2.2.1 教育委員会とは教育の定義をする所:オックスフォード大学の事例
教育活動を経営することの参考のために、英国オックスフォード大学の学内の教育委員会(Education Committee)の説明文を紹介する。
The Education Committee has overall
responsibility for the definition and ongoing review of the educational
philosophy, policy and standards of the collegiate University in respect
of teaching, learning and assessment. Chaired by the Pro-Vice-Chancellor (Education), the Committee contributes to policy development and guidance,
considers proposed amendments to programmes and examination regulations,
and deals with individual dispensations. オックスフォード大学教育委員会は、指導、学習及び成績査定の観点で、このカレッジ集合型大学の、教育の理論、方式及び基準を定義することと、執行中の見直しをすることの全体の責務を持っています。委員会は、教育担当副総長に主宰されつつ教育計画及び試験規程への改定提案を考慮し、及び個人的特殊事情を踏まえつつ、方式の策定及び手引に貢献します。 |
オックスフォード大学の教育委員会の責務は、大学の教育とは何かを定義することである。執行の見直しは、執行してみて定義の妥当性を確認することであって、執行を管理する意味ではない。教育委員会の具体的な作業は、定義の制定・改定である。また、執行に対して助ける支援作業であって、執行を管理する作業ではない。自身が定義を制定・改定することに集中して、定義を仲介役にして配下を間接的に統治するのである。
定義担当 |
執行担当 |
◆総長 |
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◆ xx 担当副総長と xx 委員会 |
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◆ 教育担当副総長と教育委員会 |
Aカレッジ |
・・・ |
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Zカレッジ |
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◆ yy 担当副総長と yy 委員会 |
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教育計画(programmes)とは、定義担当のレベルでは教育規則のことであり、規則の内容は課程(curriculum)のことである。課程とは学部編成とそれぞれの学部の主な科目編成のことである。 | |
教育という話題の代表は科目と成績である。それが教育統治の話題として、この教育委員会の短い説明に取り上げられている。これがないと教育経営なのか製造業経営なのか区別がつかないことになる。 |
2.2.2 日本の教育委員会の創始:終戦直後の米国教育使節団の報告書・勧告
日本やドイツは、1945年に独立国家でなくなり、連合国軍総司令部GHQに統治された。再独立を許される条件を整えるために、憲法や教育基本法を始めとする法令が改正され、地方自治に関してもさまざまな勧告を受けた。独立を失うこととは、そういうことなのである。日本は1952年に独立国家に復帰した。
ドイツや日本へ米国教育使節団が訪問して調査し、勧告を記載した報告書を提出した。その中に地方自治体への教育委員会の設置があった。米国教育使節団報告書は、情報学分野で有名な村井純先生の父親の村井実先生が正確に和訳に心がけた本が、講談社学術文庫から出版されている。
結論先行のパラグラフライティングがなされている。英語の原文も和訳ももちろんそうである。したがって、文法とは関係ない普遍的な言語技術が存在するのだ。 | |
皮肉なことに、国語教育の話題は、国語のローマ字化の話題に変わってしまった。 | |
英語の原典は明星大学の出版物に含まれており、国会図書館などで閲覧できる。 |
アメリカ教育使節団報告書 |
同左の英語原著 |
この報告書の第4章に、国、都道府県、及び市町村の教育統治についての勧告がある。村井実先生が注意深く和訳したとはいえ、米国の概念と日本の概念は一対一に対応するとは限らないので、言葉の正確な解釈が難しい。更に教育学及び統治学の専門用語を、正確に理解できる人が、日本にどれだけいるだろうか。
都道府県と市町村の教育行政の違いは、概観すると次のように勧告している。
都道府県 | 市町村 |
住民が投票・選挙した人による教育委員会 |
議会が可決した人による教育機関 |
リーダは教育分野の訓練及び経験のある人 |
長は専門的な資格を持つ教育者 |
基準等の定義にのみ責務を負う |
執行管理を受け持ち、上位から管理されない |
科目編成より抽象的な規準に責任を持つ |
科目編成以下に責任を持つ |
会社の取締役会に相当する |
会社の執行役員たちに相当する |
定義担当 | 執行管理担当 |
都道府県教育委員会 | 市町村教育委員会 |
都道府県レベルの教育組織についての勧告は次のとおりであった。
■都道府県レベルでの権限 公立の初等および中等教育の行政責任(responsibility
for the administration)は、府県ならびに地方的下部行政区画(市町村)が負うべきものである。 各都道府県には、政治的に独立の、一般投票による選挙で選ばれた代表市民によって構成される教育委員会(educational
