4.事例:東京都 4.1 教育関連法

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 東京都には道府県とは異なる性質があるので、事例として取り上げる。

4.1 教育関連法

組織の仕組み

大航海時代の初期は、1回の航海ごとに資本家・船主・乗組員が委託・清算をした。

会社制度が誕生。年度単位の会計によって、説明性と継続性とを両立させた。

ISO9000品質体系や教育体系開発(instructional systems development)の枠組も参考になる。

階層 各階層の仕事 説明制の根拠資料
定義

全体定義                 実施監督

規則、実施総括報告書
執行

教育の分析→設計→開発→実施→評価

細則、実施報告書

 

国家公務員法」

(能率増進計画) 第七十三条  内閣総理大臣(第一号の事項については、人事院)及び関係庁のは、職員の勤務能率の発揮及び増進のために、左の事項について計画を樹立し、これが実施に努めなければならない。

 職員の研修に関する事項  (以下略)

「計画を樹立」だから、計画とは動詞系語句ではなく、名詞系語句である。計画とは樹立される文書(規則)のことを意味する。

「実施」とは部下に執行させつつ、規則が妥当かどうかを執行実績の全体報告書で確認し、株主等へ説明できることである。また、年度途中にも随時、執行に介入するが、これは執行の管理とは異なり、あくまでも規則の質に関心を持つ活動だ。

計画(規則)はその内容の大筋のことなので、研修規則の場合は教育課程(カリキュラム、主な講座編成)である。

手順書は内容の細部を表すマニュアルである。研修の場合は指導要領である。

  

「地方公務員法」

(職階制の根本基準)第23条 人事委員会を置く地方公共団体は、職階制を採用するものとする。2 職階制に関する計画は、条例で定める。3 職階制に関する計画の実施に関し必要な事項は、前項の条例に基き人事委員会規則で定める。4 人事委員会は、職員の職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて分類整理しなければならない。

職階制は法律としては廃止されたが、給与規則の枠組として存続しているし、適当な代替案がないので事実上は最も信頼できる雛型だと考えられる。

職階制の「計画」とは職階を大分類した条例である。内規としては人事課が職務明細書(細則や手順書の仲間)をメンテナンスすることを定める。

職階制の「実施」とは、人事管理に職種・職級・職務明細書を実用することであり、人事報告書で実績を知事や市町村長へ報告しなければならない。

東京都の例規集には職階条例は見当たらない。給与規則などに断片が見られる。

職階の大分類は、研修規則の階層別教育課程に部分的に利用されている。しかし、職階条例及び職務明細書が完備していないようなので、階層別教育課程の根拠が乏しい。

  地方公務員法(昭和25年版)

(研修)第三十九条 職員には、その勤務能率の発揮及び増進のために、研修を受ける機会が与えられなければならない。

2 前項の研修は、任命権者が行うものとする。

3 人事委員会は、研修に関する計画の立案その他研修の方法について任命権者に勧告することができる。

最初の条項は教育基本法のレベルであり、冗長であるから必要ない。いきなり「任免権者は、職員の研修を行うものとする」と書くべきである。

2項は任命権者が「計画の樹立」と「実施」をすることが欠落している。

「計画の立案〜について〜勧告」というのはおかしい。「計画〜について〜勧告」である。

立案とは主に内容を扱うのであって、方法という表現はおかしい。方法は執行段階のことである。

地方公務員法(平成16年改正)

(研修)第三十九条 職員には、その勤務能率の発揮及び増進のために、研修を受ける機会が与えられなければならない。

2 前項の研修は、任命権者が行うものとする。

3 地方公共団体は、研修の目標、研修に関する計画指針となるべき事項その他研修に関する基本的な方針を定めるものとする。

4 人事委員会は、研修に関する計画の立案その他研修の方法について任命権者に勧告することができる。

「地方公共団体は」ではなく「任命権者は」が正しい。

「目標」「計画の指針」「基本的な方針」などの語句は、組織用語でも法律用語でもない。目標は上位の法規にそぐわない。指針や方針は条例や規則を樹立する過程の準備資料でしかない。

