<まま呼息の発見>

管楽器演奏の呼吸に関する考察

第2回


<一般に指導されている腹式呼吸>

まず、基本中の基本とされる腹式呼吸について考えてみましょう。ふつうはこんなふうに習うことが多いようです。すなわち、呼吸には胸式と腹式があって、前者は浅く後者は深い。腹式呼吸とは吸う時に腹がふくれて吐くときに腹がへこむ呼吸である、と。

さて、「腹」とはどこでしょう。「さあ、自分の腹をさわってください」といわれると、最近は、みぞおちの下、つまり胃のあたり(上腹部)をさわる人が多いとか。

でも、腹式呼吸でいう「腹」とは、そこではなくて、ヘソより下の部分(下腹部)をさすことが多いのです。武道や気功では、このあたりを「丹田(たんでん)」と呼んで、非常に重視します。

<管楽器奏者が実際に行なっている腹式呼吸>

吸息で下腹部がふくらみ呼息でへこむ、という腹式呼吸はもちろん存在します。けれども、吸息でふくらみ呼息でも下腹部がふくらんだまま、という呼吸も可能です。

前者を「ふくへこ(「ふく」らみ「へこ」む)」、後者を「ふくふく」と呼ぶことにすると、実際の管楽器演奏においては、「ふくふく」の腹式呼吸法を使っている人も相当数いると考えられます。両方を無意識に使い分けている奏者もおられるでしょう。

ふつう腹式呼吸といえば「ふくへこ」を教えられるにもかかわらず、演奏の現場では「ふくふく」になる場合が少なくないわけです。

ドイツ系のオーケストラ奏者には、「わき腹を張る」とか「ベルトを押すような感じ」で息(呼気)を支えるよう指導する人が多いそうですが、これなど「ふくふく」を意識的に勧めている具体例といえるでしょう。

ちなみに武道では「ふくふく」を丹田呼吸と呼んで(流派により呼び名は異なりますが)、集中的に練習するといいます。

<コントロールセンターとしての腹>

人体胸部の空間(胸腔)は、肋骨がまわりを囲んでいるため、構造上しっかりしています。けれども腹部の空間(腹腔)には腸などの内臓があるだけで、ぐにゃぐにゃです。構造的に柔らかく、弱く、空気が抜けたタイヤのような感じです。

そこで、このタイヤへ空気をパンパンに入れて、構造を安定させようというのが、腹式呼吸のひとつの目的だと考えられます。実際には腹に空気が入るわけではないので、横隔膜を下降させることによって、腹腔内部に圧力を加える。そして十分な「腹圧」が確保されると、体幹部つまり胴体は力学的に安定した構造となります。その安定した体で行なう運動(ここでは演奏)は、質の高いものになるというわけです。

つまり、腹式呼吸は、たくさん吸ってたくさん吐くだけのものではなくて、もっとトータルに運動を制御するための、コントロールセンターとしての「腹(腹腔)」を作るメソッドであるといえるのです。