6.何を教育するかを定義する

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 カリキュラ(カリキュラム群、学部・学科・科目構成)を定義することは、教員育成という概念を超える大学存立の根幹の話題である。陳腐なカリキュラムに基づいて、各教員が高い教員能力を発揮しても意味がない。カリキュラを決定するのは経営者や管理職教員であり、教員育成とは別の枠組で規則や手引を制定・維持する。我が国の大学においては、カリキュラにも改善すべき点が多いし、その制定・改定の理論・技術にも改善すべき点が多い。この話題の実用資料はいろいろあるので、いずれ紹介したい。ただし、カリキュラの定義はシラバイ(シラバス群)の定義と理論・技術が類似するし、各教員がカリキュラム定義を解釈する立場にあるので、教育育成活動においてカリキュラ定義の理論や技術を扱うのは良いことである。

(中略)

■講座概要

 講座概要は講座の範囲・目的・学習方法等の3行から5行程度の叙述的な一つの文段である。文段については作文技法を参照のこと。類似の講座の中での範囲・目的・学習方法の特徴を加えてもよい。原則として学生を主語にする。教員を主語にする文節は注意深く用いる。余談だが私がある大学の講座概要の評価をしたら、理学部教員の文面に上質なものが多く、最もひどい文面は何と教育学部や作文講座のものであった。

 最初の話題文で範囲を定義する。目的の定義を含めてもよい。以下、いくつかの補足文で範囲の補足、目的の定義、学習方法を述べる。結論や重要を先行させる。

印象的な書き出しを優先することによって、範囲と目的の定義を後回しにしてはならない。

「近年〜の発展はめざましく」「〜はあまり知られていない」などと、変化を表す書き出しをしてはいけない。学生にとってはどの講座が新しいか古いかは関係ない。「その講座が百年前から存在したかのような」淡々とした書き出しにしよう。「近年〜」などの書き出しはその教員が講座の意味定義を把握していないことによる逃げ手になりがちである。まして数十年の歴史がある情報技術を新しいものだと説明するなどは、教員が技術を消化しきっていない表れになる。

「〜を知らない人はいないだろう」「〜は難しいと思われがちだがそうではない」などと、講座の古さを表す書き出しをしてはいけない。「その講座が最近誕生したかのような」正式の意味の定義の書き出しにしよう。「〜を知らない人は」などの書き出しはその教員にとってその講座が当たり前過ぎて、簡潔に説明できないことによる逃げ手になりがちである。「哲学は難しい学問だと思われがちだが」などよりも、哲学の意味定義や目的を書き出そう。

 範囲の定義の仕方にはいろいろある。

辞書的な意味の定義。上位のカテゴリの中での特徴を形容する。詳しくは作文技法の話題文・補足文の章を参照のこと。

限定句を付け加えてそのカテゴリの中でのその講座の特徴を定義する。

そのカテゴリを一段階分解した構成要素を二つから五つ程度挙げる。箇条書きではなく1文で列挙する。

 目的を定義する語句は、その講座を受講して適用することによって改善される性質の語句である。生産技術講座なら品質向上や生産性向上である。

 学習方法は、その講座で学生が何をするのか、学生がどう学習を進めるのかを述べる。「〜をしてはならない」という禁則は「〜する」という前向きな定義に変えることができる場合が少なくない。

講座概要記述手引書の事例

 筆者が筑波大学国際総合学類のために作成した講座概要の書き方の手引書を、参考のために紹介する。民間の教育会社のノウハウを反映したものであり、形式を縛るのではなく、読み手や書き手を助けるノウハウを漏れなく提供している。

「科目記述・シラバス作成手引書」(PDF形式)

目次
1. 概要
2. 科目記述の全体構成
3. 科目名と科目コード
4. 教員
5. 単位等の書き方
6. 科目記述欄の書き方
7. 到達目標
8. 授業日程
9. 成績評価
10. 教材
11. 履修条件

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