(TK氏の発言より)
> 日本の指導者の9割以上が今でも「ヘソの下」指導を
> しているはずです。
私が問題にしたいのは、「ヘソ下を意識せよ」という指導そのものではなくて、丹田を解剖学的構造であるかのように錯覚している認識のほうです。
先述の通り、丹田に実体はなく、あるのは機能だけなのです。この点を理解しておられない指導者が多いのは事実だと思います(註1)。
私も従来丹田の部分を非常に重要だと考え、実際そこに意識を集めていたし、人にもそう教えていたのですが、割と最近ウィーンフィルのホルンの皆さんの話を聞くことが出来、自分でもやってみて考えが変わりました。
金管楽器というのは音程を息のスピードだけで変えるのが理想的です。全く同じアンブシュアとアパチュアで、息のスピードだけを変化させるのです。
息のスピードは出る音の周波数に比例し、オクターブの跳躍は、ちょうど倍のスピードの息を使うことによって実現します(だからオクターブくらいならアンブシュアが完璧でなくてもスピードコントロール奏法で跳べる)。
ウィーンフィルの使っているウィンナホルンという楽器はF管しかないため、第16倍音までを自在にコントロールするためには1倍から16倍まで息のスピードを自在にコントロールしなければなりません。
理論通りにそんなこと出来ませんので、アパチュアを少し絞って(流路を狭くして)スピードを上げたり、マウスピースのカップに当てる角度を変え、その反射の影響を利用して、スピードコントロールとは異なったメカニズムで定在波を発生させるわけです。
ウィンナホルンは、楽器もマウスピースも極めて特殊なため、ブレスコントロールに負うところが非常に大きいのです。モダンな楽器やマッピがメカニカルにサポートしている部分が全く無い楽器なので、理想に近い状態できちんと吹かないかぎり吹けないのです。
ウィンナホルンで練習した後通常の楽器に移ると、あらゆることが非常に容易にできるようになります。私自身もトレーニングに使っていますが、世界的プロも、自宅の基礎練習ではウィンナホルンという人が結構います。
そういう難しい楽器を使いこなしているウィーンフィルのホルン奏者たちが、「ヘソ上」を意識して演奏することの重要性を強調します。
もともとヘソ上派とヘソ下派はいたので、最初それを聞いたときには、彼らは西洋人だから、多くのヘソ上派同様、強力な腹筋の有るココを使えというのだな、とタカをくくっていました。
ところが、よくよく聞いてみると、とにかくヘソ上に意 識を集中しないと「喉が変わる」というのです。それを聞いて、私なりに注意深く実践してみました。
ヘソ上に意識を持ってきたときとヘソ下の時とを比較して、腹筋まわりの緊張感あるいは脱力感についてはかなり似ています(似せることが出来るというべきかな)。微妙に違う部分は散見されますが、どちらでも楽器は吹けるし、どちらかというとヘソ下に意識があるほうが、より吸気が深く、力強い感じになるよう思えました。
ホンのわずかなことなのですけれど、ヘソ下に意識を持ってくると、胸の上部から喉にかけて絞まる(というよりも軽く力が入る感じとでも言いましょうか)のがわかります。丹田に意識を置いて息を吐いたときに、通常は良い方向に働いている筋肉の一部が、楽器を吹く邪魔になるのです(ほんとに微妙なものですけれど)。
「ヘソ上」を意識したときの結果は、私としては劇的でした。それまで、お腹、特に下腹部をフリーにするために本番の時はズボンをサスペンダーでつっていたのですがヘソ上を意識するようになると、逆に邪魔な部分に当たるようになったため、今はベルトに戻しています。
私には丹田を点や面など使い分けて意識できません。もしそれができるのであれば、他の筋肉のコンビネーションはそのままに、喉のテンションだけを外すことが出来るのかもしれませんけれども。
今の段階で私が言えることは、吸気までは丹田に意識をおいても良いとして、楽器をコントロールする「呼気」の段階においては、へそ上に意識を移すことで、よりストレスフリーな吹き方が出来る。何よりも圧倒的に息のスピードコントロールが良くなるということです。