2項では実施監督のことが含まれていたが、3項には実施監督ことが欠落している。

以上、欠陥が3点もあるので、追加された3項はひどい欠陥条項である。起案した会議に知識が欠けていた上に、行政官や国会職員等が査読できなかったのである。

3項の追加が必要になったのは、以前の法律及び計画(教育規則)や実施監督(実績報告書)が不備だったからである。法律を直すのではなく、実施監督をすべきだったのである。こういう手段の取り違えは、教育統治以外の政治にもしばしば見られる。

教育公務員特例法:研修及び研修の機会

(研修)第二十一条 教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない。

2 教育公務員の任命権者は、教育公務員の研修について、それに要する施設、研修を奨励するための方途その他研修に関する計画を樹立し、その実施に努めなければならない。

(研修の機会)第二十二条 教育公務員には、研修を受ける機会が与えられなければならない。

2 教員は、授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修を行うことができる。

3 教育公務員は、任命権者の定めるところにより、現職のままで、長期にわたる研修を受けることができる。

これらの条文は本来は必要ないのではないか。教育分野以外の省庁の公務員や教員以外の学校職員と同じ条文で済みそうだからである。

最初の条項は冗長である。どんな職員も研究と修養に関わるし、それは職員の義務というよりも上位者が勧奨するという表現でなければならない。

教員公務員の研修が問題になったのは、地方公務員法の不備もあるが、一般公務員に比べて未熟さが目立ったからだろう。卒前教育(教育学部等)、職務明細書、職員教育規則(教育課程)、指導要領などが不備だったのである。改定すべきなのは職員教育課程や指導要領である。特例法を設けて対処すべき問題ではない。

教育公務員特例法:初任者研修等

(初任者研修)第二十三条 公立の小学校等の教諭等の任命権者は、当該教諭等(政令で指定する者を除く。)に対して、その採用の日から一年間の教諭の職務の遂行に必要な事項に関する実践的な研修(以下「初任者研修」という。)を実施しなければならない。

2 任命権者は、初任者研修を受ける者(次項において「初任者」という。)の所属する学校の副校長、教頭、主幹教諭(養護又は栄養の指導及び管理をつかさどる主幹教諭を除く。)、指導教諭、教諭又は講師のうちから、指導教員を命じるものとする。

3 指導教員は、初任者に対して教諭の職務の遂行に必要な事項について指導及び助言を行うものとする。

これらは都道府県以下の条例や規則にまかせるべきことである。

計画と実施を分けるとすれば、実施は職員教育部長などに委任できるので、任命権者のやることをここまで細かく法律に定めるべきではない。

「十年経験者」という区分は職務明細書には登場しえない区分なので、このような教育課程を設けることは教育論の定石はずれである。同期入職者でも十年もすれば主任級や係長級への昇格の差が出る。職級に応じる教育課程にするのが定石だ。

1年目の教育職員へ「実践的な」研修をすべきだということは教育論の定石にはない。法律を強化するのではなく、職務明細書に沿った研修をするように実施を監督するだけでよいのである。

部下指導は係長級などの上司の職務明細書に規定されているべき詳細であり、法律で定めることではない。

これらの条項は平成10年(1998年)以降に改正されている。このような法律を作りたくなる原因の根本を分析して、もっと別な対処をすべきである。

  教育公務員特例法:(十年経験者研修)

(十年経験者研修)第二十四条 公立の小学校等の教諭等の任命権者は、当該教諭等に対して、その在職期間(公立学校以外の小学校等の教諭等としての在職期間を含む。)が十年(特別の事情がある場合には、十年を標準として任命権者が定める年数)に達した後相当の期間内に、個々の能力、適性等に応じて、教諭等としての資質の向上を図るために必要な事項に関する研修(以下「十年経験者研修」という。)を実施しなければならない。

