<まま呼息の発見>
管楽器演奏の呼吸に関する考察
第4回
<クラウド・ゴードンのチェストアップ>
「BRASS PLAYING IS NO HARDER THAN DEEP BREATHING(金管演奏なんて深呼吸みたいなもの)」という教則本で、著者クラウド・ゴードンは、腹式呼吸(または横隔膜呼吸)を厳しく批判し、その代わりに「チェストアップ」という方法を薦めています。ゴードンのロジックは以下の通りです。
- 空気は肺に入るのであって、腹に入るのではない。
- 横隔膜は不随意筋であり、自らの意志でコントロールすることはできない。
- アコーディオンの蛇腹を閉じるように、肺を圧縮することによってのみ「wind power(呼気の圧力)」は得られる。
- 肺自体は筋肉ではないが、そのまわり、特に背中側には筋肉があり、これが肺を圧縮する。
- この筋肉そのものを意識的に動かすことは難しいが、よい姿勢で「チェストアップ」を保てば、自動的に肺を圧縮する動きが生まれる。なぜならそれが自然だからだ。
- 両手を斜め下に垂らし、手のひらを前に向け、両腕と肩を後ろに反らす。同時に息を吸い、肺(腹ではない)に空気を満たす。肩は後ろに反らす(バック)のであって、上げる(アップ)のではない。しかし、このとき胸(チェスト)は上がっている(アップ)。
- チェストアップしたまま、息を吐く。チェストアップのまま、また息を吸う。チェストアップのまま、息を吐く。
- 10呼吸で1セットとし1日に5回は行なう。つねにチェストアップの状態を保つこと。
つまり吸うときも吐くときも、常に「チェストアップ」をキープしなさいということです。それは演奏中も同じで、とにかく「チェストアップ」で呼吸を続ければ、肺の回りの筋肉が自然に鍛練されて、wind power が得られるようになるという教えです。
例によって、腹部の状態に着目してこれを表記してみると、「へこ-へこ」となります。息を吸うときも吐くときも、腹は「へこ」んだ状態になっているからです。
<腹部の状態と動きの記述>
さて、これで本論で扱う5つの呼吸法をすべて観察したことになります。それらを整理すると、
- 一般に指導されている腹式呼吸:「ふく-へこ」
- 管楽器奏者が実際に行なっている腹式呼吸:「ふく-ふく」
- メイナード・ファーガソンの呼吸:「ふく・へこ・へこ-へこ」
- 本来のヨーガ完全呼吸:「ふく・ふく・ふく-へこ」
- チェストアップ:「へこ-へこ」
となります。
これは腹部の「状態」だけを記述したものです。ここに腹部の「動き」をあわせて表現すると、興味深い事実が見えてきます。まままままままま
次回は5種類の呼吸法を分析し、相違点と共通点を明らかにします。