音源メディアの変遷 


4チャンネル・ステレオの時代

アナログ音源再生計画


今はDVDの登場で5.1チャンネルの立体音響で大画面の映像を楽しむというゼータクな時代になったのですが、今から30年以上も前にも4チャンネル(以下4ch)の立体音響がブームになった時代がありました。

4チャンネルステレオとは・・・
オーディオブームが過熱気味だった1970年代初めのお話です。基本的にはステレオ(2ch以上)で録音した音源信号を4chに分解して、4つのスピーカを四方に設置しその中心で聞けば『コンサート・ホールにいるような』立体音響が再生できるという事で、オーディオマニアや技術誌などでは相当古くから話題になっていたのですが、FM雑誌などで盛んに取り上げられるようになって一気にブームに火がつきました。

その中で今でも覚えているのは坊主頭の庶民派で人気のあった評論家長岡鉄男氏が考案した?か紹介されていた簡易4chです。構成は至ってシンプルでスピーカーマトリクスといってリア・アンプを必要とせずフロントスピーカとリアスピーカの結線だけでサラウンドシステムができあがってしまう、というものです。

配線は普通の2chステレオに2本のリアスピーカを用意し、図のように+端子同士、−端子同士を繋ぐだけで、リアアンプは必要ありません。リアとフロントの−端子の間に抵抗をかませる方が良いのですが、これでも4chの臨場感は一応味わうことができます。
(下図参照。真ん中の●は人の位置だと思ってください(^^;)


簡易4Chサラウンドシステム


 これは流行りました。少なくとも私の周囲の物好き連中はこぞって、この4chに取り組みました(^^;なにせ出費はリアスピーカだけでしたから。。。しかし、この方法の難点はフロントとリアの音量の調整ができない事でした。聞く位置を自分で動いて決めないと思ったような効果が得られない、何となく残響は感じられるが定位がままならず不満も感じていました。

そこでもう少し本格的なサウンドを、と考え制作したのが「真空管アンプとハムノイズ」で紹介したリア・アンプでした。確か別にリア音響を取り出すマトリクス回路があってそれも自作した記憶があるのですが、現在では回路図も無く、受信機と異なりアンプの写真も残っていないので自分でも詳細は不明です。

 若干のハムノイズに悩まされながらも、完成した当初は我ながら、その4chの効果に感激しまくっていた記憶があります。FM誌などで○○という曲がどうなって、こうなって面白いだことの、友人たちの話題も4ch効果のある曲で盛り上がりました。
 サイモン&ガーファンクルのアルバム「明日に架ける橋」に収録された「バイバイ・ラブ」という曲がライブで観客の手拍子が入るのですが、これが非常に臨場感があり観客の中に入るようで特に話題になりました。

とにかく手持ちのレコードやテープを片っ端から4chで再生すると、今まで聞き逃していた、あるいは聞き取りづらかった楽器が鮮明に聞こえてきたりして、新しい感動を覚えたものでした。とりわけ記憶に残っているのはレッドツェッペリンの「胸いっぱいの愛を」という曲でヴォーカルとギターがぐるぐる頭の中を回り、今なら完全にメマイをおこして倒れたでしょう(爆)その他にもサンタナなど当時のロックの数々が特にサラウンド効果が高く、よく聞いていました。

オーディオメーカーにとっても4chは魅力ある商品でした。なにせ最小限の構成でもスピーカーがプラス2個必要で、本格的に構成しようとすると、当然リア・アンプ、変換器が必要でした。レコードも4chステレオ対応なる商品が続々と登場しました。
 またFMでも確か4chコンサート?とかいう番組があり毎週色々なジャンルのライブを放送していた時期がありました。
 究極は100%ピュアな4chとして発売された4トラック・4チャンネルテープデッキとレコーデッドテープです。従来の2ch用のレコードを4chにリミックスしたものでは無く、最初から4チャンネル用に録音されている訳ですから臨場感は抜群でしょう。

管理人はそのような高価なシステムを持っていた筈もなく専門店のリスニングルームで聞いただけですが、クラシックの室内楽やジャズコンボの演奏を聴くと、まるでその場にアーチストがいるような生々しい迫力でした。社会人になって自分で稼げるようになったら広いリスニングルームに本格的4chシステムを導入して心ゆくまで音楽に浸る・・・そんな単純な夢想をしていた時代でした。

・・・それが、いつから世の中で4ch、4chと騒がなくなったのか定かではありません。ちょうどそんなブームのまっただ中が管理人の青春時代だったのですが、自分の記憶の中では、4chに夢中になったのは、ほんの短い期間だったように記憶していますし資料もほとんど残っていません。1974年の全日本オーディオフェアーのアンケートに「4チャンネルへの取り組み」の有無があるところを見ると70年代半ば頃までは、まだまだ4chは健在だったようですが。。。

あれほど魅力的だと感じた4チャンネル・ステレオが単なるブームで終わってしまったのには諸説あります。一番もっともらしい説に『日本の家庭のリビングは狭くて部屋の四隅にスピーカを置いて中央で聞くようなシステムは向かない』という意見があります。
 純粋な音楽鑑賞の立場からは『そもそも音源がたとえモノラルであっても名演奏、名録音は無数に存在し、臨場感だけが音楽のすべてでは無い』という声も聞かれました。これはレコード音楽がモノラル録音からステレオ録音(2ch)に移行した時代にも議論になった事ですが・・・
 さらに技術的にも音の定位があいまいな録音が多いという指摘もあったようです。

実際、自分の例でいうと最初4chを聞いたときの感動というのは音(サウンド)の面白さ、目新しさであって、それは音楽的な感動とは異なったものだったんでは無いかという事です。そしてアーチストもレコード制作者も4chサラウンドで録音することが自分たちの音楽性を高めることにつながるとは考えなかったんでしょう。

 結果的にはオーディオメーカーだけが笛を吹き聴衆を踊らせようとしていたのかも知れませんが。。。

 
4チャンネルはやはり映画がふさわしい?
余談ですが当時大ブームを巻き起こしたホラー映画「エクソシスト」の続編「エクソシスト2」('77)を新宿のロードショー館で観たのですが、クライマックスでイナゴ?かなにかの大群が襲ってくるシーンでゴーッという大音響とともに、劇場や座席がガタガタ振動するんです。当時のことですから本当に驚きました。地震でもおこったかと思った。あるいは劇場に何か仕掛けがしてあるのかとも思いました(^^;。観た後で新しいサラウンドシステムだと知ったのですが、やはり映画にこそ「臨場感」がふさわしいと感じた次第です。
 
こうしたサウンドも映画の本質を捉えたものとは別次元の手法かも知れませんが、純粋な音楽の鑑賞ではない映画という複合芸術にこそ引き立て役としてマルチチャネルのサウンド効果が表れてくるんではないでしょうか。

30年前の世の中に比べ住宅事情が大幅に改善されたとは言い難いのですが5.1チャンネルという映画館のサウンドを自宅に持ち込めるDVDは魅力的です。当時夢想していた「憧れのサラウンドシステム」が映像を伴って再生できる時代です。今度こそは自分で実現したいと思っているのですが。。。


(C)Fukutaro 2004.10



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