committee)、あるいは機関(agency)が設置されることを勧告する。この機関は、法令(statute)に従い、都道府県内の公立学校の一般的管理(general
charge)にあたるべきである。この都道府県の機関は、その都道府県内の教育指導者(educational
leader)を任命すべきである。その指導者は、教育分野における訓練と経験をつんでいる者でなければならない(His
training and experience should be in the field of education)。彼が担う権限(powers)と義務(duties)としては、以下にあげる事項を提議する。 一、その都道府県の公立学校に関する最低規準(minimum
standards)の制定および維持。 二、客観的規準に基づく教員資格の検定(certification
of teachers)。 三、地方の学校当局(local
school authorities)が推薦(recommended)する教科書の認可(approval)(教科書の選定(selection)にあたっては、教師が大方の責任をもたされるべきである)。 四、教師の現職訓練(in-service
training)の準備(provision)、及び、教授技術改善のための専門的集会の開催。 五、文部省が制定した規準(standards)に従って、初等ならびに中等レベルの学校ないしその他の教育機関(educational
institution)を認定(recognition)あるいは認可(approval)すること。 |
教育委員会の仕事の一部を、選挙で選ばれない生え抜き職員などが分担するのは、作業を分解して、日常業務の部分をさせるのであり、教育委員会の定義には矛盾しない。 | |
指導者は教育分野の専門家に限定されることが、特に英語の原文では明確である。 | |
箇条書きされた権限・義務一覧は、指導者のものであるから、指導者はすべての責務を負う。部分的な助言委員会(advisory committee)とは異なる。 | |
最低基準を制定するのであるから、それ以外のことは市町村レベルの教育機関や学校が決めるのにまかせなければならない。 | |
教員資格検定の客観的基準をだれが制定するのかは、勧告からは読み取れない。 |
市町村レベルの教育組織についての勧告は次のとおりであった。
■市町村レベルでの権限 もし学校が強力な民主主義の効果的な道具になるべきものだとすれば、学校は住民と密接な関係をもたなくてはならない。教師、校長(school
principals)、および学校組織の地方責任者(local
heads of school systems)は、より上位の学校関係官吏(higher
ranking school officials)によって管理(domination)ないしは支配(control)されないことが重要である。また、あらゆる段階での学校行政(school
administration)に直接にあたる教育者は、彼らが奉仕すべき地区住民に対して責任を負うと見なされることが重要である。 われわれは、各都市、その他都道府県の下部行政区画(prefectural
subdivision)においては、地区住民によって選ばれた一般人による教育機関(lay
educational agency)が設立されるべきであり、この機関は、法令に基づいて、その地方のすべての公立初等・中等学校の行政管理(in
charge of)にあたるべきである、と勧告する。この機関は、専門的な資格をもつ教育者を、都市または都道府県下部行政区画の教育組織の長として任命することとする。 地方学校組織の長たる者の責務として、われわれは以下の事項を提議する。 一、一般人によって構成される教育機関において、上級行政官(executive
officer)としての機能を果たすこと。 二、法律(law)に従い、地方教育機関によって採択された一般政策(general
policies)に基づいて、その町の教育計画(educational
program)を管理(administration)すること。 三、彼の監督(supervision)下の学校に教師が任命される際には、その教師を地方教育機関に推薦すること。 四、学校での教授(instruction)を監督(supervision)し、教科課程(courses
of study))の改善や教材(teaching
materials)の選定(selection)に関して、学校長や教師に援助(aid)を与えること。 五、その地域(area)における教育要求(education
needs)の調査(survey)。校舎建設にあたり適当な場所を決定したり、その建築状況を監督したりすること。 六、子供たちの福祉を増進し、教育計画(educational program)を改善するために、親と教師の団体(organization of parents and teachers)を助成すること。 |
市町村レベルに教育委員会を設置することは勧告していない。 | |
教育機関の構成員の選び方は投票でなくてよいと勧告している。例えば、市長が候補者を推薦する議案を提出して、議会で可決されればよい。 | |
一般人による教育機関とは、任期付き人材を意味するのであって、素人を意味するのではない。 | |
教育組織の長に必要な専門的な資格とは、学校管理職などのイメージであろう。 | |
一般政策とは、学区内の全学校に当てはまる最低規程というような意味であろう。 | |
本文では法令に従いとあるが、箇条書き(二)では法律だけに従うと書いてある。したがって、教育計画は地方教育機関の権限で採択できると読める。 | |
教育計画(educational program)はイメージしにくい用語だが、法律用語なら市町村が決めるべき上位規則のことである。規則の内容は主な科目編成(core curriculum)だろうと思う。将来何をしようかという活動改善計画などをイメージすべきではない。 | |
教科課程とは、科目編成よりも細かな、いわゆる教科・科目のことである。 |