■経営理念
経営理念とは企業の目的及び事業範囲の定義と市場の利害関係者への約束事である.これを読んだ人はその企業の概要を理解するとともに,気に入れば取引を試みることになる.
経営理念の条項には労働市場の利害関係者である労働者への約束事を含める.経営理念の手本と言えるジョンソン・エンド・ジョンソン社の「我が信条」の中から、労働者に関する条項を紹介する.英語の原文に私の和訳を添える。
We are responsible to our employees, the men and women who work with us throughout the world.(我々の第二の責任は全従業員−−世界中で我々と共に働く男性も女性も−−に対するものである.) | |
Everyone must be considered as an individual. We must respect their dignity and recognize their merit.(だれでも個人として尊重されなければならない.我々は従業員の尊厳に敬意を表し,価値を認めなければならない.) | |
They must have a sense of security in their jobs.(従業員が職業の安定感を持つようでなければならない.) | |
Compensation must be fair and adequate, and working conditions clean, orderly and safe.(待遇は公正かつ適切でなければならず,働く環境は清潔で,整理整頓され,かつ安全でなければならない.) | |
We must be mindful of ways to help our employees fulfill their family responsibilities.(我々は従業員がその家族に対する責任を十分果たすことができるよう配慮しなければならない.) | |
Employees must feel free to make suggestions and complaints.(従業員の提案,苦情が自由にできる雰囲気でなければならない.) | |
There must be equal opportunity for employment, development and advancement for those qualified.(資格に応じて雇用,育成,及び昇進の平等な機会が与えられなければならない.) | |
We must provide competent management, and their actions must be just and ethical.(我々は有能な管理者を提供しなければならず,そしてその行動は公正かつ倫理的でなければならない.) |
■教育の多様性と公平・公正
日本国憲法第26条「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」
国会図書館にある「アメリカ教育使節団報告書(英語)」を参考にすると、能力に相当する単語にはしばしば複数形が用いられているので、「〜複数の能力種類に応じて、〜」と解釈するとよいだろう。
能力種類別教育の均等提供
工員、設計者、販売員、調理師、給仕などの多様な能力種類のそれぞれに教育課目を提供する。会社の教育規則にはすべての資格(職種・職位)に対応する課目の体系を定義しなければならない。前述の「我が信条」と関係する。教育工学による分析なしに、ある職種・職位の課目の提供をしないと不平等が発生し、その職種・職位がその会社の競争力の弱点になる。ここでは能力という言葉は複数形の能力種類という意味であり、成績という意味ではない。なお、種類を定める分類作業は意思決定活動なので、何を持って妥当な分類体系とするかは議論の対象になる。
資格による受講制限
ある資格(職種・職位)の課目はそれ以外の資格の従業員が受講する権利はない。例えば、管理職課目を平社員が受講できないのは当たり前である。
公正な人事資格
資格の決定は説明責任を果たせる公正な人事制度に集中させること。公正とは公平・均等と違って試験成績などを用いてよいことを意味する。例えば、学校の入学試験は教育とは完全に分離された制度である。会社もそのようにすべきである。
選抜教育の禁止
人事制度以外の教育制度の側で選抜教育をしてはならない。同じ資格の中ではすべての人が受講の権利を持つ。
性別教育の禁止
資格以外の性別などの特性別の教育をしてはならない。女性という資格は存在しない。ただし、生理学や服飾学などの公的な学問上の根拠があれば別である。女性活性化課目も差別を容認する雰囲気を広めるので開催してはいけない。もしも女性差別が存在するなら差別撤廃を男女全員へ教育するのが正統的である。
性格別教育の禁止
几帳面とかおおらかなどの性格と教育方法とに相関があるとしても、受講者の性格の決定の誤差や性格と教育方法との対応の例外をゼロにできない。誤差や例外に当たった人には教育機会の喪失になってしまうので、性格別教育は公的な教育ではいけないというのが教育学の結論である。血液型と性格とに相関があるものの例外があるというのはだれでも実感するだろう。行動の差異に対して、指導方法を変えるのは構わない。
まとめ
能力に応じる教育の機会均等とは主に次の二つの意味を併せ持ったものと解釈される。
