音源メディアの変遷 

オープンリール黎明期〜2つのソニ・テープの謎?

アナログ音源再生計画



東通工の1950年代オープンリール「ソニ・テープ」の謎に迫る
●なぜSONYではなくSoniなのか?
●「紙テープ」はいつ頃消滅したのか?今でも再生可能か?
●「SONY坊や」はどこへ?
●まだ残るテープベースの謎

オープンリール黎明期(2)〜紙テープと真空管録音機も是非ご覧下さい。
 
[画像1]

東通工時代のソニ・テープの箱
(左:東京都S氏所蔵品1954年版 右:横浜市T様所蔵品1957年版)

ここで取り上げるのは黎明期ともいえる1950年代のSONYの前身「東京通信工業」(以下東通工)オープンリールテープ「ソニ・テープ」の話題です。

 管理人は1950年代のテープの事は全く知りませんでしたが、以前掲示板に投稿いただいたS氏より箱の外観について情報を得ておりました処、偶然テープ復刻依頼のT様より持ち込まれたものが初期のソニ・テープに間違い無いと思われました。
 ただ、ご依頼の方は母親の録音物であるという内容だけで録音年代は解らないという事でしたので、S氏に照会したところわざわざテープの箱とテープの一部を送って頂きました。

[画像1]はそのテープの箱(いずれも5号)です。左が1954年、右が1957年当時ものです(年版については箱の中に入っていた価格表にて推定 [画像3]参照)
箱の外観は50年代のものであれば同一だろうと思っていましたが、この3年の違いで、そこには大きな変遷が見られたのでした。

ここでは、その資料に基づきオープンリールの黎明期の変遷と謎について迫ってみました。

SONYのSoniテープの謎
「Soni-Tape」の名称については国産のオーディオテープを最初に開発したSONYの前身「東通工」が社名を1958年「SONY」に変えてからも1960年代半ば頃まで使用されていたことはその後のテープの箱からも判明していたのですが東通工時代のテープにも「Sony」という商標は両方の箱に記載されていました。

それなのに、なぜテープの名称はSONYではなくSONIなのか?

SONYのテープと録音機の開発については本家に歴史が掲載されています

東通工では「テープコーダー(Tapecorder)」という登録商標を取った。今後、日本国内で使われるテープレコーダーすべてを、東通工の商品名である「テープコーダー」と言わせてしまおうという考えからだ。同時に東通工製のテープは「ソニ・テープ(SONI-TAPE)」と名付けられた。
[出所:SONY HISTORYより]

SONYの歴史にも具体的な記載は以上の文言しか見あたりませんが、以前何かの記事でSONYのスペルと発音がよく解らない(ソナイと読める)からSONIにしたとかいう事が掲載されていた記憶があります。
 たしかにSONIであれば、そのままローマ字読みできます。まだSONYというブランドが一般に普及していない時代ですから民生用に販売されるテープも解りやすいようにソニ・テープとしたのでしょうか?

 それにしても箱には「東京通信工業」の名称、Sonyのロゴ、そしてSoni-Tapeと記載されていて当時の方は「一体どこのテープじゃ?日本の会社が輸入したテープかい?」とか思わなかったのですかね(^^;

2つのソニテープの3年間の変遷
[画像2]

左:箱の裏のタイトル記入欄  右:箱の中開きの解説

画像2が1950年代の東通工ソニ・テープの箱の裏と内観です。(いずれも共通)

共通点
いずれの箱の中にも「ソニ・テープご愛用カード」と「価格表」が入っており、ご愛用カードにはテープ番号が1本毎に刻印されてハガキとして東通工まで返送するようになっていました。

 箱の裏のタイトル記入蘭と中の説明の印刷は活字の相違だけで2つのテープとも仕様は同一でした。殆どのテープでは、接合のしかたの図説は70年代にも表記されているのですが「テープのかけ方」まで解説されているのはこの年代のもの独自のようです。

管理人の見た限りでは、その後のソニ・テープにもこのような図説はありません。「録音機」自体が珍しく操作方法だけではなく、テープのかけ方すら解らなかった時代性が窺われます。それは皮肉にも、21世紀の現在にも通じる事ですね(^^;

相違点
いずれも緑色のデザインに黄色でSoni-Tapeと印刷されていますが、最も大きな違いはテープの図柄です。1954年版の図柄はテープの色が白っぽく印刷されています。これが1957年版ではツヤがあって光っているようなテープのデザインに変更されています。

 この違いは次の[画像3]の価格表ではっきりと判明しました。'54年の箱に入っていた表には紙ベースの価格も掲載されており、箱の図柄はまさしくこの「紙テープ」だったのです。

