都道府県教育委員会の事例として、埼玉県を取り上げて、そこが発行している説明資料を解説する。どの都道府県も似た面があるが、埼玉県は東京都ほどではないが人口が多く、政令指定都市も含むという典型的な性質を持つからである。また、地方教育行政法の関連条文を適宜眺めてみる。
「埼玉県教育委員会の仕組み」@ 教育委員会は、都道府県及び市町村(特別区を含む。)等に置かれる合議制の執行機関である行政委員会です。 |
広義の教育委員会(県教育庁)は行政部門なので執行機関である。 | |
狭義の教育委員会(県教育委員会議)は会社の取締役会兼執行役員会に相当する。 |
「埼玉県教育委員会の委員」 |
教室教員、学校管理職、役人等の教育統治の経験よりも、一般的な肩書を重視する。 | |
「議会の同意を得て」は適切とはいえない。県知事が議案提出権を持ち、県議会が議決権を持つ、という非対称の関係である。どちらかと言えば県知事が強い。 |
地方教育行政法 (事務の委任等)第26条 教育委員会は、教育委員会規則で定めるところにより、その権限に属する事務の一部を教育長に委任し、又は教育長をして臨時に代理させることができる。 2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる事務は、教育長に委任することができない。(注:平成19年追加) 1.教育に関する事務の管理及び執行の基本的な方針に関すること。 2.教育委員会規則その他教育委員会の定める規程の制定又は改廃に関すること。 3.教育委員会の所管に属する学校その他の教育機関の設置及び廃止に関すること。 4.教育委員会及び教育委員会の所管に属する学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関すること。 5.次条の規定による点検及び評価に関すること。 6.第29条に規定する意見の申出に関すること。 |
平成19年改正の教育基本法改正の影響である。基本的な方針は理解困難である。 |
地方教育行政法 (教育長の職務)第17条 教育長は、教育委員会の指揮監督の下に、教育委員会の権限に属するすべての事務をつかさどる。 |
「埼玉県教育委員会の仕組み」A そして、委員の合議により大所高所から基本的方針を決定し、具体的な事務の処理については、教育行政の専門家である教育長が、事務局を指揮監督して執行する仕組みとなっています。 |
基本的方針は教育委員会議が留保しているが、法律用語としては意味不明である。計画(上位規則)の意味を知らずに、それと同じ別の用語を用いたのか? | |
埼玉県教育委員会議は指揮監督をしなくてもよいのか? |
「埼玉県教育委員会の職務」 教育委員会は、次のような教育に関する事務の管理、執行を行います。 (1)学校の設置・管理 (2)教職員の人事及び研修 (3)児童・生徒の就学及び学校の組織編成 (4)校舎等の施設、設備の整備 (5)給食、保健に関すること (6)社会教育 (7)スポーツの振興 (8)文化財の保護 |
「人事及び研修」と括ってしまったので、教員免許や研修の話題の独立性が弱くなった。人事と研修とは別の項目にすべきである。 | |
事務局の仕事を含めているので、教育委員会議の責務がはっきりしない。 |
「埼玉県教育委員会の会議」 埼玉県教育委員会は、月2回の定例会と、臨時会が行われています。会議は原則公開で開催しています。 |
教育長以外の教育委員は月2日間だけのパートタイマなので、多くの規則・標準を決裁するのは困難である。 |
埼玉県教育委員会会議の議案(毎月2回、平成22年度の例)は次のとおりである
議案 | 地方教育行政法の履行状況 |
5件 組織・重点施策などの基本規則 2件 学校の名称変更や新設 3件 教科用図書の採択 20件 就業・給与・昇格・被服等の規則 3件 服務規程 10件 各種委員会・審議会委員の任免 10件 人事異動 31件 懲戒処分等 18件 県議会定例会提出予定案件 3件 公文書不開示決定 2件 表彰 2件 文化財 |
学校の設置、管理及び廃止○
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教育長へ委任できないはずの、組織編成、教育課程、学習指導等を議案にしていない。 | |
教育長へ委任できない教育関係職員の研修を議案にしていない。 | |
教育課程標準、教育関係職員研修に相当する規則は、見当たらない。 | |
教育課程や教育関係職員の実施結果の報告とその承認を議案にしていない。 | |
教育委員会議は主な規則や実施報告書という説明性(accountability)を持っていない。 | |
議案の半分は教育長へ委任してもよさそうなものと思える。 | |
最も多い議案は懲戒処分である。教育委員会議よりも法務担当課の意見が大切だと思う。 | |
教育課程、学習指導、生徒成績などの教育の中核を重視する方が、教員のやる気が増して、懲戒事案が減ることが期待できる。取締を強化すればよいというものではない。 |