者の質疑が発表者に気にいらない内容であっても,肯定すべきなら素直にイエスと結論を述べる.

知見の提供

〜は〜です.

質疑の肯定

はい,そのとおりです.

復唱型肯定

はい,〜は〜です.

質疑の否定

いいえ,そうではありません.

復唱型否定

いいえ,〜は〜ではありません.

選択の回避

それはいちがいに言えません.

回答の回避

それは私には分かりません.

 結論を話題文で述べて,理由は後の補足文で述べるという順序が大切である.

質問:先生方がコンピュータ講習会を受ける立場になると,成績が評価されるから受けたがらないんじゃないてすか? 

良い回答:いいえ,コンピュータ講習会への抵抗はありません.先生方へのコンピュータ講習会では成績をつけないです.

悪い回答:先生方へのコンピュータ講習会では成績はつけません.ですから,コンピュータ講習会への抵抗はありません

  とりあえず結論を述べた後には,反論の接続句で補足文を始めることがある.反論の補足文を話題文と合体して,重文にしてもよい.

  しかし,〜.

 それは例外的なことであって,多くの場合は〜

 〜いちがいに言えません.強いて言えば〜

 〜いちがいに言えませんが,私の意見としては〜

 〜分かりませんが,別の事例では〜でした.

 気にいらない質疑を肯定してから,反論する例を次に示す.

質問:ノバト高校にはコンピュータが得意な先生がいたから,導入がうまくいったんじゃないですか? 

回答:確かに最初はコンピュータの経験がある商業科目の先生が指揮をとりました.しかし,ある数学の先生は出欠簿処理で初めてコンピュータを使いました.1993年から導入が始まったのに,1998年になって取り組んだんです.しかし,出欠簿処理ではこの先生が先頭を切りました.

  これと同じことでも結論を後回しにすると次のようになり,質問者はいらいらする.

回答:出欠簿処理で先頭を切った先生がいます.1993年から導入が始まったのに,その先生は1998年になって取り組んだんです.その数学の先生は出欠簿処理で初めてコンピュータを使ったそうです.確かに最初はコンピュータの経験がある商業科目の先生が指揮をとりましたが.

 回答者としても文段全体の構想が必要になる.結論をまず片づけ,重要な順に片づけていけば,構想も必要ないし,回答が延々と長くなったりしない.

6.3 単純な質問の回答作文
 回答作文の技法に従って,想定質問に対する回答の原稿を,スライドノート枠の質問文の後へ挿入する.1ページを超えたらスライドを追加する.ノバト高校見学の時の質問に対する校長先生や教諭たちの回答をほぼ忠実に以下に示す.結論先行で,理由は後回しで,中身が濃くて,短いという見事な回答ばかりである.

質問1:演習室は放課後も使えるんですか?

回答1:演習室は月・水・金の昼休みがオープンです.それで大体間に合っています.図書室は放課後もオープンです.司書の先生がいるので目が届きます.

質問2:製図をするのに使っているのは何という名前のソフトウエアですか?簡易版のCADですか?

回答2:会社でも使っているAutoCADという専門的なソフトウエアです.家の設計や複雑な機械の設計を完成させます.私はAutoCADを教えて3年になります.

(以下省略)

6.4 発表主題と少しずれた質問

質問7:シリコンバレーのような地域ならコンピュータの意識も高いと思いますが,ノバト高校の近くにはどういう会社が多いですか?

回答7:マルチメディアの会社が多いです.近くのサンフランシスコもマルチメディア会社が多いですが,土地の安い所を求める会社がこちらに進出してきます.CADソフトウエアの有名な会社やルーカスフィルムなどのマルチメディア会社などが就職口になります.それがノバト高校がコンピュータを導入する理由の一つでした.以前はごく普通の中規模の商工業の町でした.

質問8:生徒が自宅で先生とメールで相談したりしますか?

回答8:はい.先生は全員が学区のメールアドレスをもらっています.大学ではレポートを提出するのにも普通に使われています.

(以下省略)

6.5 専門的な質問

質問12:コンピュータがある家庭も多いので,生徒の前提知識のばらつきによって授業がやりづらいのではないですか?

回答12:確かにそういう面はあります.前提のコンピュータ経験について親と相談したりします.スキルがあれば上級コースまでスキップしたりします.前提スキルの試験もします.ワールドワイドウエブのクラブもあって,経験者は1年生でも入ります.

質問13:コンピュータを導入する時,近くの大学の教育学部や情報学科の教授が参画したりしましたか?

回答13:いいえ.地域のマリン郡カレッジの先生は,私たちが導入した後に見学に来たぐらいです.導入は現場の先生方が中心になって進める方がいいです.

(以下省略)

君島浩のISD研究室.2001.1.25, 2002.1.12.[ 戻る ] [ ホーム ] [ 上へ ] [ 進む ]