3.4 教員訓練の事例:埼玉県

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埼玉県の教員訓練(教員研修)

埼玉県法規集には、教員訓練(教育研修)に関する上位規則は存在しない。

埼玉県職員研修規程は、教員研修の教育課程を規定していない。

 階層別教育の根拠になる職務明細の細則は埼玉県法規集には見当たらない。

前に述べたように教育委員会の定例会議の議案には教員研修が載っていない。地方教育行政法を引き継ぐ上位規則の制定と実施総括報告書の承認をしていないと思われる。

埼玉県立総合教育センター条例

埼玉県立総合教育センター条例

(設置)第一条 教育の充実と振興を図るため、埼玉県立総合教育センター(以下「総合教育センター」という。)を行田市富士見町二丁目二十四番地に設置する。

(業務)第二条 総合教育センターは、次に掲げる業務を行う。

一 教育に関する専門的、技術的事項の調査研究に関すること。

二 教育関係職員の研修に関すること。

三 教育に関する研究の援助に関すること。

四 教育相談に関すること。

五 教育に関する資料の収集及び活用に関すること。

六 その他総合教育センターの設置の目的を達成するために必要な事業に関すること。

(職員)第三条 総合教育センターに、所長その他必要な職員を置く。

(支所)第四条 総合教育センターに支所を置く。

2 支所の名称及び位置は、次のとおりとする。

埼玉県立総合教育センター江南支所 熊谷市御正新田字向原千三百五十五番地一

教員研修は、県議会の議決に基づく条例で定めており、教育委員会に議決権がない。施設予算は議決が必要なのは分かるが、業務内容はそれとは区別して教育委員会規則にすべきである。

教育関係職員研修規則を制定せずに、教育センター条例(又は規則)を制定することは、多くの都道府県が行っている間違いである。「だれに実施させるか」を「何を実施するか」よりも先行させてはいけない。

研修担当は職員訓練部などの内部部局にすべきなのに、外部のセンターにすることも、多くの都道府県が行っている間違いである。人事部の介入が困難になる。教員教育課程の枠組は人事制度の職種・職級区分である。

センター条例の中にも、最も重要な教育課程が規定されていない。センターにまかされている。

総合教育センターのウエブサイトでは、教員研修課程の資料は、規準類の位置づけではなく、実施案内の位置づけになっている。規定と執行を区別できていない。法律とはるかに遠い資料である。

現状 本来の姿
教育委員会議 ノータッチ 教育委員会議 教員教育課程の定義
事務局   事務局教員人事部  
総合教育センター(外郭) 教員教育課程の定義 事務局教員訓練課 教員教育実施報告

 

埼玉県総合教育センターの主な教員研修課程の定義

小学校新任者研修         22日

小学校5年経験者研修        4日(1日を間隔を空けて4回)

小中高等学校10年経験者研修 11日

小中学校教務主任研修       3日(1日を間隔を空けて3回)

小中学校新任教頭研修       3日(1日を間隔を空けて3回)

小中学校長候補者研修       1日

小中学校新任校長研修       3日(1日を間隔を空けて3回)

年ごとなのに日数が短すぎる。こういうことを教育委員が議論すべきだ。

民間企業の教育日数の相場は、1年勤務日数220日に対して2〜3日間である。5年ごとに実施するなら10日間(2週間)〜15日間(3週間)である。

  間隔を空けて1日ずつ教育するのは、受講者にもセンター員にも労力対効果が極めて悪い。

教員数のゆとりを少人数教室実現だけに投入するのではなく、研修のゆとりへも回すべきだ。

教員研修課程の科目編成・科目内容:10年経験者研修の例

研修種別      予定期日  会場        研修形態

共通研修1     617日  鴻巣市文化センター  講演・講義

・・・

教科指導等研修1 722日  総合教育センター   講話・講義

・・・  

科目概要や到達目標などの教育課程・科目の定石的な記述がない。民間企業の方が整っている。

埼玉県総合教育センターの公立小・中学校等新任教頭研修会実施案内の実施案内

1 目的

 早急に教頭としての総合調整力を育てることを目的とします。

 外部講師等を積極的に活用し、学校評価、危機管理、外部機関との開発教育など多岐にわたり研修し、教頭として適切な学校運営ができるようにします。合わせて教員の授業力向上について、的確な指導を行う能力を養います。

2 期日及び会場等

(1)期日 第1日 5月19日(木) 第2日 8月24日(水) 第3日 12月 2日(金)