2 任命権者は、十年経験者研修を実施するに当たり、十年経験者研修を受ける者の能力、適性等について評価を行い、その結果に基づき、当該者ごとに十年経験者研修に関する計画書を作成しなければならない。

3 第一項に規定する在職期間の計算方法、十年経験者研修を実施する期間その他十年経験者研修の実施に関し必要な事項は、政令で定める。

研修を実施する前に、評価を行うということは、教育論の定石にはない。業務を忙しくするだけだ。昇格に対応する階層別教育課程なら、教育ではなく人事制度として実施前評価(教育受講資格者選抜)をしてもよい。

個人ごとに計画書を作成するということは、教育論の定石にはない。

「政令」で定めるべきことではない。法規の体系のゆがみが増えつつある。

教育公務員特例法

(研修計画の体系的な樹立)第二十五条 任命権者が定める初任者研修及び十年経験者研修に関する計画は、教員の経験に応じて実施する体系的な研修の一環をなすものとして樹立されなければならない。  

法規の「計画」という言葉の誤解は再三、指摘してきた。立法教育や法解釈教育が不備なのが問題である。そこを直さないと法規がますます混乱していく。

第21条2項で定義済みなので、この条文は不要である。「計画」とは主に教育課程のことであり、十年経験者研修も記載されるだろうから、第21条で十分なのだ。

法規はもともと体系を規定するのが普通であり、個々の要素を指摘することは法律らしくない。

教育公務員特例法

(指導改善研修)第二十五条の二 公立の小学校等の教諭等の任命権者は、児童、生徒又は幼児(以下「児童等」という。)に対する指導が不適切であると認定した教諭等に対して、その能力、適性等に応じて、当該指導の改善を図るために必要な事項に関する研修(以下「指導改善研修」という。)を実施しなければならない。

2 指導改善研修の期間は、一年を超えてはならない。ただし、特に必要があると認めるときは、任命権者は、指導改善研修を開始した日から引き続き二年を超えない範囲内で、これを延長することができる。

3 任命権者は、指導改善研修を実施するに当たり、指導改善研修を受ける者の能力、適性等に応じて、その者ごとに指導改善研修に関する計画書を作成しなければならない。

4 任命権者は、指導改善研修の終了時において、指導改善研修を受けた者の児童等に対する指導の改善の程度に関する認定を行わなければならない。

5 任命権者は、第一項及び前項の認定に当たつては、教育委員会規則で定めるところにより、教育学、医学、心理学その他の児童等に対する指導に関する専門的知識を有する者及び当該任命権者の属する都道府県又は市町村の区域内に居住する保護者(親権を行う者及び未成年後見人をいう。)である者の意見を聴かなければならない。

6 前項に定めるもののほか、事実の確認の方法その他第一項及び第四項の認定の手続に関し必要な事項は、教育委員会規則で定めるものとする。

7 前各項に規定するもののほか、指導改善研修の実施に関し必要な事項は、政令で定める。

(指導改善研修後の措置)第二十五条の三 任命権者は、前条第四項の認定において指導の改善が不十分でなお児童等に対する指導を適切に行うことができないと認める教諭等に対して、免職その他の必要な措置を講ずるものとする。

問題教員の扱いであろうが、必要のない法文と思われる。教育公務員に限らず医師などにも共通の問題である。基本的には対人業務からはずして、前に修了した教育課程を受け直させるしかない。

問題教員の扱いは人事上の問題であり、人事と研修とは距離を置くべきである。

校長の法規的な作業を増やすよりも、校長研修の内容を充実させる方がよい。

例外的な問題職員はどんな組織でも発生する。腹をくくって運用で対処すべきだ。

問題教員は、教育課程規準や指導要領規準を軽視する施策の増加にも影響されている。教育課程規準や指導要領規準に統治の重点を移せば、仕事の興味や自信が増して問題教員が減ると思われる。

障害を持つ教員の雇用促進のために、アスペルガー症などと問題職員との違いを区別しなければならない。

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