私は、以前より疑問に思っていたことがあります。演奏時は腹圧が高められた状態になることは分かっていたのですが、いわゆる腹式呼吸を行なった場合、瞬間的にブレスをとるときに、その高められた腹圧を一時解除し、もう一度腹を膨らませて息を吸うということがどうしてもできなかったのです。ブレスに長い時間を取れる場合は問題ないのですが、長いフレーズを吹くようなときはどうしてもできませんでした。
腹式呼吸を「腹で吸う」と考えると、こういう疑問は出ると思います。武道の世界では、吸息時はもとより呼息時もつねに腹圧をかけつづける(ふくーふく)呼吸を戦闘的丹田呼吸法(流派によって呼び名はさまざまですが)として練習するそうです。
腹圧は、呼吸と関係なく、つねにかけ続けることができるのですね。私は「腹式呼吸」よりも「腹圧呼吸」という名前を使うほうがよいのではないかと考えています。
今回のレポートを読み、チェストアップやジェイコブスの呼吸法をもう一度調べ直し、実践した結果、はるかに以前より演奏することに余裕ができ、また、アンブシュアに対する負担も軽減されたように思います。
ゴードンやファーガソンは、息を支えることが大事だと訴えてますが、ジェイコブスの場合は、「息を支えるということは身体のどこかを固定することになり、自然な呼吸ができない」といいます。
しかし私は、演奏する音楽のジャンルや楽器によって異なるものと考えてます。ジャズ奏者はハイスピードの息が必要ですが、ウォームブレスを唱えているフィリップ・スミスのようなクラシック奏者にはハイスピードの息は必要ないからです。
これについては「考察第5回」で、私もふれています。安定は容易に固定につながる。安定とは固めてしまうことではなく、十分にバランスをとることである。固めることなく安定を獲得するためには、脱力の専門的トレーニングが必要となる、と。
「ジャンル」「マウスピース」「楽器」の違いはたしかにさまざまな影響を奏法に与えると思います。しかし、呼吸法の基本は同じというのが私の考えです。
つまり、ジャンル、マウスピース、楽器の違いを越えて、求められる音楽的要件を満たすために、ありとあらゆる「呼気」を自在に作りだせるようにコントロールすること、これを理想として練習するのが正しいアプローチだと考えるのです。
レポートを読ませていただいて、管楽器の呼吸法の基本について、私なりに理解したことを書いてみます。
呼息において、身体に力を入れたり、力を入れなかったりと断片的に捉えるのではなく、力の入れ具合を状況に応じて自由にコントロールできることが重要である。
「状況に応じて自由にコントロールできる」のは理想ですが、現実的にはかなり難しいでしょう。まず、身体各部の「力の入り具合」は時々刻々変化している、という事実を自覚することが第一ステップだと思います。
そのためには、徹底的に「脱力」することが前提となります。全身のいたるところを脱力するトレーニングを行ない、身体のどことどこが「入力状態」であるかを把握するのです。
腹式呼吸否定論者が「腹での呼吸」を嫌う理由のひとつは身体のこわばりです。しかし身体がこわばるのは腹式が原因ではなくて、脱力能力の不足だと思います。