富士山頂サブミリ波望遠鏡の製作
某(株)研究所様に納品させていただいた後に、某国公立大学研究室に納められました。

設置作業
富士山頂サブミリ波望遠鏡は日本で初めて観測周波数340〜810GHzを観測する望遠鏡です。
中性炭素原子線(CI: 492GHz・809GHz)や星間塵関連分子線の観測により分子雲の進化を研究しているとの事。
主鏡は光景1.2mで軸対象パラボラアンテナです。
詳しくは、当ホームページの新着情報で紹介して行きたいと思います。
オールアルミ製
この電波望遠鏡は全てアルミ材を使用しており温度変化(−30〜0℃)しても指向精度(10’’)が劣化しません。
右写真は、オールアルミ材の架台です。
主鏡もアルミ材で軽量化し、井桁状の梁により、自重変形を抑え鏡面精度は10μm以内です。
主鏡部・架台・ドームの製作法の紹介は順次更新してゆきます。
主鏡面の削りだし
面精度を出すために歪が出てこないよう注意して何度も何度も丹念に削りだして調整加工してゆきます。(直径1.8mまでOKです)


富士山頂サブミリ波電波望遠鏡の仕様

アンテナの形式 軸対象パラボラアンテナ
マウント方式 高度角・方位角方式
アンテナ材質 アルミニウム(5052)
主反射鏡有効径 1200mm
主鏡焦点距離 480mm
主鏡鏡面精度 10μm
主鏡重量 100kg
空間分解能(HPBW) 1.8分角 492GHz
副反射鏡直径 72mm
AZ 駆動範囲 −10°〜+370°(真北基準)
EL 駆動範囲 20°〜+100°
駆動系消費電力 3.0kW

宇宙からのサブミリ波を捉えることは、実は容易ではありません。地球の大気に含まれている水の分子によって吸収されてしまいます。何百、何千光年とはるばる旅をしてきて、もう少しで望遠鏡に到達するところで、水分子に阻まれてしまうのです。
水蒸気量は地表に近いほど多くなります。宇宙からのサブミリ波を受信するためには、標高が高く、乾燥した富士山頂が国内唯一の場所です。

富士山頂サブミリ波望遠鏡の観測についての新聞記事や仕様を紹介いたします。

新聞掲載記事

H12.04.20  富士山頂サブミリ波望遠鏡とその初期成果 (天文月報)

 富士山頂サブミリ波望遠鏡は中性炭素原子線CI:492GHzによる銀河面広域観測を目的として開発され、1998年11月より富士山頂西安河原(標高3725m)にてサブミリ波観測をおこなっている。
 口径1.2mの主鏡に、800・500・350 GHzを同時に観測できる超伝導受信機、そして900MHzのバンド幅を持つ音響光学型分光計(AOS)を装備している。
 また、電波望遠鏡として世界で初めて衛星通信をつかった遠隔制御で東京大学理学部物理学教室・野辺山宇宙電波観測所から望遠鏡を遠隔運用している。
 富士山頂の冬季の大気透過度は220GHzの調査から予想されたとおりすばらしく、1998年度冬季だけで過去に中性炭素原子線で観測された領域の10倍以上に相当する20平方度にわたりマッピングした、中性炭素原子線の広域観測をもとに、星間分子雲の物理的・化学的進化を解明していく。

装置
アンテナ
 主鏡はアルミニウムの削り出しで、直径1.2m焦点距離0.48mである。サイズはコロンビア大学1.2m鏡とおなじである。
 1.2m鏡でのビームサイズは2.2@GHz,3.1@345GHzである。
鏡面精度10μmr.m.sを目指すために、自重変形と温度変形を抑える工夫をした。熱膨張係数が同じ材質をもちいることによって、温度が変形しても相似変形し、鏡面制度は保たれる。
 アジマス台より上は、大部分アルミニウムの5052という素材をつかった。Al5052は加工性がよいのが特徴である。しかし、モーターやベアリングはSUSや鉄を素材に含んでいる。そこで、モーターやベアリングの支えには、オフセット構造をもちいて、熱変形してもその変形が主鏡や軸に伝わらないように工夫している。自重変形を抑えるために、簡単な有限要素法の計算をおこない、高さ150mm厚み15mmの井桁状の格子をアンテナの裏側に取り付けている。

