<まま呼息の発見>

管楽器演奏の呼吸に関する考察

第3回


<メイナード・ファーガソンの呼吸法>

第1ステップ:
小さく吸う。腹は少しふくらむ。リラックスして。
第2ステップ:
大きく吸う。腹は水平に内側へへこむ。
第3ステップ:
腹はへこませたまま、大きく吸い、肩を真上に上げる。
第4ステップ:
腹筋をアイソメトリック(註1)に締める。くさびを腹の奥に打ち込みロックするつもりで。
第5ステップ:
肩をリラックスさせて、演奏する時の位置まで降ろす。
第6ステップ:
舌先に乗せた米粒を吹き飛ばすように吐く。

これがボビー・シュー(註2)の教える「ヨーガ完全呼吸 Yoga Complete Breath」です。ボビーはこの呼吸法を、メイナード・ファーガソン(註3)から習ったそうです。メイナードは、インドでヨーガ行者から完全呼吸を学び、それを管楽器演奏用にアレンジしたとか。

この呼吸法の第4ステップでは、へこませた腹を「アイソメトリックに」ロックする。つまり表面的な動きはないけれども、ギュッと固定するということです。 

「この呼吸法を、1日に60回ずつ練習し、最低でも21日間(3週間)続けること。はじめは6つのステップに分けて、鏡で動きを確認しながら練習する。だんだんステップ間のすき間をなくし、なめらかな一連の動きとする。
最初のうちはゆっくりと行ない、徐々にスピードを上げていく」と、ボビーは指導します。

<本来のヨーガ完全呼吸>

本来のヨーガでいう「完全呼吸」とは、

  1. 腹部
  2. 胸部
  3. 肩甲部

の3つの部分を全部使ってする呼吸のこと。名前は「完全呼吸」と大げさですが、ヨーガの呼吸法の中では基本的なものです。もっとも、基本的というのは一番易しいということではなくて、一番最初に練習するべきという意味ではありますが。

ヨーガ完全呼吸のやり方は以下の通り(成瀬雅春著「呼吸法の極意」を参考にしました)。

  1. ゆっくりと息を吐いていき自然に腹部がへこむ。そのままさらに腹をへこませながら吐いていく。
  2. 吐き終わったら瞬間的に腹の力を緩め、ゆっくりと息を吸っていき、腹がふくらむ。
  3. そのままさらに胸を前に突き出す感じで胸郭を広げながら吸い込んでいく。
  4. 胸郭が広がったら、続けて肩を上げながらもう少し吸い込む。
  5. 吸い込み終わったら自然に2〜3秒止める。
  6. 腹をへこませながら息を吐いていく。
  7. 胸を元に戻しながら吐き、続けて肩を下げながら吐く。
  8. 腹、胸、肩が普通の状態に戻ったら、1.につなげて繰り返す。

<腹部の動きの違いに注目する>

ファーガソン呼吸を腹部の動きに着目して表現すると、「ふく・へこ・へこーへこ」となります(前三段は吸息で後段が呼息。止息時の状態は省略)。第1ステップ以外は、ほとんど腹をへこませた状態をキープするのが特徴です。

これに対して本来のヨーガ完全呼吸は、「ふく・ふく・ふくーへこ」である(前三段が吸息で後段が呼息。止息時は省略)。吸息の間じゅう、ずっと腹はふくらんだ状態で、呼息にともなって次第にへこんでいきます。

これが何を意味するかは、あとでまとめて分析するとして、次回はクラウド・ゴードンの「チェストアップ」について観察しましょう。

註1)アイソメトリックス(isometrics)
静的筋力トレーニングのこと。動かないものを動かそうとする抵抗運動を一定時間持続させ、それを繰り返すことで筋力を発達させる。腕ずもう、綱ひきなどもその一種。特殊な道具を用いずにどこでもだれにでも簡単にできる。【戻る】

註2)ボビー・シュー(Bobby Shew)
トシコ・タバキン・ビッグバンドやバディ・リッチ楽団で活躍した名トランペット奏者。【戻る】

註3)メイナード・ファーガソン(Maynard Ferguson)
「ロッキーのテーマ」「バードランド」などで有名なスター・トランペット奏者。【戻る】