6.教員免許状更新

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(注:都道府県、市区町村と表現するのは煩雑なので、それぞれ県と市と省略する。)

教員教育の法律の歴史 教育分野の法律は洗練度が不足

「国家公務員法」(昭和22年制定)は長の職員カリキュラム制定・監督を明記。洗練度が高い。

「地方公務員法」(昭和25年制定)は長の職員カリキュラム責任に言及せず。

「教育公務員特例法」(昭和24年制定)は長の職員カリキュラム責任に言及せず。

「教育公務員特例法」(平成14年追加)は10年目研修を長でなく国会が制定

「教員免許法」(平成19年改正)10年更新を再生会議が提案。長でなく国会が制定。

  民主党は教員免許制度の見直しをマニフェストにした。政権交代したが廃止は進展していない。

教育職員免許法:免許の更新(平成10年、14年、19年改正)  

(効力)第9条 普通免許状は、その授与の日の翌日から起算して10年を経過する日の属する年度の末日まで、すべての都道府県〜において効力を有する。

(有効期間の更新及び延長)第9条の2 免許管理者は、普通免許状又は特別免許状の有効期間を、その満了の際、その免許状を有する者の申請により更新することができる。

更新講習は30時間(5日間)、講義形式なら2単位に相当する。中途半端な長さだと思う。

■類似の免許状制度との比較

自動車、船舶、航空機などの乗物免許には更新制度がある。目的は視力等の適性の再確認や事故事例などの安全性の推進であり、免許取得時に比べると格段に簡単。

教員という仕事は主に知的作業なので、成績が向上することはあっても低下することはない。

医師国家試験、司法試験などは、出題や成績が教育学的に管理されている。

■教員免許状更新の問題点

講習の例: 「地理・歴史の資料から情報を引き出す」科目(1日間)

 歴史的・地理的な資料(文献、統計、地図など)から何が言えるか、具体的に材料を提示して、各自が仮説を挙げ、グループ・セッションなどを通して結論を導いていく。グループ授業における教材開発の事例として提示したい。

教員免許状更新制度には細かな反対論が多いが、次のようなおおざっぱな批評で十分である。

大半は教育学者が担当するので、この例のように到達目標が定義されていない講習が多い。

到達目標という条件を書かないので、試験の基準が不明である。

試験の基準が不明なので試験の品質(妥当性、信頼性)の管理ができない。

各教員は不合格になれば失業するので、戦々恐々として5日間の講習を受講する。

不合格にして訴訟問題になれば、試験品質管理が論争の的になるので全員を合格にしたのではないか。

全員合格であったことが分かって、30時間も時間を無駄にした、と批判が起きた。

更新制度を担当する県教委人事課には、教員研修所と重複する仕事が増えた。

■法治主義への無理解

教員研修は法律で県教委に義務付けられている。教員の成績がよくないなら、国は県教委に対して教員研修の管理を改善する勧告をすればよい。コントロールは法規制定と実施監督で構成されるが、実施監督権を国は行使できる。

現実には、国は行政権ではなくて法律制定権を行使してしまった。再生会議等の力で、教員の成績がよくないのは、教育学部や都道府県のせいではなく国のせいだ、国の行政のせいではなく法律のせいだ、と反省させられたのだ。

ところで教員の成績がよくないというのは、再生会議等の指摘であって根拠が怪しい。実施監督するためには、管理(マネジメント)担当の県教委から教員研修の実施報告・成績報告が必要である。報告させるのも実施監督の一つだがやっていない。

「管理(マネジメント)させずに、制御(コントロール)している」

「行政(実施是正)せずに、立法している」 三権分立になっていない

■法治主義の教育統治

米国の教育機関は、法律に頼らずに内部規則で教育カリキュラムを制定し、学校には教育実施報告をさせている。これがコントロールだ。

成績が思わしくない場合には、学校側が発見して次年度のための改善施策を報告する。コントロールする側は、やたらに規則を変えたり、勧告権を発動したりしない。つまりコントロールする側はできるだけ何もしないで、マネジメントにまかせる。

国会や文科省は何もしないのが最善である。県教委も何もしないのが最善である。

教員カリキュラムを教員研修所まかせにしていたのを、県教育委員会の上位規則に引き上げさせるべきだ。

教員研修所の実施結果を、成績データを含めて県教委へ報告させる。成績不良なら次年度の改善施策を研修所に決めさせる。

■管理(マネジメント)と実務(オペレーション)  

研修の講師や企画者には教育の技法・手順を定めた細則・マニュアルが役に立つ。

国際通信連合ITU

米国国防総省

米国エネルギー省

例えば、厚生労働省や病院がいくら良い統治をしても、技法がなければ手術(オペレーション)は上手にならない。

米国の教育委員会も教育マニュアルを持っていない。これらのノウハウは米国の大学の教育学部の、教育工学科という一学科がほそぼそと維持し、企業内教育者や軍隊の教育者を供給しているだけである。日本では職業能力開発総合大学校にある。

世界中の学校教育者は、歴史的論文と現代物語という珍妙な教育学を信奉している。教育学は世界的な未開の宝庫である。ここに気づかない限り、教員は向上しない。

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