臨時に作文したと思われる教育委員会法に代えて、昭和31年に、新たな「地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地方教育行政法)」が制定された。
地方教育行政法 (この法律の趣旨)第一条 この法律は、教育委員会の設置、学校その他の教育機関の職員の身分取扱その他地方公共団体における教育行政の組織及び運営の基本を定めることを目的とする。 |
旧法の「目的」を「趣旨」に変えたのは現代的だが、「この法律の」は不要である。 | |
旧法ほどではないが、「定めることを目的とする」というのは法律文章としておかしい。趣旨(内容概要)という日本語を、理由の意味に誤解しているのでないか。 | |
旧法と異なり、第1条では内容を分解しようとしているが、会社法と比べると文の中の語句のピラミッド構造が洗練されていない。 |
(設置)
第二条 都道府県、市(特別区を含む。以下同じ。)町村及び第二十三条に規定する事務の全部又は一部を処理する地方公共団体の組合に教育委員会を置く。 |
米国教育使節団の勧告とは異なり、旧法と同じく教育委員会を市町村にも置くことと定めている。 | |
事務という用語と、全部又は一部という表現は、読者をますます混乱させる。 |
(任命)
第四条 委員は、当該地方公共団体の長の被選挙権を有する者で、人格が高潔で、教育、学術及び文化(以下単に「教育」という。)に関し識見を有するもののうちから、地方公共団体の長が、議会の同意を得て、任命する。 |
旧法や米国の勧告では、住民投票であったものがそうでなくなった。 | |
長が提案し、議会が議決し、長が任命するのだが、同意というのは用語らしくない。 | |
米国の勧告や米国の現在とは異なり、教室教員や行政官の経験がなくてもよいことになっている。 | |
米国の勧告や米国の現在とは異なり、都道府県と市区町村との人材条件の区別がない。 |
(任命)第4条 3 委員の任命については、〜委員のうちに保護者である者が含まれるようにしなければならない。 |
旧法になかった条項が追加された。 | |
米国では教育委員会は住民に奉仕する経営者側であり、保護者に責任を持たせる発想はない。 | |
保護者全体からニーズ分析のできる教育分析専門家が必要であると私は思う。 |
(委員長)第12条 教育委員会は、委員のうちから、委員長を選挙しなければならない。 3 委員長は、教育委員会の会議を主宰し、教育委員会を代表する。 (教育長の職務)第17条 教育長は、教育委員会の指揮監督の下に、教育委員会の権限に属するすべての事務をつかさどる。 (事務局)第18条 教育委員会の権限に属する事務を処理させるため、教育委員会に事務局を置く。 |
旧法に比べて、教育長は教育委員長の指揮下であることが明確になったが、すべての職務をつかさどることも明確になった。米国とは異なり、指揮のやりにくいツートップ制の制度である。 | |
この条文によって教育委員会は会議の部分だけという狭い意味になってしまった。会社法の取締役会の意味と異なる。 | |
「事務をつかさどる」「事務を処理する」という表現のために、事務は規準策定ではなくて業務という意味が強くなった。それなら業務という用語を使えばよかった。 |
(教育委員会の職務権限)第23条 教育委員会は、当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で、次に掲げるものを管理し、及び執行する。 1.学校その他の教育機関の設置、管理及び廃止に関すること。 2.学校その他の教育機関の用に供する財産の管理に関すること。 3.教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関すること。 4.学齢生徒及び学齢児童の就学並びに生徒、児童及び幼児の入学、転学及び退学に関すること。 5.学校の組織編制、教育課程、学習指導、生徒指導及び職業指導に関すること。 6.教科書その他の教材の取扱いに関すること。 7.校舎その他の施設及び教具その他の設備の整備に関すること。 8.校長、教員その他の教育関係職員の研修に関すること。 9.校長、教員その他の教育関係職員並びに生徒、児童及び幼児の保健、安全、厚生及び福利に関すること。 10.学校その他の教育機関の環境衛生に関すること。 11.学校給食に関すること。 12.青少年教育、女性教育及び公民館の事業その他社会教育に関すること。 13.スポーツに関すること。 14.文化財の保護に関すること。 15.ユネスコ活動に関すること。 16.教育に関する法人に関すること。 17.教育に係る調査及び基幹統計その他の統計に関すること。 18.所掌事務に係る広報及び所掌事務に係る教育行政に関する相談に関すること。 19.前各号に掲げるもののほか、当該地方公共団体の区域内における教育に関する事務に関すること。 |
旧法では「事務を行う」だったものが、新法では「事務を管理し、及び執行する」となった。旧法の第4条から移したのだろう。事務とは何を意味するのか、ますます意味が分からなくなった。 | |
日本には教育事務所というものがあるが、法律上の定義はなく、県教育庁の出先機関である。教育事務所は都道府県側の出先機関であるのに対して、米国の地区教育局や学校群長は学校側の取りまとめ管理部門なので、むしろ正反対のものといえる。ただこの対比はそれほど取り上げるほどのことではない。ほかにもっと差異があるからだ。 |