(1)教育の観点: 能力の妥当な分類体系のどの種類にも公平に教育機会が提供される。
(2)人事の観点: 教育を受ける条件は、公正に認定された人事資格以外であってはならない。
■職務を分析する(ID6)
改善が必要な主題を取材して文書に書き出す。主題は職務である。この段階では教育が最適解とは限らない。この職務分析は運用(生産、市場活動)や人事と共通の作業である。作業分解構造、各作業項目の定義、工程標準、手順を文書にするか入手する。各作業項目には目標及び必要な能力及び道具を添える。職務でない主題は項目を洗い出して適当に分類する。
職務と責任
職務(job)とは、一人分の作業の集合である。多様な職務を類似性に着目して分類した場合の一人分を職種と言う。
職責(responsibility)とは、ある職務へ特定の職員が配置された時に生じる、その職員の職務である。職責は職務と職員との対が決まった時に開始される概念であり、同時にその職員にはその職務を遂行する権限も開始される。特定の職員の作業を述べる時には「私の職務は〜」ではなく「私の職責は〜」と表現する。
責任とは、職務より小さな任務の単位についての職責の類似語である。職責は次の人事異動の時まで終了しないので、任務について「責任を果たす」と表現することが多い。
職務X | 任務x1 | 職員Aの職責の遂行 | 職員Aの責任a1の遂行 |
任務x2 | 職員Aの責任a2の遂行 | ||
職務Y | 任務y1 | 職員Bの職責の遂行 | 職員Bの責任b1の遂行 |
任務y2 | 職員Bの責任b2の遂行 |
同じ職務でも配置される職員ごとに少し異なることが多い。その一つ一つを職務事例(job scenario)と言う。我が国の採用情報は職務の記述で済まされることが多いが、米国の採用情報には職務事例が記述される傾向がある。
責務とは職務とか任務などの作業階層を特定しない、職責の一般的な言葉である。
責務は上司から部下へ委譲することができる。実施責務を部下へ委譲しても指揮責務と指揮権限は最高責任者が保持する。中間管理職は実施責務を持つ部下を眼と耳とで監視して指導する監督責務を持つことが多い。責務の委譲・指揮・監督は、法律・内規・通達・口頭司令、承認、決済、報告受領などの具体的な形を取る。問題を起こした場合には、それらの形式・履行・内容を反省が改善策につながる。説明可能(accountable)でない観念論の責任は公式には通用しない。職責の意味の定義から分かるように、職責とは職務であり労働でなければならない。
我が国で俗に言われている責任は、責務の遂行、委譲、指揮、監督などに必要な能力のうち、態度の部分だけを指していることが多い。
学習領域と能力種類
学習領域は次のように分類される(ガニエの分類)。
知識 | 知的技能 | 試験方法は筆記試験 |
言語情報 | 試験方法は口述試験、筆記試験 | |
認知的方略 | 試験方法は演習 | |
身体技能 | 試験方法は動作演習 | |
態度 | 試験方法は動作演習、面接 |
分類に対して水準の高低を加えたものを次に示す。これはブルーム及び米国軍の分類を元にして、少し変更を加えたものである。
知識 | 身体技能 | 態度 | ||
意味 | 頭脳を働かせる | 身体を働かせる | 心を決める | |
代表的な動詞 | 記述する | 実行する | 選択する | |
水準1 | −− | 認知的方略 | 感知 | −− |
水準2 | 事項 | 粗大筋肉 | 受容 | |
水準3 | 規則 | 継続 | 応答 | |
水準4 | 手順 | 準備 | −− | |
水準5 | 弁別 | 機構 | 価値判断 | |
水準6 | 解決 | 適応 | 競合 | |
水準7 | −− | 創始 | 革新 |
詳しい定義は省略するが、この分類表の性質を解説する。
階層: 例えば、野球の学習は、ストレート、カーブ、シュートなどの身体技能をまとめて投球と言い、更に投球、打撃、守備などをまとめて野球技能と言う。野球規則の知識や集中力などの態度も含まれる。 | |
中間の単位: 野球の例では、カーブのような細部の項目から、身体技能という大分類まで、分類には階層がある。身近な中間の階層には、科目や学科や学部などの単位がある。 | |
混合: 科目などの学習単位には、知識、身体技能、態度という異なる分野の項目を混合させることが多い。例えば、国語科目には話すために唇を動かす身体技能を混合させるし、野球の投球にはストライクゾーンという知識や「四球になる危険性があっても、一球捨て球を投げる」という態度を混合させる。 | |
分散: 分野を混合する教育と同時に分野を分散させる教育も活用する。知識も身体技能も態度も、特定の一つの科目にまかせるだけでなく、ほかの科目や課外活動でも教育するのが普通である。 | |
水準: 「詰め込み教育か創造性教育か」などという二者択一の教育論争を減らすのが水準である。知識教育には、事項の詰め込み教育から創造的な解決能力の教育まであってもよい。身体技能の教育には、感知という受け身の教育から新しい技の創始の教育まであってもよい。道徳教育には服従する教育から異なる主義を競争させる教育まであってもよい。道徳教育とは服従させる教育である、と決めつけるのは間違いである一方で、道徳教育を難しい選択問題から始めるのも間違いである。親や国を大切にするという態度はせいぜい水準5程度のものであり、もっと上の教育もあるということが分かれば論争も減るであろう。思いやりなどの情操教育が好まれることが多いが、それらは水準1や水準2程度のものであることが多いので、より高度な水準の教育までバランスよく教育すべきである。 | |
