大学などで自身の教職員を育成する部門を一般に教職員育成センター(Faculty Development Center; FDC)と呼ぶ。以下、教職員のことを教員と表す。教員育成センターは研究所ではなくて教員育成の実務をする部門である。実務を発展させるために研究をするのはもちろん構わない。日本でも部門名に「研究」という言葉を入れないことが多いし、「〜実践〜」と強調する名称もある。
教員育成センターは実務として、教育手引書(マニュアル)、 事務手続きや教育技法の実務集会(ワークショップ、レビュー会)、及び教育道具(設計道具や成績集計道具)を提供するのを柱にする。日本の大学は研究だけでなく教育も重視しようとして教員育成センターを設立したあげく、教員育成センターこそが研究業務に偏るという皮肉な結果を産むことが多い。
教育育成センターの職歴は、教育工学者を配置する方法と各学部のエリートコースにする方法とがある。教育工学とは要するに教育学部の中で特定の科目を担当しない産官教育者の養成学科である。教育工学者なら多様な学部の教員育成に適切に対処できる。我が国の教育学部には教育工学科を設置しにくい状況があるかも知れないが、設置しても大した問題は起きないような気もする。
大学の各種のセンターは学部を横断する一種の「本社機構(スタッフ、幕僚)」なので、若干の手伝い者のほかは上級者を配置すべきだ。早期に教授に昇格させたいエリート助教授、あるいは次の学科長や学部長の候補である教授の通過職場とすべきである。センターでは教員育成の実務をしながら、次の学部カリキュラムの改定や大学経営の再設計の企画に備える調査研究をするとよいだろう。センター勤務という職歴は教員の企画・経営・管理・調整業務のポートフォリオ(実績)に記載できる。
手引書を作るのは会社員には簡単だが大学教員には難しい。教員の実務を生産工程の観点で受け止める必要があるからだ。教育の手引書を作ることは教員教育とは別問題なのである。教育という主題の生産実務を描写する実務文書である。受け止めた結果をいよいよ手引書にするという実務作文も大学教員には難しい。本当は難しくないのだが、慣れていないということだ。実務(運用、作戦、手術)とその能力を高める教育とを区別すべきである。
教員育成センターのパンフレットやウエブページは、提供される「商品」(教育手引書、教育道具)や「役務(サービス)」(実務集会)が読者である教員に真っ先に見つかるようにデザインされなければならない。センターの歴史やセンター教員の業績紹介が延々と続いて、かんじんの商品や役務がなかなか見つからないようであってはいけない。ウエブ資料は「読者の活動に即時に資する文書」であるべきであり、作者の頭に浮かんだことを綴る活動日記であってはならない。