2.5 終戦直後の日本の教育統治

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 終戦直後の昭和23年に制定された「教育委員会法」を眺めてみよう。

教育委員会法

(この法律の目的)第1条 この法律は、教育が不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきであるという自覚のもとに、公正な民意により、地方の実情に即した教育行政を行うために、教育委員会を設け、教育本来の目的を達成することを目的とする。

会社法のような会社活動の定義ではない。法律制定の経緯の説明になっている。

「〜べきであるという自覚のもとに、〜ために、〜目的を達成する〜目的とする。」と目的の積み重ねである。あわてて作文して、あまり推敲しなかったのだろうか。

長続きする法律としての表現ではないので、臨時の法律という意識があったのだろう。

第1条の詳しさが法律名と大差がなく、法律の内容概要・守備範囲が不明である。

(権限)第4条 教育委員会は、従来都道府県若しくは都道府県知事又は市町村若しくは市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)の権限に属する教育、学術及び文化(教育という。以下同じ。)に関する事務、並びに将来法律又は政令により当該地方公共団体及び教育委員会の権限に属すべき教育事務を管理し、及び執行する。

事務という用語が役所関連法らしくない。管理という用語を用いるのも法文らしくない。

ここでは教育委員会を組織全体の意味で用いているが、後の条文ではそうではない。

(教育委員会の所管)第48条 都道府県委員会は、都道府県の設置する学校その他の教育機関を、地方委員会は、当該地方公共団体の設置する学校その他の教育機関をそれぞれ所管する。

2階層の教育委員会の分担は、県立学校と市立学校などになった。米国と異なる。

米国の勧告とは異なり、市町村レベルにも教育委員会を設置することになった。

(委員)第7条 都道府県委員会は7人の委員で、地方委員会は5人の委員で、これを組織する。

2 第3項に規定する委員を除く委員は、日本国民たる地方公共団体の住民が、公職選挙法(昭和25年法律第100号)の定めるところにより、これを選挙する。

3 委員のうち1人は、当該地方公共団体の議会の議員のうちから、議会において、これを選挙する。

市町村の教育委員会も含めて、住民投票によって選挙することを定めている。

委員の一人に議会議員を含めるという点は、米国報告書は勧告していない。

(委員長及び副委員長)第33条 教育委員会は、委員のうちから、委員長及び副委員長各一人を選挙しなければならない。

2 委員長及び副委員長の任期は、1年とする。但し、再選されることができる。

3 委員長は、教育委員会の会議を主宰する。

4 副委員長は、委員長を助け、委員長に事故があるとき又は委員長が欠けたときは、その職務を行う。

(教育長)第41条 教育委員会に、教育長を置く。

2 教育長は、教育委員会が、これを任命する。

3 教育長の任期は、4年とする。但し、再任することができる。

委員長の任期は1年なので、回り持ちということになり、経験を翌年に活かすことがしずらい。

肩書として上の委員長と、全責任を持つ教育長というツートップ体制である。

教育行政の日米比較では在日米国大使館などの和訳に合わせて、「教育長」という用語を教育組織のトップという意味で使っている場合があるので、注意が必要である。(参考文献「近年のアメリカにおける都市教育委員会・教育長制度の傾向」(西東克介、弘前学院大学))

(事務局)第43条 教育委員会の職務権限に属する事項に関する事務を処理させるため、教育委員会に事務局を置く。

(事務局の部課)第44条 都道府県委員会の事務局には、教育委員会規則の定めるところにより、必要な部課(土木建築に関する部課を除く。)を置く。但し、教育の調査及び統計に関する部課並びに教育指導に関する部課は、これを置かなければならない。

2 地方委員会の事務局には、教育委員会規則の定めるところにより、必要な部課を置くことができる。

現在の教育委員会の組織図では、教育庁・教育局の外部に教育委員会を描いているものがある。しかし、教育委員会法では、委員会がすべての代表であり、部局は教育委員会の内部部門である。

第4条と異なり、この条文では、教育委員会は組織の一部である。これは混乱を招く。

(教育委員会の事務)第49条 教育委員会は、第4条に定める権限を行使するために、左に掲げる事務を行う。(注:「左」とは縦書き場合)

1.学校その他の教育機関の設置、管理及び廃止に関すること。

2.学校その他の教育機関の用に供し、又は用に供するものと決定した財産(教育財産という。以下同じ。)の取得、管理及び処分に関すること。

3.教科内容及びその取扱に関すること。

4.教科用図書の採択に関すること。

5.教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関すること。

6.学校その他の教育機関の敷地の設定及び変更並びに校舎その他建物の営繕、保全の計画及びその実施に関すること。

7.教具その他の設備の整備に関すること。

8.教育委員会規則の制定又は改廃に関すること。

9.教育委員会の所掌に係る歳入歳出予算に関すること。

10.教育目的のための基本財産及び積立金の管理に関すること。

11.教育事務のための契約に関すること。

12.社会教育に関すること。

13.校長、教員その他教育職員の研修に関すること。

14.校長、教員その他の教育職員並びに生徒、児童及び幼児の保健、福利及び厚生に関すること。

15.学校の保健計画の企画及び実施に関すること。

16.学校環境の衛生管理に関すること。

17.証書及び公文書類を保管すること。

18.教育の調査及び統計に関すること。

19.ユネスコ活動に関する法律(昭和27年法律第207号)に規定するユネスコ活動に関すること。

20.その他その所轄地域の教育事務に関すること。 第50条 教育委員会の権限に属する事務のうち、左に掲げるものは、都道府県委員会のみが、これを行う。

1.教育職員免許法(昭和24年法律第147号)の定めるところに従い、国立又は公立の学校の教員の免許状に関すること。

2.削除

3.地方委員会に対し、技術的、専門的な助言と指導を与えること。

4.高等学校の通学区域の設定又は変更に関すること。

5.都道府県内の学校の学校給食に関する企画並びに学校給食のための配給物資の管理及び利用に関すること。

6.文化財保護法(昭和25年法律第214号)及び重要美術品等の保存に関する法律(昭和8年法律第43号)の施行に関すること。

7.教育に関する法人(私立学校を設置する法人及び宗教法人を除く。)に関すること。

「左(縦書きの場合)に掲げる事務を行う」というのは、当たらずといえども遠からず、である。規準策定のニュアンスが強いからである。正確には策定ではなく決定であるから事務とは言えない。

米国教育使節団が重視している基準の責務が全面に出ていない。

項目が多すぎる。米国教育使節団の勧告並みでよいはずである。項目が多くなった理由の一つは、米国とは異なり、都道府県の教育委員会と市区町村の教育委員会を一緒に規定したので、両者の分担ができていないからである。

多くなった理由のもう一つは、内規で定めるべき詳細まで、法律で定めてしまったからである。これも法規作成技法として洗練不足である。

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