5.教員養成塾の事例:杉並師範館

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 従来の教員教育制度とは別に、特別な教員養成塾を開設する例が少なくない。その一つの事例として、東京都杉並区が創設して取りやめた教員の卒前教育制度を解説する。

杉並師範館(ウェブ百科事典Wikipedia

 杉並師範館とは杉並区が独自に小学校教員を養成し、採用するための教師養成塾である。

教員免許取得予定の学生や社会人、現職の教師などを対象に毎年30名程度が募集され合格した塾生は教育界・経済界、文化・スポーツ界など各界からの教授陣による実践的指導力に重点を置くとする独自のカリキュラム研修を1年間受けることになり、その後、杉並区教育委員会が塾生だけを対象に行う採用試験を受けることになる。(中略)

都教委で採用され杉並区に配属される教員数は従来と同じため、この塾により採用された教員数が増えることになるが、少人数のクラスわけ等をすることでより密な教育が可能になると杉並区はコメントしている。塾運営費やこの塾から採用された教員への人件費などは区費で賄われている。

5期生26名が卒塾する20113月で解散することを決定した。

収入4880万円、補助金収入依存率928%(平成18年度)の非入札事業である。

目的が多様なので評価するのが難しい。どれか一つに絞るのが定石だと思う。

教員採用前に区役所の事業として師範館で質の高い教育をほどこす。

教育内容の一つは、実践的指導力

教育内容の一つは、中国古典などの古典的な講義。

採用:都採用のほかに、師範館修了者に限って、杉並区が独自採用する。

人事異動:東京都全体を異動せずに、杉並区に永年勤続する教員の確保。

教員数を増やして、少人数クラスが可能。

児童・生徒の学力向上

杉並区の概要

面積3402km²総人口548,317人(推計人口、201131日)人口密度16,120/km²  

杉並師範館の資料「概要」

役員【理事長】田口佳史((株)イメージプラン代表取締役社長)

【副理事長/塾長】 山村弘((社)日本工学教育協会副会長、元FUJITSUユニバーシティ所長)

【理事/塾長補佐】 瀬口清之(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

【理事】 有馬利男(富士ゼロックス(株)相談役特別顧問)

遠藤勝裕(日本証券代行(株)取締役相談役)小松郁夫(玉川大学教職大学院教授)

白滝一紀(秋田大学コーディネーター、(株)教育新聞社相談役) 田宮謙次(元ソニー・ユニバーシティ学長

野原明(文化女子大学教授、同大附属杉並中学校・高等学校長、元NHK解説委員)

橋本堅太郎(彫刻家、日本芸術院会員、前(社)日展理事長) 三重野康(元日本銀行総裁、漢字文化振興会会長

和地孝(テルモ(株)代表取締役会長) 松沼信夫(杉並区副区長)吉田順之(杉並区教育委員会事務局次長)

【監事】中村香子(公認会計士)山本宗之(杉並区会計管理室長)

人事管理、学校教員、役人の経験者が乏しいように思える。

人事管理、教育などについて、研究して学会発表したような人が少ないようである。

杉並師範館関連資料「平成22年第20回教育委員会記録平成22年11月10日(水)」

区の教育委員会は、平成23年度、杉並師範館の理事・教授陣の参画を得て、「杉並師範館卒塾生人材育成等懇談会」(仮称)を設置して、教職員人事権の移譲の問題、あるいは卒塾生育成に関する助言等について懇談。

同志・同友の立場としての組織をつくって、卒塾生のさらなる成長を支えていく。

 

杉並師範館関連資料「杉並師範館とは」

小学校教員免許取得予定の学生や既に取得済みの社会人を対象に、志ある人材を全国から毎年30名程度募集し、人を教える人間力とともに実践的指導力に重点を置いた独自のカリキュラムで一年間学んでいただきます。

塾生を対象に、杉並区教育委員会の採用選考が行われ、基本的に杉並区立小学校の教員として採用される予定です。

杉並師範館関連資料「平成20年度実施(第4期生)筆記試験問題」

あなたが考える「優れた教師」の要素を三つあげ、その要素に基づき「あなたの目指す教師像」を、具体的に1,200字程度で述べなさい。

平成19年度実施(第3期生)筆記試験問題

人との関わりをもつことが苦手な子どもたちが増えているといわれるがどう思うか。また、子どもたちにコミュニケーション能力を身につけさせるために、学校においてどのような取り組みが必要だと考えるか具体的に述べなさい。(1,200字程度)

筆記試験といっても小論文なので、基礎学力成績が問われないのは問題である

杉並師範館関連資料「平成23年度杉並区学校教育職員受験資格」

以下のすべてに該当する方が対象となります。

1.昭和41年4月2日以降に出生した者。

2.小学校教諭普通免許状を有する者、又は平成23年4月1日までに取得見込みの者。

3.平成22年度に杉並師範館の塾生として在籍し平成23年3月31日までに卒塾できる見込みの者、又は杉並師範館を卒塾した者。採用候補者選考(平成2212月予定)面接等

東京都採用の場合

第一次選考平成23年7月3日(日)

@教職教養〔60分間〕A専門教養〔60分間〕B論文〔90分間〕

面接平成23年8月20日(土)又は平成23年8月21日(日)

 @団体面接 A個人面接

第二次選考実技平成23年9月4日(日)音楽・美術・保健体育・英語の受験者

東京都採用では論文以外の知識試験があるので学力が評価される。このような正規の採用の場合には、試験問題作成に関する人材や資金がある。

採用予定者へ教育をするのは、予定者のカネや時間への非介入の原則に反する。

就職難のおり、カネを払う入館者も、カネがなくて断念する人もかわいそうだ。このことも法的に疑問が持たれる理由である。

杉並師範館関連資料「2008年杉並区議会第3定例会」

2)補助金支出の決裁権者が理事となっている教育委員会事務局次長となっているがそれを可能とする根拠を示せ。

【答弁】補助金の支出は、予算事務規則、教育委員会職務権限規則に基づき行なったものであり、…

師範館に関する条例、規則、規程がウエブの公開情報としては見つからない。議会立法や区長行政ではなく、教育委員会内部で、創立・運用したものと思われる。

「杉並師範館補助金交付要綱」(教育委員会事務局庶務課)が根拠要綱とされている。教育委員会内部でも、上位の規則や中位の規程ではなく、下位のマニュアルで処理したといえよう。

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