<まま呼息の発見>

管楽器演奏の呼吸に関する考察

第5回


<5種類の呼吸法の比較>

  1. 一般に指導されている腹式呼吸:「ふくつつ-へこつつ
  2. 管楽器奏者が実際に行なっている腹式呼吸:「ふくつつ-ふくまま
  3. メイナード・ファーガソンの呼吸:「ふくつつへこせてへこまま-へこまま
  4. 本来のヨーガ完全呼吸:「ふくつつふくままふくまま-へこつつ
  5. チェストアップ:「へこまま-へこまま

これらの呼吸法を、呼息時(つまり演奏時)の腹部の動きに着目して比較しましょう。

「A.一般に指導されている腹式呼吸」と「D.本来のヨーガ完全呼吸」は、いずれも呼息時に「へこつつ」となっています。つまり腹をへこませ「つつ」息を吐きます。

「C.メイナード・ファーガソンの呼吸」と「E.チェストアップ」は、いずれも呼息時に「へこまま」となっています。つまり腹をへこませた「まま」息を吐く。

このように分類してみると、意外にも「A.一般の腹式呼吸」と「D.本来の完全呼吸」が似ていることに気付きます。「A.」の吸い方に工夫を加えると「D.」になるわけです。

さらに意外なことに、メイナードやボビーが「完全呼吸」と呼んでいる「C.ファーガソン呼吸」は、「D.本来の完全呼吸」とあまり似ておらず、むしろ「E.チェストアップ」のバリエーションであることが分かります。「E.」
の吸い方に工夫を加えたものが「C.」なのです。

<呼気の制御>

管楽器奏者が呼吸法というトレーニングによって達成したい課題は、自由自在な「呼気(吐く息)の制御」だと考えられます。いかに表情豊かな呼気を、自らのコントロール下で作り出すか。呼吸法とは、このきわめて微妙で複雑なテクニックを養成するための練習、と位置付けることができます。

実際、フォルティシモ・ピアニシモ・クレシェンド・デクレシェンド・高音・低音・鋭い音・柔かい音など、さまざまな音色・音量・その変化を、管楽器奏者は呼気の調整で作り分けます。

したがって「呼気制御の精度を高めること」は、ホーンプレイヤーにとって上達の中心課題であるはずです。
ちなみに、多くの人が関心を集めるアンブシュアの問題は、これを「呼気制御における最終段階の調整」と位置付けるならば、奏法全体においてはむしろ小さなテーマということができるでしょう。

<まま呼息の発見>

呼気制御の大前提となるのは「体幹部の安定」です。腹部を動かしつつ息を吐く「つつ呼息」は、ちょうど馬上からの射撃のようなもので、制御が難しくなる。

そこでゴードンはチェストアップのキープを説き、ファーガソンは腹部をアイソメトリックにロックすることを求めたのだと思われます。いずれの呼吸も「まま呼息」、つまり腹をへこませた「まま」息を吐く方法です。

ところで、A.〜E.の中にもうひとつ「まま呼息」の呼吸法があります。それは「B.管楽器奏者が実際に行なっている腹式呼吸」です。「まま」は「まま」でも、「へこまま」ではなくて「ふくまま」ですが。

「わき腹を張る」「ベルトを押すような感じ」で呼気を支える「ふくまま呼息」は、「内から外へ」圧力をかけることによって腹部を安定する方法です。一方、ファーガソンやゴードンの奨励する「へこまま呼息」では、腹部の安定を「外から内へ」の圧力で作ろうとします。

「ふく」か「へこ」かの違いはあるものの、いずれの手法も「まま呼息」によって演奏時に体幹部の安定を確保
している点では共通しています。

<安定と固定>

ここで留意したいのは、「安定」は容易に「固定」を生むということです。無目的なロングトーンや、やみくもな腹筋練習が上達のマイナスとなりうるのは、安定ではなくて「固定」を促進するからだと考えられます。

「安定」とは固めてしまうことではなく、十分にバランスをとるということです。固めることなく安定を獲得するためには、「脱力」の専門的トレーニングが必要となりますが、本論のテーマから離れますので、今回は触れ
ません。

<問題は「胸式か腹式か」ではない>

クラウド・ゴードンは、問題を「腹式 vs 胸式(=チェストアップ)」という構造で捉えようとしましたが、ことの本質はそこにではなくて、「つつ呼息 vs まま呼息」にあるのではないでしょうか。腹で呼吸することが悪いのではなくて、腹をへこませ「つつ」息を吐くことが、管楽器奏法には適していないのだと思われます。