水準の混合: 水準は学年に対応させる目安でもあるが、一筋縄では済まない。一つの教育単位に水準1から水準7までを混合させることもある。例えば、スポーツの部活動では毎日の練習に、水準2の準備体操から水準6の紅白試合までを含めることが多い。 | |
状況対応: 能力の発揮の仕方はワンパターンではない。野球では一人の打者に対しても、多様な球種を投げ分ける。服装は天候や行事に応じて着替えする。知識も身体技能も態度も、細部項目は膨大な項目であり、状況も膨大な種類がある。例えば「道徳教育は一つの型にはめるものである」というのは教育学では初歩的な間違いであり、会話の途中でも話したり聞いたりする瞬間は心を冷静にし、その合間に喜びや悲しみの表情をする。状況倫理という言葉は倫理にもいろいろあるということを意味している。 | |
規則: 規則は多くの場合、状況に応じる行動定石を定めたものである。道路交通規則は違反事項を定義しているのではなく、道路上の移動においてどういう状況ではどう行動するのかを白紙から定めたものである。服装の規則もいやな禁則というよりも、状況に対応する服装の選び方を定めたものであると考えればよい。部下は上司に従うという従業員規則は、部下とはそういうものだと定義していると考える。 | |
知識・身体技能・態度の均等な扱い: 道徳・倫理教育をするとなると特別に偏重したり差別したりするのは態度が悪い。知識も身体技能も態度も単なる分類であり、どれかを特別扱いしてはならず、教育学術を適用して淡々と分析、設計、開発、実施、評価すればよい。 |
教育の分類や水準という概念は、教育活動を構造的に扱うための手がかりであるとともに、学科や指導要領や成績表などの活動の成果物として目に触れることも多い。
■個性
個性(individuality)とは、個人、その他の生物、あるいは個々の集団の特徴の実例の集合である。教育学的には個性とは個人の能力の実例の集合である。能力の個人版と言ってもよい。生理学や病理学的には個性には個人の身体検査値、健康診断値、あるいは傷病記録なども含まれる。
以下は個性の類似語・関連語であり、意味や使う文脈が少し異なる。
性格(character): 「性」が種類、「格」が度合いを表す。態度(情意)の部分を意味する使い方もある。
品性(character): 能力種類の中の態度(情意)の部分を意味する。
人物(character): 性格の意味から転じて劇やゲームの登場人物を表す。
人格(personality): 人の性格である。
能力(capability): 物事を遂行する力の、個人によらない共通の定義である。
特徴(characteristics): 個性を構成する一つの項目。単数でもsが付く。
個性は他人との違いを強調する文脈で使われることが多いが、性質の種類の集合は人類として共通である。それぞれの程度に個人差があり、同一人物でもその程度は教育などによって時とともに変化する。個性は尊重されるべきであるが、未熟な性質は教育によって改善すべきである。
個性は能力の個人版なので、ゲームソフトにおける人物のデータには、教育学・人事管理学・生理学の分類・度合いを模式として適用することがある。
人は膨大な数の高度な性質を取得する可能性があるが、努力の差異、教育者の差異、あるいは学歴・職歴の選択によって、実際に取得できた人格に差異が生まれる。例えば、オリンピック種目の数は膨大であるが、メダルを取れるのは夏冬合わせて2種目程度が限度である。バスケットボールという一つの種目の中でもシュートの種類は多数ある。
「世界に一つの花」というSMAPの歌がある。「世界に一つの種」でないのがミソである。厳しい自然に打ち勝って成長して花開いた時に、程度の高い性質の違いが異なる魅力を発揮する。種の時に個性的であっても、そこで成長を止めては意味がない。「発達なくして個性なし」である。 |
■目標記述
目標はメイガーの目標構文に従って定義する。
〜の条件で、〜の程度、〜ができる。 |
■人口を分析する(ID9)
■学習環境を分析する(ID10)
■技術の性質と適用を分析する(ID11)
■課目を定義する(ID7)
課程・課目・指導項目という用語を定義する。
課程群(カリキュラ): いくつかの課程の集合。一つの学校の全学科の課程の集合や一つの学科の全学年の課程の集合など。
課程(カリキュラム): いくつかの課目の集合。一つの学科の一つの学年の課目の集合など。
課目(コース): 国語・数学などの一つの主題の教育単位。科目、講座などとも言われる。
指導項目群(シラバイ): 課目を構成するいくつかの指導項目の集合。しばしば一つの課目の全指導項目の意味で使われる。
指導項目(シラバス): 課目を構成する一つの指導項目。しばしば15回の時限の一つに相当させる。ただし、指導項目は課目の一つ下の階層だけを意味するわけではなく、どんな細かな項目であっても指導項目である。
■課目へ適用する技法を選択する(ID8)
■課目へ適用する方略・技術・技法・媒体を選択する(ID14)
■試験を定義する
■分析を仕上げる見直しをする(ID12)