紙テープの消滅とSONY坊や登場の謎
60年代半ば頃までのテープのベース材質は主にアセテートが使われていました。
それ以降ポリエステルが使われる事になる(いずれもプラスチック系)のですが、昭和でいうと30年くらいまでは未だ紙ベースのテープが市販されていたことがわかります。

 民生用として販売されていたわけですから、当然一般の方も手にされて録音できたのでしょう。見たことも無い紙テープですが一体どんなものなのだろう?どんな音がするのだろうか?今でも再生できるのだろうか。。。箱に記載されている紙テープの図柄を見て管理人の興味と謎は深まるばかりです。

[画像3]
左:昭和32年(’57)        右:昭和29年(’54)の価格表


右の価格表には紙ベースのテープの価格も掲載されている。
左の価格表には現在と同じSONYの商標が印刷されている。

 
SONY坊やはどこへいった?
左の価格表のイラストは管理人も覚えのあるマスコットキャラクター「SONY坊や」です(多分)。子供の頃、白黒テレビのCMで確かこの坊やを見た記憶があります。家電店のSONYの商品にも使われていたと思います。

 ただ、この坊やはいつのまにか見かけなくなってしまいましたねぇ。すでにその後の1960年代半ば位のテープの箱などには使われていません。
 きっと小さな坊やもSONYの成長とともに大人になってしまったのでしょうね。。。
ちなみに「ナショナル坊や」は長生きですねぇ(笑)

テープベースの謎
管理人の目的はあくまでテープ自体の復刻(再生)です。早速再生した処、音はやや古い感じがしましたが、大変鮮明に録音されており、しかもドロップアウトやワカメ状になった部分もほとんど無く、他の1960年代のテープと比較しても40年以上経過したテープとはとても思えませんでした。

 そこでテープを見たところベースが若干黒みがかった色で、自分の所有のものや1960年代のソニ・テープの色と異なっているような気がしました。

黎明期のソニ・テープはこのような色だったのか?1950年代のテープがこんな良好な状態で残っていたのであろうか?と疑問に思い、以前より色々とオープンについてご助言いただいているS氏に問い合わせた処、箱と一緒に送付いただいたテープはやはり他のSONYのテープベースと同じ茶系の色をしていました。

 ただし中身のリールはSoniでは無くVictorという話でした。そしてテープそのものは、箱やリールと異なったものが巻き取られる可能性があります。それがオープンのオープンたるゆえんであり、判断が難しいところなのです。
 
そこで管理人の最初の推測は、このテープは1960年代半ば以前に録音した他のテープに、たまたまあったソニ・テープのリールに巻き取って保管して置いたのではないか?という事でした。

しかしデジタル処理後内容をチェックした時、気づいたのですが録音の内容で明らかに1957年の録音であると特定できる部分があったのです。何年か後にダビングしたとも考えられますが所有者T様からの情報と雑多な録音の並び方(通常ダビングする場合は必要部分だけを残すように編集するはず)から推測するとオリジナルのようにも思われます。

T様所蔵のテープは中のビニル袋・リールともSoni-TapeとTOKYO TSUSHIN KOGYO LTDの印刷・刻印がある。録音状態も良くビニル袋の汚れの程度を見るとカビは付着しているが非常に好環境で保存されていたと思われる。


ちなみに管理人の70年代のSONYのビニル袋は手垢で薄汚れてクシャクシャ(^^;
もしテープがSoniでないにせよオリジナルであれば、40年以上前のテープが健在という事になりますが、テープベースの色については未だ謎です。

そして価格のなぞ?
上記の価格表[画像3]には5号が880円、7号が1,680円といずれの箱にも掲載されていました。
 所有者のS氏も『・・・それにしても、あの、戦後10年後の金額にしては高値ですねー!あの頃は、確か、大卒の初任給でも1万円以下だったと思います。』と一文を送っていただきました。
 当時の先達がこんな高価で貴重なテープにどんな思いで録音をし、新鮮な感動を覚えたかを考えると、あまりに安価にしかも簡単に録音ができる現在の私達は幸せな反面「録音」や「記録メディア」に対して安易な対応しかできなくなってるのかも知れませんね。。。


※この頁の画像掲載についてはS氏及びT様にご了承を得てあります。
特に多くの情報、箱をご提供いただいたS氏にはこの場をかりて御礼申し上げます。

※なお[画像1]は、あえて2つの箱を重ねて掲載してあります。もう、管理人の手許にこのような古い年代のテープの箱が揃う事はないでしょうから。保有テープの年代などについて詳しく調べたい方のために、いずれメーカー・年代別の画像をまとめて掲載しますのでご了承ください。
 当時のテープを保有している方がいらっしゃいましたら、情報を掲示板に書き込みしていただければ有り難いのですが。。。




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