観測性能
 ポインティングは、始めに光学望遠鏡で望遠鏡の器差をとり、次に太陽や月の345GHzをもちいて、電波軸と光学軸を合わせた。ポインティング性能は20’’角r.m.s程度で合っていることを、毎月確認している。
天体から受信した信号強度はチョッパーホイール法によって、レーリージーンズ近似によるアンテナ温度に変換される。このアンテナ温度を主ビーム温度に変換する。
 満月時の時に望遠鏡の月に対する効率を求めた。レドームによる損失を含めた月に対する効率は、72%@492GHz、75%@345GHzと高い値がえられている。さらに、ドーム内温度と大気の温度の違いにによる補正によって主ビーム温度を求める。上記の方法によって得られた天体の温度を、標準天体(Orion KL、M17SW)の温度と比較し、正しいことを確かめた。月や太陽の端の観測から、ビーム幅も求めている。設計どおり492GHzで2.’2、345GHzで3.’1であった。
 望遠鏡は1998年どの11月〜3月と1999年10月〜3月に順調に観測している。これまでに観測した天体は、TMC1,Orion A、Orion B、M17、NGC2264、W3、DR21、L134N、W44、W51、W28、Ophi-uchuis、NGC1333、MBM12、他である。
 1998年度の成果としては、おうし座暗黒星雲HCL2ではC^18 Oで濃いところ(Sunada & Kitamura)より南側にCIが強い領域を発見した。この結果は、おうし座分子雲では南側が北側に較べて若いという炭素鎖分子の分布の傾向と一致する。CIからCOへの分子雲の進化がみえているかもしれない。他の領域でもこのように中性炭素原子がCOに較べて相対的に高い所が見つかりつつある。一方、巨大分子雲Orion Aでは分子雲全体でCI/^13COの分布が非常に似ていることを見出している。
 超新星残骸と分子雲の相互作用という観点からW28,W44,W51の広域CI観測を行った。IC443では、相互作用によるショックによってCOが解離されるかまたは宇宙線による電離度の上昇からCIが相対的に増加すると報告されている。富士山頂サブミリ波望遠鏡でも同様の結果を得ている。

今後
1999年度の観測からは新たに800GHz帯野観測も始まっている。800GHz帯には809GHzCIや807GHzのCO(J=7-6)など興味深い輝線が存在するが、全くの未知の領域である。世界的にも800GHzで定常観測している望遠鏡はない。CIの2本の輝線により励起状態を解くとともに、High-JのCOがどのように分布しているのかが興味が持たれる。今後は492GHz、345GHz帯での観測感度をさらに向上させて、近傍銀河の観測を計画している。

H11.03.25  炭素雲をサブミリ波で 富士山頂  (静岡新聞)

 宇宙空間で星が誕生する前の段階に、炭素の星間雲が広がっている様子を観測するのに、東大理学部初期宇宙研究センターの山本智・助教授らと国立天文台、分子科学研究所の共同グループが富士山頂のサブミリ波望遠鏡で初めて成功した。
 星の誕生につながる分子雲形成の過程を探る新しい手がかりになりそうだ。二十五日から京大で開かれる日本天文学会で発表する。
 研究グループは、昨年夏、口径1・2mのパラボラアンテナを備えた過搬型望遠鏡を富士山頂に運び上げ、設置した。波長1mm以下の電波であるサブミリ波の望遠鏡は国内初。サブミリ波は、大気中の水蒸気に吸収されるため通常キャッチできないが、標高が高く、乾燥する冬期間の富士山頂だけは観測できる。
  昨年十月下旬から衛星通信による完全遠隔操作で観測を始め、三月まで順調に、おうし座暗黒星雲など広い宇宙空間で波長0・6mmの炭素が発生するサブミリ波をとらえた。
 その結果、@炭素雲は数光年以上に広がり、星が誕生する前の胎動期に存在しているA星が誕生する現場では、一酸化炭素が炭素よりも多いことを見つけた。
 分子雲は、気迫なガスが収縮してつくられる。炭素の密度が上がると、酸素と反応して一酸化炭素に変わり、星の原料になるという星誕生序章のシナリオが裏付けられた、と研究グループはみている。
 山本助教授は「今冬の富士山は雪が少なく、観測条件に恵まれ、三年で観測しようとしたことを一年でできた。毎冬観測を重ね、分子雲形成過程の全体像を解析したい」と話す。
 サブミリ波
 波長が0・1ミリから1ミリまでの電波。炭素などが放つ。原始や分子ごとに発生する電波の波長が決まっており、パラボラアンテナの望遠鏡で観測できれば、星間物質の分布がつかめ、銀河や星の形成過程が分かる。大気中の水蒸気が邪魔するので、標高三千メートル以下では観測できず、波長1ミリ以上の電波天文学より立ち遅れている。

H10.11.16  富士山頂は宇宙への窓  (静岡新聞)

 富士山頂に新型の電波望遠鏡が設置され、今秋観測を始めた。国内初のサブミリ波望遠鏡で、衛星通信を利用した電波望遠鏡の遠隔操作のかんそくにも世界で初めて成功した。星や銀河の形成過程の解明などに威力を発揮しそうだ。
 宇宙からやってくる電波は波長によってミリ波とサブミリ波に大別される。ミリ波は大気を透過してくるため長野県の野辺山電波観測所などで十分観測でき、研究が進んでいる。これに対し、波長が1mm以下のサブミリ波は大気中の水蒸気に吸収されてしまい、野辺山でもほとんど観測できない。世界的にも、ハワイのマウナケア山頂などに計三台の望遠鏡があるだけだ。
 研究グループは日本の高い山々を歩いて観測条件を探った。その結果、富士山頂だけが十月から三月までの冬季に晴れ上がって乾燥すると、サブミリ波が訳50%透過してくることが分かり、世界で最も観測条件のよい敵地であることを突き止めた。
 約三百メートル離れた気象庁の富士山観測所から電気も引いて九月十七日に初観測。九月末の台風でドームが一部破損するトラブルも乗り越えて、十月後半からは順調に観測を続けている。衛星回線で東大などの研究室から遠隔操作してデーターを取得中だ。