(2)会場 県立総合教育センター

3 研修内容

(1)一年間を通しての研修とし、学校での日々の実践を講話・講義・演習等と結びつけた研修により、教頭としての総合調整力を高めます。

(2)教頭としての強いリーダーシップが発揮できるように、講義「教育改革の動向と教頭の役割」、講義・演習「人事評価制度」を実施します。

(3)教員の授業力向上を図るため、講義「学校における学力向上」や、「授業力向上と評価」について小グループでの協議を実施します。

(4)民間人講師による講演「危機管理」を実施し、今日的課題に対する対応能力の向上を図ります。

5月に1回目の教育をして、総合調整力が早急に育つのか。新任時に教育することが早急という意味なのか。新任時に教育するのは当たり前のことである。

わずか3日間なのに多岐にわたり研修する必要があるのか。教頭の職務を教えることが先決である。

目的(科目概要?)や研修内容(到達目標?)などの書き方が、現代教育学の定石に沿っていない。

受講者の成績評価が大切であり、そのためには評価の基準となる到達目標が大切である。評価は本人だけでなく、教育課程の妥当性確認のために大切である。

今日的課題は年々変化するので、階層別教育には向かない。火災避難訓練のように毎年繰り返す、各学校での講習会が向いている。

教頭の職務明細にありそうな項目がほとんどない。「人事評価」がそれに近いが、人事管理全体ではなく人事評価だけ取り上げるのは、よくある間違いである。

「学校における学力向上」は生徒教育の話題であって、教職員教育の話題に含めるべきではない。成人である教職員の成績向上に集中すべきだ。

いわゆる「2:8教育」である。受講者が必要として期待する内容の8割をカバーしてくれない。また、せっかく提供している内容の8割は必要度の低いものである。

教員研修の批判

榊原禎宏、「教員研修において受講者の感情に働きかける試み」  

 これまでの教員研修が「つまらない」「役に立たない」としばしば受講者から批判されてきた背景には、この研修が児童・生徒に対する従来の授業と相似形であること、すなわち、知識を持つ者が持たないとされる者に伝達するという形式において、まったく共通している点が挙げられる。

 児童や生徒が教えられる事柄をまだ知らない、できない場合、かれらが教授される余地はまだ認められるだろう。ただしこの場合ですら、教えられる知識や技術に目新しさが乏しければ、多様な刺激に囲まれている児童・生徒が退屈することは十分にありえる。また、その内容がかれらにとって新味を欠いていたり、あるいは自分のこれからといかにつながっているのかわかりにくい場合、教育される内容に魅力を感じないのは当然かもしれない。

 このように類推すれば、教員研修が「つまらない」と捉えられがちな理由は明らかだろう。いまなお研修プログラムによっては、教職員にとってほぼ既知の事項を「べき論」(規範論)として強調しようとする場合がある。そこでは、内容に目新しさがなく、あるいは基調も説教や鼓舞にとどまるので、受講者にとっては研修に出席することじたいに意味を求めるほかない、という残念な結果となりがちだ。  

大筋では実態を正しく表していると思われる。教育学部以外の学部生が教員免許の条件として教育学部の教育原理や教師入門を習うと、授業評価で「つまらない」「役に立たない」と評価する例が見られる。他学部の基礎科目は「興味深い」「役に立つ」ので、それと比較してしまうのだ。

教育学部で既に教わったような内容を教えるのは新味に欠ける。学校現場の最高の内容を教えるべきだ。  

教頭が扱うのは人事管理全般である。それなのに人事評価だけを教わると「自分のこれからといかにつながっているのか」分かりにくい。「指導教員あるいは研修センターは現場を分かっていない」と感じるだろう。

危機管理を民間人講師から習うのはおかしい。「先任の教頭が学校の危機管理規則や危機管理マニュアルとして導入していないことを、なぜ新任の私が民間人から鼓舞されなければならないのか」と感じるだろう。先輩がやっていることを教えるべきだ。

参考資料:人事管理や職務分掌の細則がある事例

「広島県三次市立川西小学校職種別職務明細表」

第3条 教頭は,学校教育法第28条第4項に基づき,校長を補佐し,校務を整理し,必要に応じて児童の教育を司る。

校長に事故ある時はその職務を代理し,校長が欠けたる時はその職務を行う。

前2項の教頭の職務は,概ね次の通りである。

1)校長の方針に基づく教育目標の具現化,指導の重点具体策等の設定についての指導・助言及び適切な教育課程の編成・実施の推進をする。

2)校長の定める教育目標及び方針が学校運営に十分具現化するよう指導すること。

3)教育課程実施のために必要な計画改善の指導助言をすること。

4)教育目標具現化について適切に教育課程を管理すること。

5)諸計画が有効適切に行われるまでの過程及びその間の諸準備について指導助言すること。(中略)

22)事故・災害・火災・盗難・不審者等に関する対策を立案し,非常事態に対する適切な命令指示を行うこと。

23)市費関係等の財務の適正な管理及び執行を行うこと。

24)前各項の定めるものの他校長から命ぜられた職務を行うこと。

このようなことができるようにすることが教員訓練であるべきだ。大学院教授や外部民間人講師にまかせられることではない。経験のある教員を講師として人事異動すればよいのである。

このような職務明細表を定めつつ、それとは無関係な内容の教育をすると、責任ばかり重くて、それに必要な教育機会を提供されていないことになる。

経歴実績の承認

埼玉県教育委員会議が議案にしていないことの一つに、教員の経歴(キャリア)がある。「取締役会」としては、人事統計報告書を承認することが必要だ。報告書の中に、経歴の統計報告が含まれなければならない。年度ごとの人事評価データとは別に、ある職級や職位の通過年数を明らかにするのである。

ある職級や職位の通過年数は、典型的には4〜5年である。エリートは最短年数で通過させる。その逆に何年立っても同じ職級に滞留する教員もいる。後者は「教室の現場を大切にする教員を、一律に昇格させ管理職にさせるべきではない」という批判で単純に片づけられがちである。

問題はそう単純ではない。次の三つは区別して扱うべきである。

現場一筋を続けるのに向いた成績の教員。「ノンキャリア型」の教員。その種の人材に対しては、従来どおり号俸昇給によって報いる。

組織の管理をすることができる成績の教員。「キャリア型」の教員。やればできるのに、負担を嫌がって管理職昇格を望まない教員がいる。さまざまな形で必要性や本人の優秀性を伝えて管理職にさせる。

通過年数を上司が把握しないことにより、不当に昇級が遅れている教員。人事管理が人事評価に偏重して、通過年数を考慮していないことによって起きる。人事データベースを教育委員会が監督することが必要である。

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