■米国教育使節団及び現在の米国の教育統治機関
地方教育行政法(旧教育法)に大きな影響を与えた終戦直後の米国教育使節団の勧告書は、教育委員会等の職務を次のように区分していた。現在の米国の実態も大体その通りである。ただし教育委員会議に相当するものは単にボード(役員会)と読んでいる。
都道府県は政府側の経営機関 | 市区町村は学校側の管理機関 | |
上位会議 |
教育課程標準の規則制定 教育課程の実施報告承認 教員免許の規準制定 職員教育課程の規則制定 職員教育課程の実施報告承認 |
標準指導要領の規則制定 教材の選定の承認 成績報告書の承認
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下部機構 |
会議用の起案・報告書作成 日常業務 |
上位会議用の起案・報告書作成 日常業務 |
ところが日本では次のようにしてしまった。
旧教育委員会法は、都道府県も市区町村もほぼ同じ規定にしてしまった。 | |
県立高校と市立小・中学校に区分したことが、米国式の職務分担を困難にした。 | |
同じく会議部分の職務も下部機構の職務も区別せずに列挙してしまった。 | |
平成19年の改正はこれらの問題を是正しようとしたが、かえって複雑さを増した。 | |
平成19年の改正と、実際にやっていることが遊離しており、複雑さが増した。 | |
つまりボタンの掛け違いが継続していると言える。 |
前の節に続けて、埼玉県教育委員会の説明資料の解説をしよう。
「教育行政に関する計画」
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法律上の「計画の樹立」とは、主に下部組織の「上位規則の制定」を意味するが、ほとんどの人は誤解する。実施日程のことを計画だと思う人が多いだろう。 | |
ここに挙げたのは、それらとは別の中期計画である。これらは改善活動の作業定義書に過ぎない。法規には残らない一時的な資料である。 | |
改善計画が進むたびに、教育委員会議は該当する規則や規程を改正すべきである。 | |
この中期計画が法規上の計画だと誤解している人も多い。 |
「埼玉県小学校教育課程編成要領」 〜学識経験者や保護者、市町村教育委員会関係者、幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の園長、校長、教諭からなる埼玉県幼稚園、小・中学校教育課程検討委員会(以下「検討委員会」という。)を設置し、本県独自に作成してきた埼玉県教育課程編成要領を改訂すべく、その基本方針や基本的な事項等について検討いただき、報告をいただきました。これを受け、県教育委員会は、市町村教育委員会関係者や幼稚園及び小・中学校の園長、校長、教頭、教諭等を主たる構成員とする埼玉県教育課程編成要領改訂協力委員会議〜改訂いたしました。 |
要領は細則レベルなので、規則・規程のように着実に継承・改定される保証がない。 | |
教育行政の責任は、教育課程の編成作業の要領を執筆することではない。編成作業を遂行して、教育課程標準の改定版を出すことだ。 | |
この要領は、教育の専門家ではない教育委員会会議ではなく、教育の専門家による臨時委員会が改訂している。教育委員会議の職務侵害と言えばきついが、要するに指揮系統が二重化している。 | |
この要領は、教育課程標準という上位規則ではなく、要領という細則レベルである。公開するほどの情報ではない。 | |
教育課程編成の作業要領の存在価値はあるが、それは教育庁職員のマニュアルとしてであり、それなら職員研修の科目の教材にすべきである。配るだけでは形骸化する恐れがある。資料の乱立は避けるべきだ。 | |
教育課程編成要領としては、教育目標や科目概要などの現代教育学の定石を反映していない。 | |
指導要領に言及している。教育課程と指導要領の区別ができていない。 | |
この要領の主なノウハウは、科目に依存しない共通的な教育分析(instructional analysis)技法に類するものであり、教育課程標準と一緒にするのは妥当ではない。 |
■「埼玉県小学校教育課程指導資料」
これは資料なので細則よりも下であり、着実に継承・改正される保証がない。 | |
指導要領の扱いは、市区町村の教育委員会へまかせるべきだ。 | |
教育行政の責任は、指導要領の作成作業の指針を執筆することではない。作成作業を遂行して、標準指導要領や指導要領事例集の改定版を発行することである。 | |
この指導資料は存在価値はあるが、それは教員や教育庁職員のマニュアルとしてであり、それなら教職員の科目の教材にすべきである。 | |
教育課程指導資料としては、現代教育学の定石を反映していない。 | |
教育課程(科目編成)と科目指導要領の区別ができていない。 | |
科目の到達目標を指導要領で規定しているが、教育課程規準で規定すべきだ。 |